ローゼリア様の初めて
「…道中の警護は…必要ない。クラヒトが護ってくれるのであろう?。」
サクスベルク邸から俺が与えられる屋敷に向かうことになった。てっきり警護の人を連れてきていると思っていたがこの場所までは馬車で来ていて、ここからは歩きで向かうらしい。当然マーベルさんが警備の人をつけてくれようとしたのだがローゼリア様がそれを断ってしまった。俺に対する信用が高過ぎる。ローゼリア様とそこまで関わりが深いとは思えないのだが。
「えーと、出来るだけなんとかギリギリ精一杯頑張ります。」
なんかよく分からない言葉が出た。
「ふっ、頼りにしている。」
今の言葉の何処に頼りになる要素が?。兎に角俺はローゼリア様とデルトさんと共に街を歩いていく。なんだかんだ言ってもここは貴族街。そうそう物騒な事は起こらない(この前の嵐鬼は例外)。だがローゼリア様がキョロキョロして時々立ち止まったりする。貴族街にも少ないが店舗がある。大抵は大きな商会が新製品を展示する為の場所でかなりの大きさに様々な商品を並べてある。やはり大きな商会は手広くやっているのだろう。だがそれもローゼリア様には新鮮な光景のようだ。
「普段王都とはいえ、歩く事はないからな。成る程…、これがアリアが言っていたウインドーショッピングというやつか。自分が求めた物以外がこうして並んでいる光景は中々どうして胸をワクワクさせる。」
普段王城では欲しいものが持ってきてもらえる代わりに比べるということはしないのだろう。するまでもなく一流の品が届けられるだろうから。でもそこにローゼリア様の好みという考えは存在しない。だから色々と見て吟味するという行為自体に価値を感じているんだ。
「俺は時間いくらであるんで中を見ていきますか?。多分中にはもっと色々商品がありますよ。」
ローゼリア様には滅多にない機会だ。折角だから楽しんでもらいたい。
「…そ、そうか?。…うむ、…デルト、お主はどうだ?。」
「私は妻に贈り物をしたいと考えておりましたのでローゼリア様とクラヒト殿が宜しければこの店で品定めをさせていただければと。」
デルトさんも俺の考えを察してくれたのかそんな事を言う。頭が良くて融通の効く人だ。だからこそローゼリア様に重宝されているのかもしれないが。デルトさんの言葉を聞いたローゼリア様は心なしか、軽い足取りで店の中に入る。幸い今、店の中には他の客はいなかった。
「…うわぁ、…こほん!。…中々良いところじゃないか。」
一瞬年相応の歓声を上げたローゼリア様。しかし俺の視線に気がつき一つ咳払いをすると大人しく店内を物色し始めた。
「クラヒト、これはなんだ?。」
ローゼリア様が色々な物を手に取り尋ねてくる。今まで存在も知らなかった物が並ぶこの空間はローゼリア様にとってとても楽しい空間のようだ。明らかにテンションが高い。
「それはですね…」
何故俺がローゼリア様の質問に答えているか。実は入店と同時にそれとなくデルトさんが店員に事情を話に向かった。それによって良くある店員が話しかけてくるイベントが発生しなくなったのだ。その代わり店員はびびって出てこなくなったが。
「…あぁ、楽しいな。今度姉上やクラリスも一緒連れてくるとしよう。あの2人も私同様普段こういった店に訪れる事はないからな。」
…この店の店員さん大丈夫かな。俺の心配をよそにローゼリア様の中でそれは既に確定事項のようだ。
「…これはいいな。…母上に似合いそうだ。此方は姉上に…、クラリスはこれを食べたことがあるだろうか?。」
ローゼリア様はいくつかの商品を手に取っていく。どうやら買っていくようだ。この店ならお届けのサービスもあるからこれから用があっても問題ない。
「…あ、…いや、…やはり…今は…」
だが突然ローゼリア様の動きが止まり何かに気がついたような表情を見せる。
「どうかしたんですか?。」
買い方が分からなかったのだろうか?。それとも荷物になることを危惧して。
「……その、…こういう時はお金が必要なのだろう?。…私は自分でお金を持ち歩かないから…」
その先は聞かなくても分かる。俺はその事を失念していた。
「すまなかったな、時間を取らせて。…また次の機会に買えばいいさ。」
ローゼリア様は手にしていた品々を元の場所へ戻していく。だが俺はそれを手に取り店員に渡す。
「俺が買いますよ。こういうのは一期一会なんだそうです。本当に欲しいと思った時に買わないと後悔するそうです。」
「…だが…、」
「屋敷と使用人を手配してもらったお礼ということにしておいてください。そもそも俺が貰いすぎなんですから。」
それだけ言うと有無を言わせず会計を済ませ、王城に届けて貰うように伝える。ここでもギルドカードでの支払いが出来た。よかった、良かった。
(…ローゼリア様、男性がこのように振る舞いのには意地も含まれております。どうかクラヒト殿の思いもくんで差し上げてください。)
デルトさんがローゼリア様に何かを言うとローゼリア様は渋々納得したようだ。
「…ありがたく受け取らせてもらう。だがこれでクラヒトは前例を作った。今回私はお前からの贈り物を断らなかった。だから…次の私たちの贈り物を断る事は駄目だからな。」
…えー、なんかややこしいことになった。ローゼリア様に少し頬を染めながら一気に捲したてる。普段落ち着いているこの人にしては珍しい。
「私の為に少し逸れたがクラヒトの屋敷に向かうぞ!。」