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幽幻の虜

 ケモミミ少女のシャーリーと多少の蟠り(自業自得)を残したのは残念だがアリアさんと一緒にご飯を食べに行く。この世界のご飯は基本がパンと干し肉と何かの汁が基本で不味くはないが美味くもない。少し味が薄い気がする。化学調味料に調教されたこの舌に問題があるんだろうけど。


「今から行くのはコーラルの中で私が1番気に入ってる店だ。一見さんお断りの店なんだぞ。クラヒトの為に予約したんだ。」

 貴族の娘であるアリアさんがお気に入りの店か。一見さんお断りの店なんて日本では行ったことない。緊張するな。…高い店だったらどうしよう、そういう店ってドレスコードがあったり…でもアリアさんも普通の服を着ているし。俺が頭の中でごちゃごちゃ考えているとアリアさんはドンドンごちゃごちゃした道に入って行く。俺の頭の中がごちゃごちゃなのか視界がごちゃごちゃなのかごちゃごちゃになる。


「…ここだ!、『幽幻の虜』。」

 アリアさんが止まって嬉しそうに案内する。本当にいい笑顔だよっぽど美味しい料理を出すんだろう。だけど俺の目が腐り落ちたのか、そこには何も見えない。いや、マジで見えない。その空間だけすっぽりと何もない。両隣の区画には店があるのに。


「…あの、アリアさんって幻覚見えたりしてます?それか俺のリカバリーが不完全だったとか。」


「………?。……あ!そうか、あぁ、まだクラヒトに見えてないのか。すまない、久しぶりの来店で失念していた。」

 俺の発言を聞いて不思議そうな顔をしたアリアさんだが何かを思い出したようにぽんっと手を打つ。そして何もない筈の空間に向かってまるで引き戸を開けるような仕草をとる。新手のパントマイムかってぐらい自然な動き。そしてそれ以上の衝撃的な出来事が起こる。


「…え、えぇぇぇぇぇぇ‼︎。嘘、さっきまで何も…。こんな物を見逃すはず…、、。」

 なにもなかったはずの空間には立派な店が出現していた。大きな看板には『幽幻の虜』の文字。外装は中華チックで派手派手しい。マジでこんな存在感が凄い建物を俺はなんで見逃していたんだ。真剣に自分の目が信用できなくなる。


「はっはっは、クラヒトそんな顔をするな。言っただろう、一見さんお断りだって。この店は存在を認識した者が店のドアを開けた時、同伴の意思がある者にだけ姿を見せるんだ。」

 …いや、それ一見さんお断りの意味が違う!。そもそも一見さんは見つけれないじゃん!。断り方まで異世界間抜群だ。まず姿を見せないんだもんな。


「さぁ、入るぞクラヒト。美味しいご飯が待ってるぞ。」

 俺の動揺をよそにアリアさんは中に入って行ってしまう。…これ、存在知らない人からしたらどう見えてるんだろう。


「…気にしたら負けだな。魔法だもんな。」

 俺は自分を納得させ店に入る。実はこの店を認識した時から良い匂いが漂ってきていた。匂いまで一見さんお断りだったらしい。


「へい!らっしゃい!。お、兄ちゃんがアリアの良い人かい?。…うーん、中々細いな。もっと飯食わないとだめだぞ!。」

 店の敷居を潜った俺に威勢のいい掛け声が飛んでくる。着物みたい服を着た禿げあがったおっちゃんだ。…多分人間だと思う。あと大将っぽい。


「どうも初めまして、クラヒトと言います。」


「ほぉー、礼儀は正しいようだな。合格だ、この店の料理楽しんでいってくれ。」


「クラヒト、席はこっちだ。」

 促されるままアリアさんの隣に座る。他に客はいない。


「お任せで頼む。…あとはビールと…クラヒト、何を飲む?。」


「俺も同じのでお願いします。」

 アリアさんに飲み物を尋ねられたので同じ物をと伝える。さぁ、禿げあがった店主よどんな料理を出してくれるんだ?。


「はい、かしこまり!。注文入りまーす!。お任せ2人前!。」

 注文を受けた店主が大声をあげる。そして…何もしない。…え、なんかこう、動けよ。


「…出来た。」


「了解です!。」

 全く動かす腕を組んでいる店主に向かって不審な視線を向けていると店の奥から声がする。その後声を聞いた店主が奥に下がり戻ってくるとその手にはオボンの上に乗せられた料理とビールがあった。…まさか、


「…ねぇ、アリアさん、あの人店主じゃないの?。」


「ん?あぁ、あいつはただの小間使いだぞ。この店の料理長兼店主は極度の人見知りなんだ。だから人前に姿を現すことはない。」

 小間使いかよ!、それなのにあんな粋な料理人みたいな口調ってどうなってるんだよ。


「さぁ、食べてくれ。」

 店主改め小間使いの男が料理を出してくる。だからなんでそんなに偉そうなんだ。そんな疑問も料理を一口食べると消えていた。


「…美味い。…なんだこれ、今まで食べたことない味。」

 出てきたのは野菜炒めのような物だったのだが野菜の味が凄い。シャキシャキで歯応えも心地良い。


「そうだろ、そうだろ。うちの料理は美味いだろ。」

 だからなんでお前が…以下略。ビールとの相性も良い。どんどん進む。アリアさんも美味しそうに食べて飲んでいる。


「良い食べっぷりだ。お頭!久し振りに気持ちの良い客ですぜ!。」

 小間使いの男が奥に声をかける。それに呼応するように次々と料理が出てくる。見たことのない肉を使った料理やこの世界で初めて見る魚介類の料理など素晴らしい料理の数々。


「…ふー、…どうだクラヒト、満足したか?。」


「えぇ、勿論ですよ。こんなに美味しい料理始めて食べました。」

 俺とアリアさんは出てくる料理を食べ続けた。転移してから俺は食べる量が増えている。体に力を貯めているんだと思う。それはアリアさんも一緒だろう。


「お前ら本当によく食ったな。お頭もすごく喜んでいる。これはサービスだってよ。」

 小間使いの音が奥からアイスのような物を持ってくる。喜んでるってあれか、美味そうに食べる人を見るのが好きってやつか。


「お頭はお前らが魔族を撃退したことを知ってる。助かったってな。いくら見えないようにしてても魔物が雪崩れ込んだら店は終わりだった。」


「その礼として今日は貸し切りだったのか?。」

 アリアさんが尋ねる。あぁ、今日他に人がいないのってそういうことだったのか。


「あぁ、そういうこと。お頭は不器用だからな。こんなやり方しか出来ないんだよ。」


「お代も遠慮したいとことだけどそれはお前が許さないだろ。」


「当然だ、そもそもこの命を賭けたのは貴族として当然のこと。お代までまけてもらっては私の恥になる。」


「へへ、アリアのそういうところがお頭が気に入っている理由だよな。んじゃお代はもらってくぜ。」

 アリアさんが赤いカードを出す。さっき言ってた

 カードの支払い機能を使って精算する。幾らだったかは分からなかった。…値段を聞かず払うってカッコ良すぎない?。


「よし、クラヒト。次は蔵書院だ。」


「また来てくれ、待ってる。…ってお頭が言ってたぞ。」

 俺は大満足で店をあとにした。

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