ホーベンス家の姉妹
「お久しぶりです、クラヒト様。」
「お兄ちゃん!。」
俺はホーベンス邸に来ている。なんでもダンジョンに行っている間にセレナちゃんとターニャちゃんが訪ねてきたらしい。その時に不在だと告げられた2人は大層悲しそうな顔をしていたようだ。マーベルさんが俺に絶対に訪問するように言ってきていた。セレナちゃんがスカートの裾を持ち上げ楚々とした礼をしたのに対しターニャちゃんは俺の腹部に突撃してきた。
「ぐふ⁉︎…ひ、久しぶりだね、2人とも。元気にしたたかい?。」
俺は年長者としてのプライドでなんとか平静を装い2人に尋ねる。ターニャちゃんの元気は聞くまでもないだろうが。
「はい!ターニャは元気にしていました!。」
「私もクラヒト様のお陰でこの通り健康に過ごすことが出来ております。あの病気を治して頂き普通の暮らしが出来る様になったのです。」
ターニャちゃんは俺のお腹に頭をぐりぐりと押し付けながら、セレナちゃんは柔らかい笑みを浮かべながらそう言った。普通と言ったセレナちゃん、その腕には以前のような長いアームカバーを付けていない。健康的な腕を普通に見せている。それがセレナちゃんにとってどれだけのことなのか。俺には慮る事は出来ないだろう。
「さぁ、どうぞお入りください。歓迎いたします。」
セレナちゃん、ターニャちゃんに挟まれるように門を潜る。メイドさん達もそれを咎める事なく寧ろ温かい視線を向けてくる。この2人は使用人にまで愛されているんだな分かる瞬間だ。
「…あれ、庭もう戻ってるんだ。生命力を吸い尽くしちゃったからもっと時間がかかると思ってたんだけど。」
門を潜り庭に差し掛かった所で気付く。セレナちゃんを治療する時この庭の生命力を徴収した。だから枯れ果てていたのだが今は以前のように青々と生い茂っている。2ヶ月程経ったとはいえ流石に早過ぎる。あれかな、庭中の草木を入れ替えたのかな?。
「この庭の復元にはマーベル様のお力をお借りしました。あの方の魔力量は王家を凌ぐと言われています。それと…ご本人は無自覚なのでしょうが治癒の方面に才能がお有りのようで漏れ出した魔力で土地に力を与える事が出来るのです。なのでサクスベルク家の庭園はこの王都でも一二を争う素晴らしさを誇っておられます。」
俺の言葉に後ろに控えていたメイドさんが答える。マーベルさん…やはりヤバい人だったか。漏れ出した魔力で土地に力を与えるって何?。凄過ぎない?。本格的に魔法の訓練をしたらどうなるの?。流石はサクスベルク家最強である。
「クラヒト様はまた武功を立てられたとお噂で聞きました。差し支えなければその話をお伺いしたいです。」
「ターニャもお兄ちゃんのお話が聞きたいです!。」
屋敷の中に入り部屋に通される。以前来た時の応接室じゃなくて家族が普段使っているであろう部屋に通された。ターニャちゃんが俺の手を引いていたからメイドさん達が止める暇がなかっただけかもしれないが歓迎されているのが分かる。
「うーん、それじゃあ簡単に説明しようかな。俺がダンジョンに行ってた話を。」
俺はダンジョンの攻略の話を掻い摘んでする。余りにショッキング内容を聞かせるのも問題だとだろうからシャーリーが大怪我をした話とかはカットだ。
「…で、最後に白雪がやらかして一応はそこで終わりかな。」
「…ふわぁー!。お兄ちゃん凄い!。ダンジョンはとても怖い場所なんでしょ?。お兄ちゃん怖くなかったの?。」
「そりゃ怖かったよ。でも俺には信頼できる仲間がいるからね。ターニャちゃんも1人じゃ怖い事でも家族が一緒だったら平気な時があるでしょ。」
「…はい!。…その、夜トイレに行く時とか…お姉ち…お姉様が一緒なら平気です。」
どうやらターニャちゃんはまだ夜一人でトイレに行けないようだ。まだ6歳だもんな。それにこの家は広過ぎるからトイレまで距離もあるし、灯りだって日本みたいに電気じゃない。仕方のない事だ。
「…クラヒト様はどこまで行かれるのですか?。」
「どこまでって…、俺は小さい人間だから自分の周りのことしか考えられない。だけどその周りの人を助けるためなら結構頑張る。だから目標とかは特にないかな。」
目下の所の目標はBランクへの昇格。そこまでいけば貴族とも釣り合いが取れるらしい。暮らしていくには充分過ぎるお金だって手に入る。普通に暮らしていければ良い。良い人に囲まれて、楽しく生きていきたい。
「…クラヒト様は素晴らしい速さで名を上げていらっしゃいます。…でも、…このままでは私が追いつけなくなってしまいます。」
セレナちゃんがどこか拗ねたように言う。この子にしては珍しい口調だ。
「お兄ちゃん、お姉様はね、お兄ちゃんのパーティに入るのが目標だよ。お母様から魔法を習ってずっと魔法の勉強をしてるの。お兄ちゃんがね、活躍するのはね、嬉しいんだけどね。…他の魔導師の人が入らないか心配なんだって。」
そういえば約束していたな。あの時、セレナちゃんの病気の治療の時に話してくれた夢。魔導師になって世界を回る、そして俺のパーティに入る。
「…なら大丈夫だ。俺のパーティの魔導師はもうセレナちゃんで埋まっている。そもそも俺のパーティは今の所俺とシャーリーだけ。シャーリーは別として俺とパーティを組みたい人なんて早々いないよ。」
アリアさんは正式にパーティの申請はしていない。そもそもアリアさんは釣り合ってないし。いつか入って欲しいけど。それと他の加入したい人だが俺はスキルがなかったら良くてC。普通に考えればDだ。王都では幾らでもいる。だからセレナちゃんの心配は杞憂だ。寧ろ、
「魔法を使える冒険者は一気にランクを駆け上がるらしいから寧ろ俺がお願いしないといけないようになるかも。セレナちゃん、有名になっても俺の事を忘れないでね。」
「も、勿論です。私がクラヒト様の事を忘れるなんてあり得ません。私はお母様を超える魔導師になってみせます。その時、改めてクラヒト様にお願いします。」
セレナちゃんが体の前で腕を力を込め決意を述べる。頼もしい限りだ。セレナちゃんが一人前になる前に俺も一端の冒険者を名乗れるように頑張ろう。