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初めての査定、ギルドのマスターはやばい奴

「遅かったのよ!。それでどうだったのよ?、どれだけショボくても私はちゃんと査定してあげるのよ。」

 日が暮れたあとギルドに帰るとシャーリーが酔っ払いを踏みつけながらそう言い放った。踏まれている冒険者は何故か嬉しそうだった。ケモ耳少女に踏まれて喜ぶ筋肉ダルマ。この世界は案外平和なのかもしれない。


「俺が帰ってくるのを待っててくれたのか?。シャーリーは優しいなぁ。」


「ち、違うのよ!。仕事だからなのよ!勝手に調子に乗るのはやめるのよ!。」

 ツンデレのデレの部分を見せたシャーリーの頭を撫でようとするがその腕は空中で撃墜される。どうやらまだナデナデは許してくれないようだ。隙をついて触るしかない。


「早く結果を見せるのよ!。私に残業させる気なのよ?。」

 シャーリーがそそくさと反対側の席に向かう。やっぱり俺を待ってくれてたんじゃん、と思ったが野暮な事は言わず俺も席に着く。そしてアリアさんがくれたズダ袋に入れておいた魔石を取り出す。


「はい、これ。スライムの魔石が10個にゴブリンの魔石が8個。」


「…思ってたより多いのよ。アリアちゃんが手伝ったのよ?。」


「いや、そんな事はない。これは全部クラヒトが狩った分だ。クラヒトは思ったより冷静に魔物を狩っていた。腰は引けていたがな。」

 俺が出した魔石が想像より多かったらしくアリアさんが手伝った事を疑うシャーリー。しかしそれをアリアさんに否定されて渋々受け取ってくれる。まぁ行く前は10個ぐらいで良いと言っていたからな。


「ふーん、結構頑張ったのよ。でもこれだけだと生活していくのは少し苦しいのよ!。明日からもしっかり稼ぐと良いのよ。あと、早くカードを出すのよ。入金でいいのよ?。」

 一通り魔石を確認したシャーリーが褒めてくれる。明日からもって事は一応認めてくれたって事で良いんだろうか。相変わらずこのツンデレは可愛いぜ、と癒されているとカードの提示を求められる。確かに手持ちは昨日下ろした金があるし素直にカードを渡す。


「はいよ、今日の分でいくらになる?。」


「計算もできないのよ?。全部で銀貨5枚に決まってるのよ!。…その顔試したのよ?。ギルドの職員を甘く見るのはやめるのよ。マスターに言い付けるのよ?。」

 試しにシャーリーがちゃんと計算できるか聞いてみたけど怒られた。せっかく近づいた心の距離(多分)がまた離れてしまった。


「なぁ、ずっと言ってるそのマスターってどんなひとなんだ?。昨日も今日も見てないんだけど。」

 このギルドには受け付けの女の人とムキムキの冒険者、あと地面に横たわる酔っぱらいしかいない。…まさかこの前の床に寝転がっているのがそうなのか?。


「…?、マスターはずっとそこにいるのよ。マスターは私を助けてくれた命の恩人なのよ!。」

 シャーリーが誇らしそうにマスターを紹介する。だけどごめん、俺には何も見えない。なんかデジャブだ。幽幻の虜の店主みたいな感じなんだろうか。


「…っ‼︎。…なんだこれ…!。」

 次の瞬間、俺の体に寒気が走る。そして体中から一気に汗が噴き出す。この感覚は魔族が出現した時と似ていた。違うのは圧力はあっても殺気は感じないことぐらい。頭のなかで六芒星が浮かび上がる。ゴブリンとの戦いでは浮かび上がらなかった。だから最低条件は俺が命の危機を感じる事なんだと思う。それが発動している。なんだ、何が起こった?。


『…ポン…』

 肩に手が置かれる。間違いない、俺が脅威を感じているのはこの手の主だ。振り返ると同時に神速を発動するべきだ。そう覚悟を決めた瞬間、


「僕がこのギルドのマスターのケレンです。僕は知っているけど君からは初めましてだよね。」

 明かされる正体。俺は震えながら振り向いた。そこには眼鏡をかけた優男が立っていた。


「…このプレッシャーはあんたのか?。」


「えぇ、そうです。意図的に向けないと気付いて貰えないので。」

 男、ケレンから放たれていた圧力が消える。ほっと肩の力を抜いた俺は改めてケレンを見る。茶色のクルクルした髪、優しげな顔、中肉中背の体。本当にさっきまでの圧力を放っていた男なのかと疑問に覚える。


「アリアさんもご無沙汰しております。僕が不在だったばかりに貴女と彼に負担をかけてしまったようで申し訳ありませんでした。」


「確かにケレンさんが居てくれたらあのような魔族に遅れをとるような事はなかったかもしれません。」

 ケレンさんから声をかけられたアリアさんがそう返す。それはこの男がそれだけの強さを持っていることを表していた。全然そんな風に見えないが…さっきまで存在を感じることが出来なかったのが引っかかる。


「いやー、王都に呼ばれていたのですいません。ローゼリア様が慌てて帰還されてすぐに単身で向かったのですけれどね。…重ね重ねありがとうございます。」


「なぁ、ケレン…さんのことを昨日と今日この時まで気づけなかったんだけど、それはなんでなんだ?。…スキルか?。」


「ふふっ、本当に初心者なんですね。人にスキルを気軽に尋ねるのはやめておいた方が良いですよ。スキルは人によっては最大の隠し球ですから。それと僕のスキルはもっと物騒なものですよ。」

 気になったので聞いてみたらやんわりと注意された。確かにそうだよな、スキルなんて持ってる奴が少ないし効果はエグいのが多い。最後の手段にするのが普通か。…待てよ、何も解決してないぞ。さっきまで知覚できなかった理由を知りたいんだが。


「ケレンさんは現役のSランク冒険者なんだ。誰もがその存在から目を背けたくなる程の生命力を持っているからな。無意識に認識を拒んでしまうんだ。だから明日クラヒトが探しても発見出来ないと思うぞ。」

 アリアさんが答えてくれた理由は思ってたよりヤバい理由だった。存在を認めたくないぐらい強いってことだろ。やばくね。


「ギルドのみんなやBランク以上の冒険者は大丈夫なんだけどね。だから僕に用があったら早く強くなってね。…と言っても君は一瞬僕を自力で認識出来るぐらいに高ぶっていたけどね。あれは…聞いちゃダメだよね。」


「マスターは強くて優しいのよ!。このギルドの職員は殆どマスターに恩を感じているのよ!。」

 シャーリーがケレンさんの腰にじゃれつく。ケレンさんはその頭を撫でて…羨ましい!。


「ははっ…、僕としては無理にここで働かなくても良いと思うんだけどね。…じゃあ仕事に戻るよ。」

 シャーリーの言葉を苦笑いしながら諫めるケレンさん。そしてギルドのカウンターの奥へと向かい席に座る。…マジであそこが定位置なんだろうか。明日になったらいるって分からないって…信じられないな。


「やる事も終わったし私も帰るのよ。あんた達も用がないならさっさと帰るのよ。」

 ケレンさんが居なくなって平常運転に戻ったシャーリーが帰り支度をする。


「やっぱり俺のこと待ってたんじゃん。…あ、」


「待ってなんかいないのよ!。」

 一度心の中に留めた言葉がぽろっと出た。シャーリーは怒った。

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