第一王女マーガレットという人
「…疲れたぁ。」
俺は現在サクスベルク邸で借りている部屋に帰ってきている。初めてのダンジョン攻略は成功したと言っても良いだろう。2人の魔族を倒し遺跡も発見した。ダンジョンから帰ってきたのは昨日だったのだがその後ゆっくりする時間はなかった。今回の報告を行うためである。と言っても主な報告はアリアさんやシャーリー、クラリス様が行ってくれたので俺は専ら白雪が中身だけ吸収してしまったあの球の事を説明していたのだが。
「…なぁ、白雪。本当に体に異変はないか?。」
俺はベッドに寝そべっている白雪の背中を撫でながら尋ねる。俺が今日疲れる原因となったこの子は自分は関係ないとばかりに留守番していた。
『…クゥ……クゥ…』
問題ないと言わんばかりに尻尾を振る白雪。それがペシペシと手に当たってなんだがくすぐったい。
「そっか、ならいい。…はぁー、…どうなるかな。」
俺もベッドに体を預けて目を閉じる。思い出すのはやはり魔族との戦闘の事。今回の敵は強かった。はっきり言ってかなりやばかったと思う。勝てたのは相手がこっちを舐めていたから。今後はそんな展開を期待しない方が良いだろう。
(…問題点は沢山あるよな。まずは準備不足。爆薬がもっと有れば楽に戦えた。そもそも俺に遠距離攻撃の手段がないのが問題だよな。)
俺のスキルは近接に振り過ぎている。尖っている上に偏っているからはまらない時は大分キツいことになる。
「…まだ判明していない能力が、2つ。遠距離系でお願いします。」
『…ク…クォ…』
俺のお腹の上に白雪が飛び乗ってくる。白雪は俺より若干温度が高い。まるでカイロのようにじんわりと温かさが伝わってくる。
「…寝よ。ごめん、シャーリー、アリアさん、クラリス様。」
まだ報告を続けている3人に申し訳ないと思いながらも俺は睡魔に勝てず意識を手放した。
「ごめんね2人とも。流石に今回は色々報告する事が多いから手伝ってもらうわ。」
王城の一室。先程からその部屋を様々な人が行ったり来たりしている。そしてその中にはクラリス、アリア、シャーリーがいた。3人は今回のダンジョンで起きた事を報告。それを聞いた役人が担当の者に伝言をしに行くということを繰り返していた。
「妖精鋼の扉とポーションが溢れる袋ですからね。その追加調査だけでも多くの人が動かないといけません。それと…あの謎の祭壇もですね。」
「問題なのはあの子龍が何かを吸収してしまったことなのよ。全く何かわからないものを勝手に食べるなんてクラヒトの躾がなってないのよ。」
3人ともテキパキと書類に必要な事項を書きながらも情報を交換していく。既に王都のギルドではダンジョン攻略の情報とこれからの解析のための護衛の募集がかかっていた。
「失礼します、クラリス様!。マーガレット様がおいでです。」
兵の1人から報告が入る。
「…通してください。…お姉様、お待ちしていました。」
部屋のドアが開きそこから1人の女性が入ってくる。
「クラリスちゃん、お疲れ様!。ダンジョンどうだった?。」
入ってきたのはハートラルク王国第一王女マーガレットだった。ただその様相は王族とは思えないものでドレスなどではなくズボンと白衣、更に姉妹揃っての金髪はボサボサと暴れ回っている。クラリスの姿を見つける駆け寄り抱き付く。
「…お、お姉様!。…ここには客人もおりますので。」
「えー、…客人って…あぁ!アリアちゃんじゃない!。久しぶりね!。後は…可愛らしい獣人さんね!。私はマーガレット。気軽にマギーって呼んでね。」
「…?…⁉︎………」
自分のイメージする王族と余りにかけ離れたマーガレットの態度に混乱に陥るシャーリー。
「…変わりませんね、マーガレット様。」
「マギーって呼んでくれないの?。…ま、いっか。…あ、そうだ。本題に入らないと。」
「先ずは妖精鋼の確保ありがとう!。あれが有れば魔道具の開発が飛躍的に進むの。希少な素材だから失敗出来なくて凍結してるのがいくつか動かせるわ。あと持ち帰った魔導具の解析はまだ全ては終わってないけど…何かを媒介にして上級ポーションを精製しているのね。私の勘だけど…魔力、それも一つの属性とかじゃない気がするんだよね。…今は全属性の割合を変えて適合する配合を探している所。」
「…もうそこまで解析が進んだのですか。流石はお姉様です。」
「うんうん、そうだよ。お姉ちゃん凄いんだから。…なーんてね。本当はみんなのおかげだよ。」
「みんなが危険な目に遭って持ち出してくれるから私は古代の技術に触れれる。今回も…危なかったんだよね。」
「えぇ、魔族が2体いました。」
「えー⁉︎。魔族が2体も⁉︎。…アリアちゃんと獣人ちゃんとクラリスちゃんだけで…勝てたの?。」
「…実は最も活躍した男は今不在でして。その男がいなければ私達全員ここにはいないかと。」
「クラリスちゃんには空間魔法があるのに?。」
「はい、敵に私の空間魔法を阻害する敵がいました。なので逃げることも難しかったかと。」
「ふぇー、凄いねぇ。なんて名前?。」
「クラヒトと言います。」
「…クラヒト……ん?…なんか聞き覚えがあるな。なんでかな?。………あ!ローゼリアちゃんが言ってた子だ!。一回目が面白い男がいるって言ってて、最近は英雄の器かもって。…あと魔翠玉から龍を孵した子だよね!。いーなぁ、ローゼリアちゃんもクラリスちゃんもそんな面白い子と知り合いになれて。」
「お姉様、クラヒトは…」
「あ、そうだ。今度遊びに行っちゃおう。そうだそうだ、魔翠玉の事も聞きたいし。私だけ仲間外れは良くないよ!、うん。」
次回第一王女襲来。