また白い空間。今度は1人です。
「…また白い空間か。」
…なんか白い空間にいた。前との違いは本当に何もないってことだ。俺の体しかない。…何でこうなったか記憶を探ってみる。…あれ?これって…
「…俺激痛に耐え切れなくて死んだっぽくね⁉︎。そうだとしたらダサすぎるだろ。冥土への最短帰還記録樹立しそうなんだけど。」
なんだよ、ちょっと痛いとしか言ってなかったじゃんか。めっちゃ痛かったのは覚えている。今でも思い出すと吐き気がする。
「………なんも起こらないな。本当にここは冥土か?。」
今の台詞もやべーだろ。常連かよ。何もすることがないので辺りを見回して見る。お、なんか…こっちに…
「凄い勢いで飛んで来る‼︎。」
いや待って待って。なんか起これと思ったけどこれは想定してない。六芒星みたいなのが一直線に俺に飛んで来てる。
「…来るな来るな来るな!。…あーーー‼︎。……何も無いのかよ!。」
六芒星がぶつかるって思って目を瞑ったけどなんの衝撃もなかった。何も無いのかよ!。
「…何なんだよ、……え、これ…体が…透けてきてる。」
今度こそ体に変化が起きた。透けている。
「…っ、また頭が…⁉︎。……なるようになれ。」
また襲ってきた激しい頭痛。消えゆく体と痛む頭を前に俺は無我の境地に至る。大人しく目を瞑り状況に体を預けた。何故当然これだけ達観したのかば分からない。だけど頭の中に浮かんだ六芒星が大丈夫と告げているような気がした。
----------------------
「むぅ、…かれこれ3日か。何故目を覚さんのだクラヒトよ。」
「ローゼリア様、…王城より使者が来ております。至急お伝えしたいことがあるそうで一度戻れと命を受けているそうです。」
「それは出来ない。…少なくともこの男が目覚めるまではな。この男がこうなった責任は私たちにある。なんの抵抗もせずこちらに身を任せた者の意識が戻らないからと放っておいては民を守るべき王家として許されない。…アリア、使者にはそう伝えてくれ。」
「かしこまりました。失礼します。」
「姫様、やはり彼の体に異常はないようです。ただ心に呼びかけてもなんの応答もありません。」
「…そうか。その原因はわからんのだな。」
「…申し訳ありません。」
「昔読んだ英雄の物語ではキスをすれば目を覚ましていたな…。」
「な⁉︎いけませんよ姫様。それは…」
「わかっているよラスター。あんなものはただの読み物だ。…だが…額にするぐらいなら構わんだろ。…クラヒトよ其方に加護があらんことを。」
「…え‼︎…ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って‼︎。近い近い近い!。」
なんか良い匂いがすると思って目を開けたら王女様の顔がめっちゃ近くにあった。焦る。慌てて後ろに下がろうとするけど後頭部を打った。…痛い。
「…おぉ!目覚めたかクラヒトよ!。」
王女様が喜んでる。なんか今の勇者が目覚めたみたいだったよね。
「クラヒト様お体に問題はないですか?。あれば治療師を呼んで参りますよ。」
ラスターさんも心配そうに聞いてくる。まぁ目から血を流して倒れたんだから心配はするか。
「んー、…体がバキバキなんですけど…。あとは特に問題はないですね。…あっ!…すいません。」
さっきは驚きの余り気付かなかったけど体が重い。あと…お腹が空いている。体が何か食わせろと叫び声をあげる。
「それはそうだろう。お前は3日も寝ていたんだ。ラスター、何か食べる物を持ってきてくれ。」
「わかりました。失礼します。」
「ローゼリア様使者の方にお伝えしてきました。…って目が覚めてる!。クラヒト、…良かったな目を覚まして。このまま眠り続けるかと思っていたぞ。」
ラスターさんと入れ替わりでアリアさんが入って来た。かなり驚いている。やはりかなり心配されるような状況だったんだな。
「俺そんなにやばかったですか。」
「初めはぶつぶつと単語を呟きながら唸っていてその後はいきなり静かになったな。正直死んだと思った。」
マジか、全く覚えてない。
「それならメモしている。お前が倒れた原因が分かるかもと思ってな。」
王女様が紙を取り出す。ほんのり暖かいその紙には六つの単語が書かれていた。
「…ドッペル、ワイルド、クリエイター、リカバリー、サンシャイン、ソニック。…なんのことか俺にも分かりませんね。」
嘘だ、…本当は見当がついている。七つの顔を持つ男。1つ足りないが多分これのことだろう。薄っすらと頭に残る六芒星もこれのことなのかもしれない。だけど…それ以外分からないな。まだ言わない方が良いだろう。
「…そうか。まぁ一先ずは腹を満たし英気を養ってくれ。お前がこうなった責任は私にある。費用は全て私が出すことにするから。…そうだな、明後日また会おう。アリア、使者はまだいるな。私は一旦王城に帰る。その間クラヒトを頼んだぞ。」
王女様は責任感が強いようだ。俺だって了承して儀礼を受けたのに。でもそのお言葉には甘えさせてもらおう。
「分かりました。お待ちしています。」
俺の返事を聞いた王女様は最後に1つ笑うと部屋を出て行く。ラスターさん早くご飯持って来ないかな。
「あら姫様、どちらに?。」
「あぁ、クラヒトの意識が戻ったからな。一度王城に帰ることにするよ。私にはあの魔法がある。」
「左様ですか。では私はどうすれば?。」
「クラヒトを診ていてくれ。明後日には戻る。…それとクラヒトに例の単語の紙を見せた。…あの顔は何か知っている。」
「問いたださなかったのですか?。」
「あぁ、表情が変わったのは一瞬だ。それに嘘をつくことへの罪悪感が見てとれた。恐らく言えない理由があるんだろう。彼が話してくれるのを待つよ。」
「…かしこまりました。お気を付けて。」