廻る力
「…そんな…。だ、誰か!。誰でもいい!早くアリアさんを!。腹に穴が開いている!。」
アリアを見た俺は完全に我を失った。だってアリアさんの体は傷だらけでそして何よりもそのお腹には穴が開いている。顔も血の気が引いている。
周りにいる治癒師に片っ端から声をかけて集まってもらう。だが返ってくる言葉は良くないものばかりだった。既に治癒師の魔力も限界。軽傷を治すので精一杯だと。今この場にはこの傷を治せる者はいない。そして王女様の援軍が来ても治癒師は更に遅れるだろうと。
「…アリアさん、アリアさんはAランクなんだろ。俺のことをずっと見てるって言ってたじゃん。…なのに…」
まだ出会ってそんなに時間は経っていない。だけど…涙が目から零れ落ちる。自分でも気付いて無かったけど…俺は知り合いには優しいらしい。
「…すいません、俺、何もしてないのに。」
声をかけた治癒師の人達に頭を下げる。この人達は懸命に冒険者達の命を繋いでいる。そして冒険者達は魔物が街に入るのをまさに命を賭けて防いでいる。
(…俺は…無力だ。…平和な日本で育った俺に与えられた能力。…頼む…今、使えないなら…そんな能力俺は要らない‼︎。)
今まで生きていてここまで願ったことはない。もしこれで叶わないなら俺がこの世界に来た意味がない。
「…ははっ、…そんなに甘くないか。」
俺は主人公でもなければ物語の主役でもない。…だから何も起こらない。
「…アリアさん。…ごめん。」
頬を伝う涙がアリアさんの体に落ちる。その時望んでいた異変が起きた。
『カチッ』
何か歯車が回るような音。そしてその瞬間理解する。今自分が手に入れた力のことを。
「…まさか本当に?…頼む。今は…それでも縋るしかないんだ!。」
頭の中で展開される術式。効果は理解している。でもこれが俺の幻覚だとすれば?。望みは再び砕かれる。それでも俺はアリアさんの手を包み込むように握りしめた。その力を溢さないように。
「クラヒト様?…その光は…。」
アリアさんの手を握っているとラスターさんが異変に気づく。俺の体を中心として大地が枯れひび割れる。そして俺の体に光が灯りそれが腕を通してアリアさんの渡っていく。
『天癒 リカバリー』
それが俺の頭の中に浮かんだ言葉。その効果は自然治癒力の激増。俺が触れている物から奪った回復力を他者に渡すことが出来る。その力をアリアさんへ移した。
「…うっ…………」
それまで動かなかったアリアさんが呻き声をあげる。俺の天癒はあくまで自然治癒力を上げるだけ。そこからはその人の生きる力が大事になる。
でも俺は確信していた。アリアさんなら大丈夫だと。
「…まさか…傷が塞がっていく。」
ラスターさんが驚きの声をあげる。そりゃそうだろう。アリアさんのお腹に開いた穴がグチュグチュと音を立て確実に塞がっていくのだから。
「クラヒト様、貴方の力は一体…。」
「アリアさん俺いくよ。」
アリアさんの顔色が落ち着いたのを見た俺は立ち上がり背を向ける。
「…⁉︎クラヒト様⁉︎一体どちらへ!。」
「さっきゴードンが言ってました。アリアさんが前線の指揮をとっていたからここは保っていると。そのアリアさんがいなくなった今ここも危ない。」
「…そうですか。そうですよね。貴方はここに留まる理由がありません。寧ろ今までよく働いてくれました。王女様には私から伝えておきます。…お元気で。」
俺の言葉を聞いたラスターさんはどうやら俺がこの街を捨てて出て行くと思ったらしい。…まぁ確かに俺がここの街に残る理由なんてないし逃げるべき。って日本にいた頃の俺なら思ったんだろうな。あの頃は人との関わり合いを避けていたから知らなかった。…繋がることの大切さを。そして…それが脅かされ事の恐怖を。
「…俺がこの街を守る。」
あの時、天癒が発動した瞬間俺の頭にはあの六芒星が浮かんでいた。天癒はその一角だった。その両隣の頂点にある能力も俺には見えた。そしてそれは…戦う為の力だった。
「…すー、はー、…集中しろ。俺には確かに見えていたんだ。左隣の頂点の能力が。」
一瞬見えたその能力。それを呼び起こす。もうただ守られるだけじゃダメなんだ。…俺の大切なものを脅かすものは…倒す。
『…カチッ』
六芒星が廻る。そして俺が望んだ点が発動する。
「……これが…敵を倒す刀。」
俺の手には柄も鍔も刀身も全てが黒い刀が握られていた。