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魔族の傲りと人間の知恵

 俺が創造したのは2振りの剣。付与した能力は魔法への絶対耐性。触れた瞬間に魔法を分解する力。


「その魔法、斬らせてもらう!。」

 俺は体ごと捻るように回転し魔法を斬り裂く。手には少しも衝撃はこない。不思議な感覚だ。だがそんな感覚に浸っている時間はない。即興で能力の付与自体は上手くいった。だが…発動時間が分からない。恐らくそこまで長くはない。魔法を斬るというのはかなり特異な事のはずだから。


「…一気に勝負をかけるしかないか。白雪!…捨てろ!。」

 デリートは俺が魔法を斬ったという事実に驚いているのか反応が鈍い。今しかない。俺は駆け出す。この世界に来て鍛えていて良かった。それなりの速度で走れる。そして走りながら頭の中である仮定を組み立てる。ひょっとするとデリートの硬い皮膚も突破出来るかもしれない。


『…一体…何を?…私の魔法を……斬ったというのか?。』


「ブラインド!。」

 俺はデリートにブラインドを発動する。


『…舐めるな!。こんな低レベルの魔法など…食らわんわ!。』

 ブラインドはデリートの視界を奪う事なく掻き消される。だがそれは予想していた事だ。


『…クゥーーー‼︎。』

 デリートの前に黒い壁が立ちはだかる。丁度俺とデリートの中間に突如現れたそれを見たデリートは俺の魔法だと思うはず。


『無駄だと分からんのか!。これだから能無しは嫌いなんだ!。』

 先程と同じようにデリートは黒い壁を消そうとする。だが残念だったなそれは白雪が発動した魔法だ。俺の雑魚い魔法と違う。


『…ぬ、…龍の魔法か!。だが…まだ甘いな。所詮は幼体。私の敵ではない。』

 さっきよりも少し力を込めてデリートが腕を振る。それだけで白雪の魔法も解除される。…そう解除されたんだ。色々中に入れておいた影が。


『…な、なんだ?。……このっ、…煩わしい!。』

 白雪の魔法が解除されたことによって中に入れていたものがどんどん溢れてくる。具体的には…俺の着替えや携帯食料。予備の武器に予備のテント。…そしてもう1人の魔族にも使った…爆薬。色々なものが降り注ぎデリートの意識が散漫になる。


「…そこだ!。」

 予めわかっている俺は降り注ぐ荷物の隙間を縫ってデリートに忍び寄る。そして丁度デリートの目の前に爆薬が降るタイミングで懐から触媒を取り出し投げる。こういう事態を想定して薬品は一つずつ身につけている。


『…ぐあっ⁉︎。…猿が!。調子に…乗る…な…』

 デリートの周りの地面から炎が溢れ出す。ようやく自分が俺の罠に嵌められつつある事を認めたんだ。だが…遅い!。それに、


「忘れたのか?。俺の剣は…魔法を切り裂くって事を!。」

 俺は炎を切り裂き遂にデリートの元に辿り着いた。そして2本の剣をクロスするように振り下ろす。シャーリーの手甲での打撃でも殆どダメージを受けなかった皮膚。普通なら剣でもそこまでダメージにならないだろう。だが俺の考えが当たっていたなら…!。


『…ぐ、……私の体に…よくも!。』

 デリートの皮膚を切り裂く事に成功した。クロスに斬った所からは血が流れて地面に滴り落ちている。


「不思議だったんだ。どう考えても魔法特化のお前がシャーリーの打撃に対しても殆どダメージがなかったのが。アスラですら俺の大虎の打撃でもダメージは食らっていた。アスラよりも更に魔法系のお前が食らわないのは…魔法で障壁を作っていたからだ。俺はそれを斬った。」

 俺は今その障壁ごとデリートを斬った。役目を果たした双剣は消えてしまう。やはり短かったな。だが…もう大丈夫のはずだ。


『…無能な人間如きに…私が。…だが!…お前の剣は消えた!。もう私に抵抗する手段などありはしない!。…全員塵一つ残さず燃やし尽くしてやる!。』

 俺の手から双剣が消えたのを見たデリートが大声をあげる。


「…シャーリーの傷に響くから黙れと言っただろう。お前は人の話を聞かない。…だから…負けるんだ、俺たちに!。」

 俺の背後から風の刃が飛ぶ。不可視のそれは俺達を向かって叫ぶデリートを両断した。


「…アリアさんならやってくれると思いました。」


「これでも私はAランクだぞ。好機を見逃すような事はしない。」


『…な…な…私が……最後は…魔法で…敗れるだと…』

 自らに走る斬撃の跡に指を沿わせて驚愕の表情を浮かべるデリート。今でも自分が敗北した事を信じられていないのか。


「俺はお前の魔法障壁も斬っているんだ。それなのにお前は俺が素手になったのを見て完全に油断した。」


「お前ら魔族は人間を舐めすぎなんだよ。その傲りがこの状況を招いている。俺たちはお前らの無策に救われたんだ。」

 そもそも初めからもう1人を回復していれば俺達は手も足も出ずに敗北していた可能性がある。そうしなかったのはこいつらの油断。人間相手なら蹂躙出来るという傲り。人間が仕掛けた罠などどうとでもなるという甘い考え。そこを突いた。


「クラリス様、もう大丈夫です。こいつに魔法を阻害する力は残っていません。そっちの奴にトドメを。」


「わかったわ。…クラヒト、貴方は切れ者なのね。戦いの場での貴方は別人のようだわ。姉上が私に推薦したのがわかる。」


『この馬鹿野郎が!あの時お前が俺を治していれば!こんな事にならなかったのに!。クソクソクソクソォ!。』

 聞くに耐えない叫び声をあげて筋肉の塊がクラリス様にトドメをさされる。


「………終わったか。」

 気が抜けた俺はその場で尻餅をついて大きく息を吐いた。六芒星が頭から消える。途端に怯えが出るんだから厄介なもんだよ。でも…なんとか誰も死なせずに済んだ。それだけで俺がついた来た理由があったよ。

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