来訪者は第一王女、鬼才に分類される人。
『コンコン。』
部屋のドアがノックされる。
「クラヒト様、お客様がお見えです。」
その声に飛び起きる。サクスベルク家では基本的に朝ごはんの時間は決まっていて俺はそれまでに起きるようにしていたのだが…メイドさんが起こしに来たということは寝坊しているということだ。メイドさんの声が心なしか震えているように思えるのは気のせいだろうか。
「は、はい。すいません!。俺寝坊しちゃって!。」
慌ててドアを開けて今起きた事を伝える。優秀なメイドさんの事だ。それとなくお客さんを待たせておいてくれるはず。その間に俺はダッシュで用意をしないと。
「………その、…申し上げにくいのですが…」
だが俺の希望的観測は外れる事になる。俺を呼びに来たメイドさんは俺が着替えるのをいまや遅しと待ち構えている。
「…え、…もしかして…偉い人?。」
「はい、…その…とても…」
俺の言葉に頷くメイドさん。…とてもって何⁉︎。この人達は普段からサクスベルク家に訪れる貴族の人の相手をしているんだよ?。それがとても。…嫌な予感がビシバシだ。
「…だ、誰?。…そもそも俺今日は約束とかしてないし…いや、それよりも今は…」
服を着替えて顔を洗う。中々見っともない姿を晒しているが気にしている暇はないようだ。何故なら、
「クラヒト⁉︎、なんで今日に限って寝坊なんてしているのよ⁉︎。さっさと来るのよ。私とアリアちゃんだけでは間が保たないのよ。」
慌てたシャーリーがこっちに向かって爆走してきているからだ。昨日ぶりなのだが再会の挨拶とかはいいのかな?。
「…よ、よしこれでどうだ?。なんとか…」
「大した顔じゃないからそんなに変わらないのよ。そんなことよりもさっさと行くのよ。」
物凄い暴言を吐かれた。それを聞いたメイドさんが吹き出したけど…俺は気にしない。…いや、気にしないよ?。
「な、なぁ、シャーリー。お客さんって誰なんだよ。クラリス様?…あ、ローゼリア様か!。」
メイドさんが慌てるのなら王族の可能性もある。俺と面識がある2人のうちどちらかが会いに来た可能性は捨てきれない。冴え渡る俺の推理。起床後5分とは思えない。
「どっちもハズレなのよ。」
全く冴え渡っていなかったようだ。シャーリーはどんどん屋敷の中を進んでいく。どうやら目的地は俺たちが初めて訪れた時に使った応接室のようだ。
「ここなのよ。…じゃあ入るのよ。」
到着してシャーリーがドアを開ける。さて…誰がいるのか。
「…………だれ?。」
中にいたのは4人。アリアさんとマーベルさん。後はメイドさんと…全く知らない人が1人。女の人だ。何歳ぐらいだろ。俺より少し上かな。優しそうなお姉さんって感じで…美人だけど親しみやすい…
「初めまして。マーガレットと申します。妹達がお世話になりました。」
その言葉を聞いて俺は今まで考えていた事が全て飛んでいく。親しみやすい?何を言ってるんだ俺は。マーガレットって名前と妹達というワード。その二つから導き出される答えは…
「…第一王女様…ですよね。」
「あら、ご存知…ではなかった筈ですよね。ではご明察です、で宜しかったらかしら。」
速報、俺遂に3人目の王女様と対面する。確認の為にシャーリーとアリアさんの方に視線を向けるが2人とも頷くだけだった。
「あー、今のアイコンタクトはなんですか?。私も混ぜてくださいよ。」
マーガレット様がそんな事を宣う。なんだろう、これまであった2人とは余り似てない。話し方か?…それとも…体のある部分のサイズか?。実はさっきから少し気になっている。ローゼリア様ともクラリス様とも似ても似つかないサイズ感。そして纏う雰囲気。これが…長女の包容力だとでもいうのか?。日本での知り合いも言っていた。姉に逆らう弟は存在できないと。
「今日は今王室で話題沸騰中のクラヒトちゃんの話を聞きにきました。」
「…沸騰してるんですか?。」
「そうですねぇ、手をいれたら火傷するくらいです。なんで、ほら、座って座って。一応私忙しい事になってるので余り時間が取れないんです。だからこんな時間になっちゃいました。普段なら3日に一回の睡眠を摂ってる時間なんですよぉ。」
表現が独特すぎる。だけどクラリス様がマーガレット様は魔導具の開発なんかをしている天才だって言っていたから変わり者なんだろう。鬼才って感じ。
「えーと、俺で良ければ。はい、お願いします。」
当然俺が断る事など出来るはずもない。こうして俺は3人目にして王女姉妹の長女の相手をすることになった。