魔法を使う準備、向いてないみたい
翌日俺は早速ギルドに行こうとしたがアリアさんに嗜められる。
「待て待て、クラヒト。先ずは魔力を認識するんじゃなかったのか?。」
アリアさんの言葉で昨日の約束を思い出す。なんだかんだ冒険者になれることを楽しみにしていたのようで完全に頭から消えていた。
「完全に忘れてました。それじゃあお願いするよ。」
…実は最近アリアさんとの距離感を計りかねている。タメ口で良いのか、敬語ですべきなのか。俺は基本的にはタメ口で話すんだけどアリアさんは貴族だから少し迷う部分もある。
「…ううんっ、…あー、クラヒト。私には敬語は必要ない。お前には命を救われている。そんな相手に敬語を強要するほど私も馬鹿じゃないからな。それにさん付けも必要ないぞ。」
俺の心配はズバッとお見通しだったようだ。
「…えーと、分かった。でも俺女の人を呼び捨てにするのに慣れてないんだ。だから当分はさん付けでいかせてもらうよ。」
現役の童貞には女性を呼び捨てにするのはハードルが高すぎる。なんでリア充共はあんなにすぐに打ち解けれるかマジで謎だったからな。
「あぁ、それで構わない。慣れたら呼び捨てにしてくれよ。…そこで背中を見せて座ってくれ。魔力を流す。」
慣れたらか、…そういえばアリアさんっていくつなんだろうか。そもそも歳上を呼び捨てになんて出来ないよな。いや、歳下でも厳しいけど。具体的には2個下まで厳しいな。中高で同じ学校にいる範囲。それより下なら出来ない事はない。シャーリーとかは余裕だし。って背中を見せるんだったな。
「…こうでいい?。服全部脱いだ方がいいかな?。」
服を捲り上げて背中を出したけど脱いでしまった方が良かっただろうか。
「いや、そのままでいい。むしろそのままがいい。…じゃないと集中が途切れるかもしれない。」
後半はなにを言ってるか分からなかったけどこのままで良いらしい。アリアさんの少し冷たい手が俺の背中に触れる。
「…っ、…柔らかっ、…」
アリアさんの手は思っていたより柔らかかった。冒険者だしもう少し硬いと思っていたが。
「それではこれから魔力を流すぞ。何か分かれば言ってくれ。」
アリアさんが手に力を込めたのがわかる。それは分かるんだけど…。
「……………。」
まずい、何も感じない。実はこれ魔力流してると思ったら流してなかったドッキリだったとしても納得出来る。
「まだ分からないかクラヒト?。それなら少し流す量を増やしてやろう。」
そう言ってアリアさんが両手を背中に当てる。
「…おっ、…これは…」
きたきたきたぁ‼︎。来ましたよ皆さん、遂になんか感じるようになりました!。だけど流れとかは感じられない。なんかアリアさんの手が暖かいのが分かるだけだ。
「…どうだクラヒト、何か感じれたか?。」
「うん、なにかは感じる。けど流れとかは分からない。」
あの本の感じでは魔力を流して貰えれば理解できる、みたいに書いてあったのに。…嫌な予感が頭をよぎる。
「そうか、…だとするとお前はあまり魔法の才能がないのかもしれん。続けていけばわかるようになるとは思うがあまり強い魔法は使えないかもしれないぞ。」
やっぱりそうかぁ。いきなり暗雲が立ち込めてくるなぁ。ハードモードだぜ、Bランクの転生の予定じゃなかったんですかぁー!。七つの顔を持つ男に能力を振りきってるのかも。
「…はぁ、じゃあ何か武器の訓練をしないといけないな。」
遠距離特化への道は絶たれた。ならば接近戦に重きを置くしかない。痛いのは嫌なんだけどなぁ。
「案ずるな、クラヒト。戦闘訓練なら私が教えてやる!。それに魔法だって使えない訳ではないんだ。少しづつ出来ることを増やしていけばいい。幸いお前は懐に多少余裕がある。良い武器を揃えても良いし、訓練に期間を費やしても良い。…それに…私もいる。お前の今の状況は悪くない。」
落ち込む俺をアリアさんが励ましてくれる。なんかアリアさんがいるってことを2回言ってた気がするけどとても頼りになる。このままでへ俺はアリアさん無しには生きていけない体になりそうだ。
「…そっか、うん、なんかやる気が湧いてきた!。ギルドに行こう!、依頼ってどんなのか見てみたい!。」
男というのは単純なもので元気を取り戻し当初の予定通り、ギルドへと向かうことにする。
「基本的には魔物の討伐などがあるな。だが他にも街の住人からの依頼などもある。何も戦うことだけが冒険者の生き方じゃないんだぞ。」
アリアさんと話ながらギルドに向かって歩いていく。…はて、何か忘れているような気がするが…なんだっただろうか?。
「…でも俺のランクで受けられる依頼ってぇぇぇぇぇーーー!。」
ギルドの中に入った俺をもの凄い衝撃が襲う。具体的には鳩尾の部分。俺は耐えきれずにその場に膝をつき蹲る。俺の身に一体何が起こったというのだ!。
「よくも顔を見せれたのよ。あんたはそうやって地面に跪いているのがお似合いなのよ!。」
蹲る俺の頭上から声がする。そして俺は自分がなにを忘れていたのかを思い出す。昨日最後に目の前のケモ耳少女をからかったのを忘れていたのだ。このまま攻撃はその仕返しが濃厚である。股間を狙わなかったのはせめてもの優しさか。
「本当は股間に攻撃しようと思ったけど気持ち悪いからやめておいたのよ。感謝すればいいのよ。」
そんなことはなかった。俺の股間は命拾いしたらしい。未使用のまま機能不全になることがなくて本当に良かった。こればっかりは感謝してもいいかもしれない。
「早く立つのよ、Fラン冒険者。私も暇じゃないのよ。」
だがいつかその頭の耳をワシワシしてやるからな。俺は心にそう強く刻み込んだ。