完成と勘違い
1時間で終わると言われていてそれですら破格だと思っていたのに5分ぐらいしか経っていない。改めて目の前の人は天才なんだと認識する。
「ふふふ、独立のエネルギー源を持ち既存のトイレに装着可能。伸縮と放出される水の温度の操作はこの道具で出来るよ。」
マーガレット様から一本の棒と板を渡される。おおっ、なんか日本で見たことのある形だ。携帯型ウォシュレットみたいな。
「使い方を教えて貰ってもいいかな。もう一つ作ってあるから私も使ってみるよ。」
なんと⁉︎もう一つ作ってあるだと!。
「えーとですね、用を足した後に使うので設置は先にしておきます。この位置につけて…」
説明するのは少し恥ずかしかったがこれも普及のためだ。マーガレット様が気に入れば間違いなくこの国に広まる。
「…な、なんだが照れるね。み、水を当てるの?、だ、大丈夫かな。」
マーガレット様は少し疑問があるようだがきちんと説明を聞いてくれた。
「…じゃあ使ってみるね。…クラヒトちゃんもお城の中のトイレで試してきてね。」
マーガレット様が工房の中にあるトイレに入っていく。完全にこの工房で生活出来る様になっているな。俺はマーガレット様の研究室のエリアから出てお城のトイレを使わせてもらう。一介の冒険者で主俺がこんな所を使っても良いのか不安だが城に来ている時点で気にしたら負けだ。トイレの一室に入りウォシュレットを設置する。
「…今は出ないけど…使用感を確かめるにはちょうど良いな。」
腰掛けて起動。位置を調整して…水を発射!。
「おっふ!…。…ひ、久々だったから…声が出た。」
周囲の気配を探り無人である事を確認する。…誰も居なかったようだ。…それにしても初めてウォシュレットを使用した時の事を思い出す。あの初めての感覚を。
「特に問題はないな。…水圧の調整とかはもっと発展的だから後で良いし…温風は欲しいけど今はいい。出来るだけシンプルな方が浸透しやすい筈だ。」
濡れた尻を拭きそんな事を考える。無くても良い機能は今は控えよう。…そりゃウォシュレット自体も無くても良い機能だがこれは別だ。
「あ、クラヒトちゃん‼︎。なにあれ凄いよ!。私、あんなの初めて!。」
研究室に戻ると頬を赤くしたマーガレット様が凄い勢いで捲し立ててきた。どうやら好評だったようだ。
「ねぇねぇ、これ貰ってもいい?。皆んなに使ってもらいたいんだぁ。あ、勿論アイデア料は払うし、これからこの魔導具が作られるたびにクラヒトちゃんにお金が入るようにするよ。」
(アイデア料?…特許料みたいなものか。…特許のお金で不労所得。日本にいた頃なら飛び付くような話だ。だけど…完全にパクリなんだよな。特許権って有効なのはどれくらいだ?20年ぐらいか?。…そもそもここは違う世界。…だけどなぁ…うーん、…)
「…お金は結構です。その代わり、この魔導具が普及する様にしてください。アイデアの独占とかもしないのでどんどん改善していって欲しいです。」
特許権を貰わない代わりに値段を安くして貰う。普及すれば色々な人が改良に乗り出すだろう。そうすれば魔法のあるこの世界ならではの発展を遂げる事もあるかも知れない。
「…っ⁉︎…。…智は万民の為に。…虚う流れで研鑽され次代へと紡がれる。」
「…え?。」
突然マーガレット様が何かを呟いた。それまでの穏やかな表情では無く何かを噛み締めるような表情だ。
「…今のはね、この国を作った英雄の言葉なの。知識や技術は国民の為に使うべきだ。そしてそれを秘匿する事は無益だ。って意味なんだよ。…クラヒトちゃんの言葉がそれに重なってたから、つい出ちゃった。」
「クラヒトちゃんの想いは分かったよ。この魔導具はこの国に広めよう。」
最後になんだか凄い持ち上げられた気がする。俺は決してそんな崇高な思いなんか持ち合わせていなくて興味本位なんだけど。…まぁいいか。
次回更新はお休みします