新居での戸惑い
各自の部屋で荷解きを行う事になった。と言って俺自身の荷物はそんなに多くはないし、寝具などははローゼリア様達が設置してくれている。ものの30分ほどで終了してしまった。
「…やる事ないな。男の引っ越しなんてこんなものだよな。」
日本にいた時とは違いサブカルのないこの国ではそんなに場所を取る趣味というのがない。この部屋で寝具以外で最も多くスペースを割いているのは…
『…クゥ………パンパン!。』
白雪の寝床だろう。白雪は自分の影からロッキングチェアのような揺れる機構を持った寝床を取り出す。マーベルさんに作ってもらったその寝床を白雪は愛用しており、俺の隣で寝ない時には必ずそこで寝ている。軸は丈夫な木材で作られていてその上に上質なクッションが敷き詰めてある。更にそのクッションは部分によって硬さが違うのでその時々で様々な体勢で寝ているのを見かける。
『………………ク!。』
部屋の中を歩き回り一通り確認した後寝床を設置した白雪。日当たりを確認していたようだ。ゆらゆらと揺れる寝床の上で眠り始めた。今からは特にすることもないので寝かしておいてあげよう。
「…な、なんなのよ!これーーー‼︎。」
事件性のある叫び声。シャーリーの声だ。慌てて部屋を飛び出す。白雪も飛び起きて影に潜ってしまった。
「どうした!シャーリー!。」
叫び声がした方向を向くがシャーリーの姿が見当たらない。
「…く、クラヒト⁉︎。…そ、そのトイレの中から水が吹き出して…」
……あー、…はい、そうですね。説明するのを忘れていました。シャーリーはトイレの中。説明するには出てきたもらわなければならない。
「…えーと、こほん。シャーリー、それは特に害がある訳じゃないんだ。…今は大丈夫?。」
「…ちょっと待つのよ。………もう良いのよ。」
シャーリーがトイレから出てくる。…が服がびしゃびしゃになっている。どうやらウォシュレットの水を座る前に浴びたようだ。
「…着替えてくるのよ。」
「うん、そうした方がいいね。」
シャーリーが自分の部屋に戻っていった。
「なんだ?何が起こった?。」
アリアさんが部屋から出てくる。その時にちらりと室内が見えたが物が溢れかえっている。アリアさんがすぐに駆けつけなかった理由は明白だった。
「実はこの家のトイレにはマーガレット様と一緒に開発した新しい魔導具が装備したあるんだ。その説明を忘れていたから…シャーリーが犠牲になって…」
「…成る程。…害はないのだな?。」
「うん、それは大丈夫。寧ろマーガレット様がハマって王城のトイレを全部これにするって言ってた。」
「…ならば一度アルフ達も集めて説明したほうが良いだろう。新しい魔導具なら使用法が分からないと危険だ。」
アリアさんの言葉を受けてアルフさん達にも集合をかける。説明の手間は減らした方がいい。その後着替えたシャーリーがムスッとしながらやって来た。
「クラヒトのせいでびしょびしょになったのよ。」
「説明するのを忘れてたんだよ。でもシャーリーも何かわからない板を押したりしたんでしょ?。」
ウォシュレットを起動させるには付属の板状の装置を押さなければならない。シャーリーはそれを見てすぐに押してしまったからあんな事になってしまったのだ。
「それは仕方ないのよ。今まで見た事がなかったから気になったのよ。」
なんだろう、シャーリーがソワソワしている。
「なら今からする説明をちゃんと聞いておいて。使い方自体は簡単だけど初めて使う時は戸惑うかも知れないから。」
それから俺はウォシュレットの使い方を説明していく。初めは怪訝そうに聞いていたみんなだが俺の熱弁を聞いて使い方をしっかりと学んでくれたようだ。
「…って感じです。これからもマーガレット様は改良していくって言ってたから、その時はまた説明する。」
「…うーん、クラヒトだけだったら信用出来ないけど…マーガレット様が一緒なら取り敢えず使ってみるのよ。……クラヒトはさっさと自分の部屋に帰るのよ。」
シャーリーがしっしと手を振る。
「え?でももし使い方が分からなかったら…」
「…クラヒトはレディーのトイレに突入するつもりなのよ?。」
「すいませんでした!。」
シャーリーの苛立ったような言葉。俺は即座に頭を下げその場から立ち去る。危ない危ない。シンプルにセクハラだし、…シャーリーも限界が近かったはず。これからも気をつけないといけないな。