森を探索、そして邂逅
書きだめが出来たのでこれから限界まで奇数日に更新します!。なるべく長く更新するには皆様の応援が力になりますので良ければブックマークの方よろしくお願いします!。
「…不味ったなぁ…まさかこんな平地に…低位だが竜種が降りてきているとはな。…」
街道から少し離れた林の中、1人の男が血の出る肩を押さえ、息を乱しながら身を潜めていた。その体には全身に泥が付き汚れている。
(…もう3日か。…ミリアには悪いことをした。あの子は言いつけを守り過ぎる。ちゃんとご飯を食べていればいいが。)
(誰かが訪ねてくる予定もなかった。なんとかミリアだけでも…。いや、待てよ、シャーリーが確か紹介したい男がいると言っていたな。…頼む、ミリアが力尽きる前に…。)
自分は頬もこけ、満身創痍だというのに男の頭の中は自分が育てる少女のことで一杯だった。
『…ガサガサ……バキキ…‼︎。』
「…ぐっ…来たか。泥を纏って臭いは消したつもりだったが…ふっ、血の匂いまでは誤魔化しきれんな。…ポーションも空か。もっと持ってきてれば良かったな。」
男が身を潜めている場所の近くで葉が大きく揺れる音と木が薙ぎ倒される音が響く。自分の命を狙うハンターはすぐそこまで来ている。
「…はぁ、はぁ、足掻いてやるさ…。さぁ、鬼ごっこの再開だ!。」
僅かな助かる可能性に賭けて男は林を逃げ惑う。自分を助ける為に2人の男女が向かっていることなど知らずに。
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「…うおっ!…なんか道から外れたら森みたいになってる!。」
街の外周の門を抜けて街道に出る。その道から少し外れると一帯が森になっていた。因みに道中の魔物はシャーリーが通りすがりに捻り潰していた。怪力怖い。これからからかう時には細心の注意を払うことにする。
「…おかしいのよ、いつもより魔物の気配が少ないのよ。ここはDランクの魔物が生息しているのよ。グリムやトレントの姿が見えないなんて…もしかするのよ。」
森の入り口でシャーリーが首を捻っている。蔵書院で見た資料にはグリムは犬みたいな魔物でトレントは木の魔物って書いてあった。
「…もしかって、ギルドを出る前に言ってたそれ以外の何かって奴か?。」
「そうなのよ、…この森の魔物、特にグリムは群で行動するのよ。だから…多少格上相手でも恐れず襲いかかるのよ。…森が静かすぎるのよ。」
「思ったより強い魔物がいる可能性があるってことか?。」
「うん、なのよ。Cランクぐらいだと思っていたけど……あんたは帰っていいのよ。まだ通用するレベルじゃないのよ。私がなんとしてもモリアさんを連れ帰るのよ。あんたはマスターに連絡して欲しいのよ。」
悩んだ末シャーリーが俺に帰れと告げる。付き合い始めて短い時間だがこの言葉の本当に意味ぐらいわかる。俺の身を案じてくれているのだ。だがここで帰る選択肢は俺にはない。
「…馬鹿なことを言うな。シャーリーを1人で残すぐらいなら相談に来てない。俺も森に入るぞ。」
「わ、私はあんたのことを…」
「分かっている。…それでも男には約束した以上やらないとならないことがあるんだ。」
「…勝手にすれば良いのよ。…ちゃんと私の後ろを歩いてくるのよ?。」
どうやら俺の帯同を許してくれたようだ。シャーリーは周囲を警戒しながら森に足を踏み入れる。その頭の耳も忙しなく動いている。
「…大きいのよ。木がなぎ倒されているのよ。…大体3メートルぐらいなのよ。」
シャーリーが指差す先にはぽっかりと空いた空間があった。巨大な何かが通った跡であるそれは森の至る所にある。
「…モリアさんがこの森にいるのは確定なのよ。逃げ回っているからこれだけ跡が残っているのよ。」
「…シャーリー!、これは…」
依然森の中を進む俺たちだがあるものを見つけてシャーリーを呼ぶ。俺が見つけた赤い水溜りに近寄ったシャーリーは顔を地面に近づけて観察する。
「…血の跡なのよ。それにこの粉は止血剤、…モリアさんは怪我をしてるのよ。でもこの血の乾き方は最近の物なのよ。だから…2時間前には生きてるのよ。」
「出血してるのか。…シャーリーならそんな時どうする?。」
これからの行動を決める為シャーリーならどうするか尋ねる。山で遭難した人を助ける時はパニックになった人がどう考えて動くのか予想するのが良いって本で読んだことがある。
「魔物は匂いを辿るものが多いのよ。これだけ血を流せば泥を被っても多分駄目なのよ。…だから、水場に行くのよ。水に浸かれば血の匂いはなくなるのよ!。」
シャーリーは自分ならどうするか答えを導き出す。
「この森の水場はこっちなのよ。」
シャーリーの先導で森を進んでいく。その途中途中で血痕がありシャーリーの考えが正しいことが証明されていく。そして水場が視界に入る。キラキラと輝く水面が眩しい。
「…ストップなのよ。…これは…」
シャーリーが歩みを止める。そしてある木の根本に駆け寄る。そこには1枚の白いカードが置いてあった。
「…モリアさんのカードなのよ。間違いなくモリアさんはこの辺りにいるのよ。そして…魔物も。」
「…なぁ、そのモリアって人は魔法を使えるのか?。」
「確か土属性の魔法を使うのよ。でもそこまで高位ではなかったのよ。」
「…土属性か。…倒せない魔物、出血、匂い。…ここにカードを置く意味はなんだ?。…そうか!、シャーリー、この辺りで地面の色が違う場所を探せ!。」
ある考えが俺の頭を過ぎる。もし当たっているならモリアさんの命は一刻を争う。
「?…何を言ってる…」
「そのモリアさんは土属性で地面に隠れたんじゃないか?。いくら血を水で流しても止まらない限り匂いは出る。水中にいれば出血多量で死ぬ。でも地中なら匂いも多少マシになるし姿も隠せる。もし誰かが救援に来た時のためにカードを置いておいたんだ!。そんで多分モリアさんはもう意識がない!。」
シャーリーに頭に浮かんだ推理を一気にまくし立てる。
「…っ、…あ、あそこ!色が不自然なのよ!。」
俺の推理を聞いたシャーリーは慌てて辺りを見渡す。すると一箇所黒っぽくなっている場所があった。
「…酸素のこともある。多分深くても50センチぐらいのはず。」
俺とシャーリーは駆け寄りその場の地面を掻き分ける。かなり硬かったがシャーリーの力のお陰でぐんぐん掘り進んでいく。そしていきなり穴がボコっと音を立てて崩れる。その下には空洞、そして人の顔があった。
「モリアさんなのよ!。…クラヒト、ポーションの用意をしておくのよ!。」
モリアさんを引き摺り出しながらシャーリーが指示を出す。俺はそれに従って持ってきていたポーションを並べる。
「出血は酷いけど息はあるのよ。これなら助かるのよ。」
地上に出てきたモリアさんの口元にポーションを流し込む。直前まで死人のようだった顔色に正気が戻る。
「…良かった、ミリアちゃんとの…」
ほっと安心した俺の頭上から影がかかる。忘れていた訳じゃない。でもほんの一瞬気を緩めてしまったんだ。
「クラヒト!危ないなのよ!。」
俺の後ろを見ながら叫ぶシャーリーの声が痛い程よく聞こえる。
「…デカ過ぎ。…ハードモードかよ。」
振り返った俺の視線の先には巨大なドラゴンがいた。