アルキノコ討伐戦、乱入クエスト発生。
「…おーい、白雪〜。そろそろ出てきてくれ。」
王都を出て徒歩で1時間。目的の森林に到着した。俺は地面に伸びる自分の影に呼びかける。何も知らない人が見たら俺は間違いなく不審者だろう。だがやらねばならない。何故なら白雪の力が絶対に必要だからだ。
『………クゥ?。』
どうやら俺の影の中で眠っていたようだ。前足で顔を掻きながら俺の影から飛び出してくる。
「これから森の中に入る。どんな魔物がいるか分からないから警戒して欲しい。一応目的は歩くキノコなんだ。美味しいらしいからいっぱい取れたら今日のご飯にしよう。」
俺の頭の上に着陸した白雪にやって欲しい事を伝える。白雪は頭が良いから俺の言葉をしっかり理解してくれる。
『…クゥ、…………ガブガブ…』
理解してくれるがタダではない。俺は大人しくカバンから串焼きを取り出す。何かを得るためには代価が必要。それは当然のこと、当然のことなんだ。
「そんじゃあ行きますか。」
俺は森に足を踏み入れる。木が乱立していて視界が悪い。サークルを発動して魔物がいないか様子を伺う。
「…スライム…こっちのは…」
それなりの数の魔物がいるが浅い領域ということもありそこまで脅威になる魔物はいない。まぁ、ついでの駄賃替わりに狩らせてもらうけど。俺は造匠ではなくモリアさんに打ってもらった剣で魔物を狩っていく。
「…あれが欲しいな、収集袋。いちいち拾うのがめんどくさい。」
屈まないといけないからペースが落ちるし白雪が頭から落ちないように踏ん張るから頭皮が心配だ。コーラルの街でシャーリーに聞いた時はCランクなら元を取れるって言ってたな。小さいやつだと金貨10枚ぐらいだって。
「今の俺なら買えるよな。なんやかんやで結構金を持ってるし。」
面倒ごとに巻き込まれるたびにそれなりの額を貰っている。預金でいえば金貨で150ぐらいはある。王都に来て見入りが良くなったのに滞在費がかからなくなったから加速度的に残高が増えた。家を買えるかもしれない。
「この依頼が終わったら相談して…」
俺のサークルに今まで感知したことのない魔物の反応が出る。
「…きたか?。」
一気に緊張が高まる。資料では遠距離から攻撃してくるって書いてあった。流石にまだ大丈夫だと思うんだが…。
「白雪、暗歩を使う。集中しないと使えないからその間の見張りを頼む。」
俺はサークルを解除して足元に魔力を集中する。闇属性の移動法である暗歩。その利用には条件がある。懐から複数の球を取り出す。これには俺の魔力を日頃から蓄えている。暗歩はその球に出来た影を媒介として転移をする事が出来るのだ。ただし範囲はかなり狭い上に展開出来る球も最高で五つ。その五つの間を転移しながら敵の隙を突く形だ。
「…見えた。赤に…青、…茶色か。…よし、行くぞ!。」
俺は球をアルキノコに向けて投げつける。その瞬間俺を認識するアルキノコ。即座に魔法が放たれる。飛んだきた赤い魔法を躱し一体目のアルキノコの胴体に剣を突き刺す。サクッとした感触と共にアルキノコは動きを止める。俺の背後には二つの魔法が迫っていた。
「…暗歩!。」
俺は暗歩を発動。青のアルキノコの背後に出現し背後から剣を突き刺す。更に俺が消えたことに反応できていない茶色のアルキノコの軸も横凪に斬りつける。
「…ふぅ、…思ってたより魔法の発動が早かったな。でも球は練習通りに投げられた。」
アルキノコの魔石と本体を拾いながら反省をする。もっと溜めがあるのかと思っていたが魔法をすぐに撃ってきた。確かに前もって発見していないと厄介だ。
『…キュ‼︎…キュキュ!。』
白雪が何かに反応した。そちらを振り向くとこちらに迫る魔法が4つ。
「やばっ⁉︎。…暗歩!。」
暗歩を発動して射線から外れる。だが安心している暇はない。既にアルキノコには発見されている。すぐにサークルを発動。位置を特定する。
「…神速!。」
出し惜しみはなしだ。一息でアルキノコの元へ辿り着き刺し殺す。どうせ発動したなら稼ぐことにしよう。先程のサークルで反応があったのはここだけじゃない。俺はべつの地点に固まるアルキノコの元へ。
「こいつらはある程度群生してるんだな。その方が安全だからか。」
次々にアルキノコを討伐して回収していく。結構種類が揃っている。珍しい奴はいないが…
「お、今までと違う反応!。…ってそんな馬鹿な!。」
俺は自分の目を疑った。今の俺の移動速度は尋常ではない。他の物が止まって見えるぐらいだ。だが、その中で普通に動いているやつがいる。つまり俺の神速状態と同じ速さということだ。一見すると毛玉のようなそれは俺が察知していることに気が付いたのか俺に背を向け逃げる。
「…なんなんだあいつ。…追うか?。」
一瞬考える。正体もわからない魔物だ。危険もある。だがそれに勝る好奇心。俺は追跡を決意する。
「…くっ…疾いな。神速でギリギリ…離されてる!。」
本気で逃走しようとしている魔物は俺よりも少しだけ速かった。森の中をぐるぐると逃げ回っている。まずい、そろそろ神速が。
「…白雪!…頼む!。」
全力で神速を使っている俺は何も出来ない。だから白雪に頼む。神速を使っていても俺に触れている白雪は俺と同じ時を歩む。
『キュ!。……ガアァ‼︎。』
白雪が闇属性の魔法を放つ。『闇錠網』魔物の進路上に網の目に展開される魔法。闇属性の網の目は時間を追う毎に細かくなっていく。完成するのが先か通り過ぎるのが先か。
「……はぁ、はぁ、……逃げられた。…なんだったんだあいつは。」
ギリギリ闇錠網の完成が間に合わなかった。神速が切れた俺はサークルを展開するが当然反応はない。あの速度ならサークルの範囲に1秒もいないだろう。
『キュキュ!。』
謎の魔物の正体を考えていると白雪が俺の頭を叩く。
「ん?どうした?。……え、それさっきのやつのか?。」
白雪が前足で指したのは闇錠網。そこには毛が絡め取られていた。
「…闇錠網の隙間を通り抜ける時に毛玉の状態じゃ無理だったから切り離したのか。」
俺は慎重にその毛を手に取る。感触はふわりとしていて想像よりもずっと軽い。闇属性で吸着していなければ風に舞い飛びそうだ。
「取り敢えず回収しておくか。後でギルドで聞けば良い。」
ここで考えても答えは出ないだろう。それなら今やるべき事をやる。片道1時間かかっているだ。アルキノコをしっかりと狩る事にする。目指せレア個体!。