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シャーリーの一日 中編

「…なぁ、シャーリー全然掛かる気配が無いんだけど…ポイントはここであってるの?。」

 釣り糸を垂らしながらクラヒトが尋ねてくる。その表情からは退屈といった感情がありありと読み取れる。


「依頼書にはこの湖にいるって書いてあったのよ。水中の鉱物をその鱗に変換させる別名泳ぐ研磨剤『サザンフィッシュ』。依頼書には身は要らないって書いてあったから身は私達で頂くのよ。」

 サザンフィッシュは硬い鱗に覆われている為か身自体はとても脂の乗った魚。そこまで獲れる魚じゃないから中々手に入らない。是非とも手に入れたいのよ。


「…んー、生息地が知られてるのに常に足りないって事はさ、…数が少なくなってるんじゃないか?。絶滅の危機みたいな。」


「それはないのよ。アリアちゃんと同系統のスキル保持者が調べたら数自体は結構いたのよ。でも釣れないのよ。」


「ならさ、なんか…漁みたいな感じで底からガバッと掬い上げればいいんじゃ…。」

 クラヒトから更なる提案。…やっぱり頭の回転自体は悪くないのよ。偶に訳わかんない事を言うけど。だけど残念ながらそれはダメなのよ。


「纏めて獲ろうとするとサザンフィッシュ同士が擦れて傷つけあうのよ。硬度は同じくらいだから全部使い物にならなくなるのよ。」

 全く厄介な魚なのよ。大人しく鱗無しで泳いでいればいいのに。纏めて獲ることが出来ないから1匹ずつ釣るしかない。でも何故か中々掛からない。そんな厄介な魚なのよ。


「うーん、でも釣れる時があるから何かきっかけであるんだよな。鉱石を体に取り込む。…その理由は…、…取り込んだ鉱石をどうやって鱗にしているんだ?。…重さはどうなって…」

 クラヒトの瞳から光が消えてぶつぶつと呟きだす。クラヒトは偶にこうなる。多分思考が深くなるとこうなるのだと私は思う。


「……試すか。…天癒、…」

 クラヒトの周りの地面がひび割れる。自分の周りの自然の力を集めて癒しの力に変換するクラヒトの能力の一つ。だけどなんで今なのよ?。


「…むずっ。…でも……なんとか…」

 クラヒトは釣り竿を揺らしながら…魔力を糸に沿わせていた。


「何をしているのよ?。」


「ん、仮説をたてた。サザンフィッシュが鉱石を鱗にする理由ってなんだと思う?。」


「理由って…そんなのそういう生態だからなのよ。」


「なら何故そんな生態になったのか。水の中とはいえ態々自分自身が重たくなる進化の方法を選んだ理由。…いや、選ばざるを得なかった理由。」


「…こいつらは共食いをするんだ。だから身を守る為に硬くなるしかない。限界まで。」

 クラヒトの言葉を聞いてサザンフィッシュの情報を思い出す。硬度が殆ど同じ。普通に考えてそれはおかしな事だ。サイズの違いはあるのに硬さは一緒。つまり限界値まで硬くなったサザンフィッシュ以外は…食べられてしまう。限界まで硬くなった個体はまだ硬くなっていない個体を食べるから餌には困らない。だから釣れない。究極の弱肉強食。


「ならクラヒトはどうするのよ?。」


「自分と他の奴との力関係まで見極めている可能性がある魚だ。…新しい可能性を見つけたら食いつくと思うわないか?。」

 その時クラヒトの持つ釣り竿が引かれる。ここに来て初めての反応だ。


「…うお⁉︎、…シャ、シャーリー!。俺は今天癒を使ってるから…大虎が使えない!。助けて!。」

 クラヒトがみっともない声で助けを求めてくる。その間にもズルズルと引き込まれている。慌ててクラヒトを後ろから抱きつく形で支える。


(…結構がっしりしてきたのよ。)

 思わぬ感触に少しだけドキッとしたけど今はそれどころじゃない。聞いていた話ではサザンフィッシュは全長30センチ程のはず。この引きは異常なのよ。


「…く、クラヒト。何が起こっているのよ⁉︎。」


「…まさか…。さっき言った仮定が全部あっていたとしたら…食いつくのはどんな奴か。…それはこの湖で最強の奴だ。最強の奴が更なる力を得る為に…食いついた!。」

 今はなんとか均衡している。だから…一気にいくのよ。


「…うにゃぁぁぁぁぁぁ‼︎。」

 クラヒトの腰に手を回し仰反るように倒れ込む。


「…え?…ちょ、え、待って…!。」

 クラヒトが何かを言っていたけどよく聞こえなかったのよ。そのまま背中が弧を描き手応えが一気に軽くなる。どうやら獲物が水中から飛び出したようなのよ。それが分かった段階でクラヒトからは手を離して頭が地面に着く前に手をつく。なんか体が橋みたいになったのよ。これは回避に使えるかもしれないのよ。


「…ごっ⁉︎。…投げっぱなし…ジャーマン…」

 釣り竿を持っていたクラヒトは手をつく事が出来ずに頭から地面に着いたけど…多分大丈夫なのよ。それよりも今は大切な事がある。


「…で、デカイのよ。…これは異常なのよ。」

 目の前には私よりも大きなサザンフィッシュが飛び跳ねていた。

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