出会いと語らい
「…今日も疲れたな、白雪。」
いつものように依頼をこなし終えた俺は王都の散策をしていた。この王都にも少しは馴染めたようで迷子になる事はなくなった(…裏道とかはまだ不安なので入らないけど)。最近ではコンスタントにCランクの依頼をこなせている。危機察知の能力が上がっているんだ。それに、
「どう考えても体が引き締まってる。まぁ、そりゃあんだけ筋肉痛になってれば当然だけど。」
この世界に来る前は特に運動とかしてなかったから中肉中背の普通男子だったけど今は中々のガタイになっている気がする。それに伴い性格もちょっとは外向的になってると思う。健全な肉体に良き精神が宿るってやつだな。
「あ、クラヒト様!。」
店の扉が開き中から出てきた人物が声をかけてくる。そちらを見るとセレナちゃんだった。側にはメイドさんが1人立っている。
「お、セレナちゃん。買い物かい?。」
セレナちゃんが手に持っているのは本。店を観察すると書店だったのでこの店で買ったのだろう。
「はい、クラヒト様に病を治していただいて、こうして買い物ができる事が嬉しいのでついつい出かけてしまうのです。」
セレナちゃんは先天性魔混血病という病気で普通に生活することすら難しかった。なので買い物のような普通の事が楽しく仕方がないのだろう。
「最近ではお母様とターニャと魔法の練習をしているんです。魔法の訓練をしながら体力をつけて、それから私は冒険者になります。」
「私の目標は夢幻の砲台と呼ばれるAランク冒険者ジゼル様です!。」
おっと、聞いた事がある名前が出たな。あの人だろ?あの…騒がしい人。セレナちゃんには是非とも性格は参考にして欲しくないな。
「…うん、まぁ、魔法の技術は凄いらしいから良い目標だと思うよ?。」
何とか絞り出した言葉を伝える。セレナちゃんは不思議そうな顔をしていたが頑張りますと殊勝な事を言い今から特訓しますと行って帰ってしまった。魔法の技術は伸びても今の性格は変わらないで欲しい。
「…ん?、君は…」
再び声がかけられる。
「…イベルカさん。」
俺を見下ろす体躯。そしてその体躯と同じ大きさの大剣を背負った男性。先程セレナちゃんの口からでたジゼルさんの相棒であるイベルカさんだった。
「あぁ、魔翠玉の時以来か。あの後もダンジョンを攻略したそうだな。…そしてその龍が魔翠玉から生まれた龍か。」
イベルカさんは俺よりも前に魔翠玉を手に入れている。大剣に埋め込まれた魔翠玉は炎を灯し魔剣となっている。
「はい、白雪っていいます。今日は1人ですか?。」
イベルカさんはいつもジゼルさんと一緒にいる印象なんだけど。あの騒がしい人がいればすぐに分かると思うのだが。
「ジゼルは一人で依頼を受けている。何でも魔法に関しての研究の依頼だそうだ。俺は魔法は殆ど使えないから、今回は遠慮している。」
「魔法使えないんですか?。」
「使えない…というより外に出すのが出来ないんだ。」
…?言っている意味がよく分からない。
「長くなるから少し場所を移そう。」
イベルカさんに言われて気がつく。確かにここは道の中。それにイベルカさんは巨体だ。他の人の通行の妨げになりそうである。イベルカさんに案内されて…喫茶店みたいな店に入る。予想外だ、酒場に案内されると思ったのに。
「この店の甘味が好きなんだ。俺が奢るから好きに頼んでくれ。」
俺が質問して、その答えを説明してくれる上にご馳走してくれるのか。良い人すぎるだろイベルカさん。ファンになりそうなんだが。イベルカさんは店員にスラスラと注文をする。俺も目についたものを頼む。
「さて、さっきの話の続きだが、魔法というのが魔力を使うことは知っているな。」
「そして魔力は身体の中の回路を巡っている。俺はその魔力を外に放出する事が苦手なんだ。」
それって…セレナちゃんの魔混血病みたいなものじゃないのか?。
「…あぁ、そんな心配そうな顔をするな。お前が治したホーベンス家の令嬢のようなものではない。加減が出来ないのだ。不器用なんだな。」
…なんだ、安心した。
「体の外に放出しようとすると暴発したり、不発になったりしてしまう。だから俺は体外的には魔法は使わない。」
そこで注文していた品が届く。イベルカさんの前に結構な量が並んでいるだが。
「…体外的には?。」
届いた品を一口食べているとふと疑問に感じ口にだす。
「気が付いたか。…俺は魔力を自分の体に使っている。これなら外に放出しないから暴発はしない。」
「自分の体にって、…そんな事出来るんですか?。」
「おいおい、治癒の魔法は魔力を他人にぶつけているんだぞ?。ならそれが自分の体なら例え治癒の適性が無くても無事で済むと思わないか?。」
…目から鱗が落ちるとはこの事か。何故今まで不思議に思わなかったんだろう。
「俺は自分の体に薄く魔力を纏わせる事で耐性と膂力を引き上げる事が出来る。瞬間的なら通常時の15倍はいけるな。」
「その代わりその間は大幅に体力を消耗する。だからクラヒトがもし使うつもりなら気をつけるといい。」
「でもイベルカさんは七日間戦い続けたって。その魔法を使ったすぐに戦えなくなるんじゃ。」
カロリーを消費して膂力を増す。道理はわかる。だけど以前聞いた話と辻褄が合わない。
「それは俺に治癒の適性があったからだ。俺の体は体力を使いながら回復している。俺の心が折れなければ俺は…負けない。」
…化け物じゃねーか。最強の前衛かよ。
「勿論、回復する間もないほどの強敵にはどうしようも無い。それと俺の天敵はジゼルのようなタイプだ。」
ジゼルさん?。今の話を聞く限りジゼルさんに勝ち目はないと思うんだが。
「ジゼルは俺を一瞬で消滅させる威力の魔法が使える。流石に一瞬で殺されれば俺は死ぬ。」
成る程。いや、成る程じゃねーな。結果としてどっちもやべぇ。
「結局の所戦いは水物だ。だから常に鍛え、常に備える。冒険者は引退するまでが学びだ。」
金言を頂いたな。最近順調に依頼をこなしていたから浮かれていた。イベルカさんですらまだ強くなろうとしている。俺も強くなりたい。