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評判は知らない所で上がっている。

「…取り敢えず今出来る事はこれくらいか。」

 2人の魔族との激闘をなんとか凌いだ俺達は休息を余儀なくされていた。俺自身は天癒を使って既に体は回復しているが能力の大半を使用してしまっている。アリアさんとクラリス様は魔力が枯渇寸前、そして何よりシャーリーのダメージが深刻だ。スキルを使った代償として自己回復力がゼロになっている現状傷を癒す術がない。前の日数から逆算すると一度使うと一時間ぐらいはゼロのままのはず。今回は多分3回使っているから数時間はこのままだ。意識なく横たわるシャーリーの変色した腕や火傷の跡に濡れた布を当てる。せめて少しでも痛みが和らぐ事を願って。


「私達の魔力はポーションを飲めば無理やり回復は出来るが…まさかシャーリーのスキルにそんな代償があったとは。…定期的な警戒だけに切り替えよう。」

 ぐったりとしたアリアさんがシャーリーに気遣うような視線を向ける。アリアさんとクラリス様はまだポーションを飲んでいない。シャーリーが飲めるようになった時に優先させる為だ。俺の天癒は1日経てば使えるがそこまでシャーリーをこのままにする事は出来ない。なので消耗品であるポーションを使う。だがこれだけのダメージだからどれだけ使う事になるか。拠点の周りに警戒の魔道具は設置してある。だからアリアさんも天眼を閉じている。ダンジョンの最下層にある守護者を既に魔族が倒しているのかは不明だが戦闘に備えなければならない。


「今は出来るだけ魔力の消費を抑えないとダメね。そうすれば時間さえあれば回復はするわ。私達王家は魔力の回復量も優れているから。」

 クラリス様も今は亜空間から荷物の大半を出している。残しているのは腐る可能性のある食べ物だけ。それによって魔力の消費を抑えているのだ。


「白雪もお疲れ。…お前のおかげで助かったよ。居てくれて良かった。」


『…クゥ…ゥ…』

 俺の腕に体を擦り付けてきた白雪を撫でる。白雪は…シンプルに眠たいようだ。このまま寝かしておいてあげよう。そもそも白雪が気が付かなければ奇襲を受けていたんだよな。シャーリーと並ぶ功績である。


「…俺も…少し…眠たくなってきた。」

 体に疲労が溜まっている。精神的な疲れもかなりある。駄目だ…瞼が…


「クラヒトは休んでいろ。シャーリーに何かあれば知らせる。お前が一番前線に出ていたんだ。」


「そうね、警戒は私達でやるわ。……ねぇ、クラヒト、もし良ければ…」

 そこで俺の意識は途絶えた。クラリス様は一体何を…。





「……ねぇ、クラヒト、もし良ければ私の近衛に…って…寝てるわね。」


「クラリス様、今の発言は…」


「私は本気よ?。王女が1人だけ任命できる近衛騎士。その身分は貴族でいう子爵に相当するわ。私はクラヒトが欲しい。アリアは私が大好きな物語を知ってるわよね。」


「えぇ、というよりもこの国で育った者なら子供の頃に聞かされて育つかと。この国を作った英雄の物語。」


「私、クラヒトはそういう人になる気がするの。英雄にね。今日の事だって普通じゃないことよ。あの魔族を2人も倒してしまうなんて。最後にトドメを刺したのは私とアリア。だけどそこまでの道筋はクラヒトが描いた物。…ふふっ、よく聞く英雄よりも少し頼りないけど周りを頼る英雄が居ても良いじゃない。」


「確かにクラヒトには人を惹きつける何かがあります。現にあの嵐鬼にも目をつけられています。」


「それも姉上から聞いているわ。更にいうとエルマもクラヒトを気にかけていたわ。」


「…エルマ殿もですか。………もし、クラヒトの意に沿わず強制するならサクスベルク家とホーベンス家が阻止させて頂きます。」


「安心して、アリア。無理やり連れて行くなんて事はしないわ。それに…多分断られると思うしね。クラヒトは貴女達をとても大事にしているから。それは見ていればわかる。」


「…まぁ、でも姉上もクラヒトを気にかけているようだしお姉様もクラヒトに会ったら案外意気投合したりするかもしれないから先に事実だけは作っておきたいわね。」


「御二方に叱られるかもしれませんよ。」


「それは仕方のない事よ。私、結構我儘だもの。末っ子の特権ね。」


「…何にせよ、決めるのはクラヒト自身です。」


「分かってるわ。…あくまで選択肢を提示するだけ。」






「…おい、クラヒト!…シャーリーが!。」

 アリアさんの声で目を覚ます。いつの間にか結構深く眠ってきたようだ。


「…シャーリー…、シャーリー!。」

 頭の中で言葉を反芻して状況を思い出す。そうだ、シャーリーの事を確かめないと。起き上がった俺は横になっているシャーリーの様子を伺う。


「…クラ…ヒト。…魔族は……倒したのよ?。」

 シャーリーは意識を取り戻していた。だがまだ全身が痛むのだろう、顔を顰めている。


「あぁ、2人とも倒した。ここは安全だ。何も心配しなくても良い。」


「…そう、…良かったのよ。」

 ほっと息を吐くシャーリー。その間にクラリス様とアリアさんがポーションを持ってきた。既にスキルの反動が切れているかは不明だが試していくしかない。その為にポーションは節約している。


「…ん、……まだ効かないみたいなのよ。3回使ったからあと少しだと思うのよ。」

 ポーションを一口口に含んだシャーリーはその身に変化が無いことを報告する。まだなのか。少しでも早く楽にしてあげたい。やきもきする時間が続く。シャーリーにポーションを飲ませる行為を数回繰り返したある時、


「…あ、…効いてるのよ。痛みが…引くのよ。」

 遂にポーションの効き目が出始めた。その後は効果の高いポーションからシャーリーに飲ませていく。


「…もう飲めないのよ。…それに多分今はこれが限界なのよ。」

 シャーリーは上体を起こせるようになった。だがまだ腕は変色しているし、立ち上がるのは辛いようだ。


「あくまでポーションは応急処置用だからな。そんなに多用する物ではない。」


「でもシャーリーが取り敢えず元気になって良かった。時間さえ経てば俺が天癒を使う。それから下に降りよう。」


「そうね、クラヒトの戦力を揃えるべきだしその案を採用するわ。一先ず回復に専念する事。次の行動は日が変わってからにするわ。ご飯にしましょう。」

 クラリス様のご飯の言葉で自分が酷く空腹だという事に気がついた。戦闘でかなりエネルギーを消耗していたみたいだ。


「………お腹空いたのよ。」

 どうやらそれはシャーリーも同じようだ。シャーリーが一先ず元気を取り戻した事で俺も元気になった。あと一踏ん張り攻略を頑張ろう。


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