届いた凶報
『ふはははっ!、人間よ。まだ堪えるか!。面白いこれが上位の人間なのだな。まさか魔物達を相手に2日間戦い続けるとはな!。』
「…っ、はぁはぁ…煩いわよ。あんたと話す体力が勿体無い。…そこはダメ!前線を少し下げなさい!。…それとあんたはもう下がって治療に行きなさい。」
魔族との戦いの前線は瓦礫と血で混沌としていた。そこら中に人と魔物の死体が転がりそれを踏み越えて戦う。人間側の中心にいたのはAランク冒険者のアリアだった。その身に纏った鎧はボロボロで身体中に切り傷ができ血を流している。それでも全体に指示を伸ばし戦線を維持していた。
『だがもう限界なのだろ。貴様のスキルは確かに珍しい。乱戦では大きな力を発揮するだろう。しかしその駒がもういないのだよ。』
『それに引き換えこちらはいくら倒されようが関係ない。無限の闘争の果てにお前らは朽ち果てるのだ。』
「…はぁ、はぁ…(もう天眼を維持出来ない。…そうなれば…すぐに綻びが生じる。あと1日…この眼無しで…)…この身が砕けようとも…血の一滴まで…この国の民の為に!。」
アリアの瞳は赤色から青へと変わっていた。そして目からは血を流し無理やり魔力を込める。すると僅かだが瞳に赤さが戻る。
『…ほぅ、まだその眼を使うか。…だが良いのか?。あまり使い過ぎると光を無くすのだろ?。』
「ここで負ければ命を失くす。それも私だけじゃない、多くの民とここにいる勇敢な者達のものもだ。ならば…この眼の一つや二つ…安いものだ。」
アリアはそう吐き捨てると改めて周りに檄と指示を飛ばす。層が薄くなっている所に人を集め怪我人を退かせる。そして後陣から復帰してきた冒険者達の割り振り、なりより1番ヤバい魔族の注意を引き付ける。その全てをこなすアリアの疲労はピークに達していた。背後から湧き上がるドス黒い魔力を纏った影に気付かないほどに。
「…アリアさん!後ろ!。」
他の冒険者の叫びが響く。
「…がっ‼︎……がはっ………ぐぐぅ……」
心臓を狙って放たれた影による攻撃。それをギリギリ躱したアリア。しかしその影はアリアの腹部に穴を開けていた。滴り落ちる血。すぐにそれは血溜まりへと変わる。
「…そんな…おい!アリアさんを守れ!。この人がいたからここまで耐えれた!。みんな命を張るんだ!。」
「俺達が血路を開く!。後ろに退かせろ!。」
「魔法を使える者は魔族に撃ちまくれ!弾幕を張るんだ!。」
魔族の放った凶刃に苦悶の表現を浮かべるアリア。それに気づいた冒険者達は即座にアリアの後退の援護に入る。彼らも自分たちがここまで魔物と戦えてこれたのはアリアのお陰であると理解しているのだ。
「…私に…構うな。…魔物を一体でも……倒すんだ。………」
今度こそ完全に瞳の色が青になったアリアが自分を支える冒険者達に途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「…だめだ!あんたは絶対に助ける。おい!早く後ろに下げろ。いいか、絶対に死なせるな。」
「….すまない。」
その言葉を最後にアリアは意識を失った。
「怪我をしている人はこっちに来てください。軽い怪我ならラスターさんが治します。」
俺はこの2日間自分の不安を掻き消すかのように働いた。休むように言われたが目が冴えて眠れない。アリアさんが1番危険な前線で体を張っているのに安安と眠れるものか。
「すまんなクラヒト。俺もこの体が動けば…」
ゴードンが俺にすまなそうに声をかける。確かゴードンは元Sランクの冒険者だったな。でも怪我をして引退したんだったけ。魔法がある世界で引退しなゃいけないほどの怪我ってどんなのだよ。
「あんたは後ろの総指揮をとってる。更に前に出ろとは言わねーよ。」
俺なんかもっと役に立ってない。
「今はアリアがなんとか前線を維持しているらしい。あと1日、あと1日で援軍が来るはずなんだ。それまでなんとか…」
王女様が援軍を連れてくるまであと1日。なんとか持ち堪えて欲しい。だがそんな希望は突然の叫び声で打ち消される。
「大変だ!天覧が大怪我を負った!。早く治癒師は来てくれ!。」
一際慌てた叫び声。今まで怪我人は沢山きたがここまで慌てた事はなかった。
「…なんだと!。まさか…くそっ!、おい俺が前にでる!。武器を持って来い!。」
その叫びを聞いたゴードンが顔色を変え部下に武器を取りに行かせる。
「…は?あんた、怪我でもう戦えないんじゃ。」
「誰かが指揮を取らねば前線は崩壊する。アリアはそれが出来た。」
「……今アリアって言った?。」
「お前アリアの二つ名を知らんのか。天覧はアリアの事だ!。つまりアリアが重傷を負ったんだ!。」
それだけ言うとゴードンは走り去っていく。だが俺にはそんなことはどうでも良かった。
「…アリアさんが…」
俺は運ばれてきた冒険者の方は走っていく。そしてそこで見たのは腹から血を流し意識を失っているアリアさんだった。