託された希望、男として。
『…魔法に対して耐久力を持たない獣人が私の魔法を防いだだと?。…何をした。』
シャーリーにぶっ飛ばされたデリートは顔に傷をつけ口から血を流しながらシャーリーを睨んでいる。完全に虚をついた攻撃だったのにあれだけしかダメージを与えていないのか。
「そんな事教える訳ないのよ。精々ご自慢の頭で考えると良いのよ。」
デリートの言葉をシャーリーは挑発で返す。だが、
(…シャーリーのあの腕。…恐らくもう折れている。それだけあの魔族の皮膚が硬いという事だ。)
シャーリーの右腕は明らかに異常をきたしている。力無くぶら下がっているだけのようだ。
『減らず口を。…その腕も、もう使い物にならないのでしょう。…良いでしょう、楽しまさせてもらうことにします。今から私は貴女に当たれば即死の魔法を放ち続ける。…躱せるなら躱して攻撃すると良い。体が持てばですが。』
デリートにもその事はバレているようだ。そしてデリートは非情な提案をして弄ぶようにさっきの黒炎をシャーリーに向けて放つ。
「…っ!…単発で食らうほど…な⁉︎。」
一直線にシャーリーに向かって放たれる黒炎。当然シャーリーは回避するが黒炎は軌道を変えて鞭のようにシャーリーに襲いかかる。
『…ふふっ、…どうしますか…ごはっ⁉︎。』
黒炎がシャーリーに巻きついたと思った瞬間黒炎は消え加速したシャーリーの左拳がデリートの鳩尾に掌底を加える。そしてそれだけじゃ終わらない。シャーリーはその場で足を軸に回転強烈な肘打ちを加える。デリートに防御の姿勢を取る動きはない。…推測だが魔法型且つ硬い皮膚を持っているが故に体術の研鑽を積んでいなかったのだろう。
『…このっ!獣人が!。…消えろ!。』
デリートの口調から余裕がなくなり、全身から濃密な魔力が溢れ出す。そしてそれらが全て黒炎へと変化する。その燃える体でシャーリーに飛びかかり覆い被さるように攻撃を仕掛ける。だがシャーリーに触れる寸前その黒炎は消えて残ったのは無防備に晒された胴体だけ。
「…壊腕全開なのよ!。」
シャーリーがその開いた胴体に両手を突き出す。デリートに触れた瞬間爆音を上げて大爆発が発生。シャーリーとデリートはその場から吹き飛ばされる。
「…シャーリー!。……こんなボロボロに…、それにお前スキルを…。」
ギリギリで回復が終了した俺は転がってきたシャーリーを抱き止める。シャーリーは全身に火傷を負っていて更に両腕が紫に変色している。やはり無理をしていたんだ。そして問題はそれだけじゃない。俺だけが知っているシャーリーの秘密。
「…まだ…なのよ。…私に…出来るのはここまでなのよ。…少し……休むから…任せるのよ。」
俺はもう天癒を使ってしまっている。回復させるにはクラリス様が持っているポーションの服用しかない。ポーションは簡単に言えば回復力の爆発的な増加を促す物。俺の天癒のような劇的な回復は見込めない。更にある理由で今のシャーリーには効き目が薄いはず。シャーリーはここまでだ。後は…
「俺がやる。シャーリーが繋いでくれた希望を俺が紡いでみせる。」
俺はシャーリーをクラリス様に預けるとデリートが飛んでいった方向を見つめる。…まだ倒せてはいない。魔族の耐久値はこんなものじゃない。
『…クフフ…、よくもここまでやってくれたものだ。なるほど、なるほど、獣人はスキル持ちでしたか。それも希少な時間系統。ですが、もうダメのようですね。』
俺の予想通りデリートは立ってくる。当然無傷とは言わないがそれでもそこまで堪えている様子もない。そしてシャーリーが黒炎を回避していた秘密にも気がついたようだ。シャーリーのスキルはあらゆる物を1分前の状態に戻す。その能力で黒炎を発動前に戻すことによって攻撃をやり過ごしていた。
『今まで使っていなかったのは…何か発動に枷があるから。そして…自己対象でもないようですね。』
シャーリーのスキルの秘密が暴かれる。シャーリーのスキルは自分には使えない。だから自分の傷を癒す事は出来ない。まぁ、もし仮に自分に使えたとしてもそう易々と使う訳にはいかない。アグナドラゴンを倒した時にシャーリーに教えてもらった。このスキルは使えば使うほどシャーリーの自己回復力を削ぐ。前回は一時間以上発動させてしまってその後暫くシャーリーは大変なことになった。生物は普通に動いているだけで筋肉を使って、自己回復している。代償として日常のそれすらも回復出来なくなってしまう。歩くだけで筋肉痛になり、それが治らない。出血しても止まらない。それがシャーリーのスキルの代償。今回は3回だけ使ったようだがその反動がどれくらいかは分からない。だが暫くはポーションの効果も打ち消すことになる。その分地獄の痛みが続くはずだ。それを分かった上でシャーリーは俺に託した。これで…期待に応えられないなら俺はもう終わりだ。
『かなり使い勝手の悪いスキルのようですね。でもそれも終わり。…次は貴方を…』
「ごちゃごちゃ煩いぞ。シャーリーの怪我に響く。黙ってろ。」
俺は頭の中でイメージを固める。本当は良くないんだが即興でもいける確信があった。
『…頭が回ると思っていましたが気のせいだったようですね。ならば…さっさと死ぬがいい!。』
デリートが俺に黒炎を放つ。鞭のような炎が数本俺に襲いかかる。
「…造匠。…対魔特化『破魔斬り』‼︎。」
俺の手には二振りの剣。その場で回転しデリートが放つ魔法を…絶ち斬る。