街に出よう、実は転移して来てから初の散策
魔族とかいう奴を撃退してから1週間が過ぎた。後から聞いた話なんだけど倒れた直後の俺の体は内側からズタズタになっていたらしい。心当たりは抜群にある。あの高速移動だ。体への負担が大きすぎる。日本で平凡に暮らしていた俺の体ではあれがハード的にも限界だったんだろう。…鍛えないといけないな。
「…うーーーーん、…よし、体はもう大丈夫か。」
治癒師の人の全快のお墨付きを得た俺はやっと1人での行動が許された。今日はこの街を見て回るつもりだ。転移して来てから初めて街の中を見てまわれる。そう考えたら凄いな、1ヶ月ぐらいいたのに街の名前も知らないなんて。アースハイドってことしか知らない。でもそれは地球と同じくらいの感覚だと思う。知識だな、知識が必要だ。
「クラヒト、良くなったのだな。今日は約束通りこの街を案内してやる。これでもこの街を拠点に活動している冒険者だからな、中々に詳しいぞ。」
これからのことを考えているとアリアさんが入ってくる。アリアさんの目は青いままだ。ある程度貯まらないと変化はしないらしい。
「…その前に…この街の名前って…聞いてもいい?。」
「…本気か?街の名前を知らない?。…うーん、やはりお前は不思議な男だ。まぁ、良いだろう。この街の名前はコーラルだ。商会もギルドも揃っているし色々な場所に行く中継にあたる場所だから利便が良いんだ。」
…コーラル、…英語なら珊瑚だったよな。関係ないか。
「それでどこか見たい場所はあるか?。」
「…本を読める場所はありますか?。あと地図も。」
聞いてはみたが本があるかはかなり怪しいと思う。紙が安定的に生産されたのは地球ではかなりあとの方だ。かなり重要な書物とかにしか使われていない可能性はある。
「あぁ、あるぞ。それなら散策しながら蔵書院へ行こう。そこなら本が読み放題だからな。今なら空いているだろうし。」
あるんかーい!。普通にあるっぽいな。それに今の感じだと識字率も普通に日本ぐらいはありそうだ。
「案内お願いします。」
「任せろ、早く用意を整えろよ。」
…用意…。俺はあることに気がついた。
「…あ、俺外に着ていくような服がない。ここではこれで良いだろうけど。」
俺が今着てる服は入院着みたいな服だ。俺の元着ていた服は…多分戦闘で破れちゃったのかなぁ。死ぬ前から着ていた服だったのになぁ。
「あぁ、お前の服か。あれは凄いな。マジックアイテムだろ。もう復元されているぞ、ほら!。」
悲しみに暮れる俺にアリアさんが棚から服を取り出してくれる。その手には俺と共に冥土で1年以上の時を過ごした服が握られている。
「…また会えるとは思っていなかった。」
マジックアイテムという聞き慣れない単語は引っ掛かったが今は再会を喜ぼう。今着ている服を脱ぎ早速着替えることにする。
「…お、おい!クラヒト!。人前でいきなり服を脱ぐな!。」
おっと…あれ?ヤバくね。Aランクの激強み冒険者の前で上裸の俺。…まず重傷は免れない。慌てて俺は防御の体勢をとる。とにかく頭を守れ、そして……くっ、六芒星は発動しない。
「…………あれ、…なんで…」
3秒後にまだ意識があることにびっくりして目を開ける。
「……じぃぃぃぃぃぃぃ…。」
俺の視線の先には目を手で覆うアリアさん。どうやら攻撃に回す腕が足りなかったらしい。だけど何故だろう、目の防御に回したはずの手のひらに隙間が空いているのは。ばっちり見えているんじゃないだろうか。
「…ん、んん!。…さぁて、着替えようかな。あ、アリアさん今から下も脱ぐので…」
勿論そこに突っ込む俺じゃない。そうすれば今度こそ命はないだろう。出来るだけ自然にアリアさんに退室を促す。
「わ、わ、分かった。では外で待っている。まったくすぐに手で目を覆ったから何も見えなかったが気を付けろよ。すぐに手で覆ったらからだぞ。覆ったぞ。」
明らかに言い訳をしながら部屋をあとにするアリアさん。パタンっとドアが閉じる。
「…ふぅー、…あまり深く考えるのは辞めとくか。さっさと着替えよ。」
俺だけになった部屋で勢いよく下のズボンみたいなやつを降ろそうとする。だがそこで頭に何かがよぎる。…ピキーン!。アリアさんに天眼使われたら覗かれ放題じゃね?。
「……気にしたら負けだ。」
スムーズに着替え終わった俺は何故か目が赤くなっているアリアさんと合流して街に繰り出したのだった。ほんとなんでさっきまで青だった目が赤くなったんだろ(棒読み)。