強い者が勝つ?否、勝った者が強い。
爆発による奇襲。このダンジョンに潜るにあたって考えてきた俺なりの秘策だったのだが魔族は無傷だった。
(…これは…結構まずい。捨て身の不意打ちだったはずなのに…。)
爆風によって飛ばされたので俺の全身に擦り傷が出来ている。こんな事ならもっとちゃんとした装備を購入しておけば良かった。だが問題点はそこじゃない。
(俺の出せる最高火力はここでは使えない。…陽の光がないから。)
アスラに致命的なダメージを与えた日輪。その本質は太陽光の収束にある。ここには陽の光は届かない。それを考慮してあの爆発物を用意したのだが…。
『どうした?これで終わりか?。アスラを追い込んだ実力を見せてみよ。』
こっちの気も知らないで魔族は好き勝手言う。大虎はまだ止めれない。膂力では通用しなくても回避能力の為に切り替えるわけにはいかない。…覚悟を決めるか。
「…ごちゃごちゃうるせーな。言われなくてもやってやるよ。」
俺は白雪に合図を送った後大きく踏み込む。陥没する地面。それだけの踏み込みによって一気に加速する。狙うのは魔族の足。兎に角敵の機動力を奪わないと大虎が尽きたら終わりだ。
『そんなに真っ直ぐに来るとは。…舐めるなよ?。』
当然俺の突進なんて魔族には反応できる範囲だ。迎撃の構えを取る。
「ブラインド!。…そんで…ソフト!。」
魔族の目元に黒いモヤのような物が出現する。目隠しは成功。そしてソフトを発動する。指定する場所は奴の足元。大きく肥大した魔族の体。それに伴い重量も増しているはず。その足元を緩くした。それによって前傾に傾き目隠しも相まって俺への攻撃は空振りに終わる。ここが好機だ。俺は潰れかけの右腕に渾身の力を込めて魔族の右足に叩き込む。当然先程と同じように此方の腕が破壊される感触が伝わる。だけど…分かっていたら堪えられる!。
「…うおぉぉぉぉぉ‼︎。…砕けろぉぉ‼︎。」
どれだけ腕が痛もうとも踏ん張る。全身に力を込めて筋肉を連動させる。腕が潰れたなら肩で、肩が潰れたなら腰で力を込めろ!。
「良くやったクラヒト。ここが分岐か。ならば…『疾風の刈刃』!。」
俺の背後でアリアさんの魔力が膨れ上がるのを感じる。前に聞いていた、アリアさんが持つ2本の剣。その内、風の魔力を纏う剣には裏技がある。自分の体力と引き換えに刀身を巨大化させる事が出来るのだ。剣の鍔の部分までを刀身としたアリアさんが俺の攻撃しているのと逆の足に斬りかかる。
『…ごおっ⁉︎。…貴様ら…人間の分際で!。俺を舐めるな!。』
魔族が怒気を孕む魔力を纏う。だが引けない。幸いまだブラインドは解けていないし足も陥没したままだ。こいつが動けないうちに出来るだけダメージを与える。
「…お前こそ…人間を舐めるなぁぁ‼︎。」
俺は両手を使い連打を見舞う。痺れる両腕。頭に伝わってくる痛みで意識が飛びそうになる。
『…クゥ!。』
ぼぉーとし始めた俺に白雪が合図をくれる。魔族のブラインドが切れる合図だ。
「…これで最後だ!。」
トドメとばかりに蹴りを打ち込みその場から離脱する。アリアさんも俺の行動を天眼で見ていたのかほぼ同時ぐらいに飛び退く。
『…ぐぅ…人間、…貴様らよくも…』
魔族が沈み込んだ足を引き抜き此方を睨む。片足はボコボコに腫れ、もう片方には無数の切り傷が出来ている。あれだけやってもこれだけ。とてもじゃ無いが致命傷じゃない。だけど無意味じゃない。
「行けます!。」
後ろからクラリス様の声。魔族も気配を感じ取ったのか攻撃対象を俺たちから後ろのクラリス様に変える。だがそんな事許すわけない。
「…お前の相手は…俺たち…だろ!。」
動き出した魔族の前に体を差し出す。移動速度が明らかに遅くなっているから割り込めた。当然既に大虎が切れかけている俺では止める事は出来ない。俺は吹き飛ばされ壁にぶち当たる。だが一瞬の時を作れれば…それで良い。
「…侵空定位!。」
クラリス様が飛び出して魔族には向かって腕を振る。魔族の体を袈裟斬りにするように一筋の線が走る。恐らく範囲を限りなく狭くしているのだろう。線は細く、しかし射程は長く、魔族の体に迸る魔力すら消し去れるような空間魔法。
『…何を…、………これは…こんな…ことが…!。…俺は…魔族だ!、貴様ら人間とは…次元が…』
魔族は始めは何が起こったか分からなかったんだろう。だがな、お前の体は既に切断されている。クラリス様の魔法が通過した線を境に上半身がずれ始めている。気付いた魔族が何とかしようとするが筋肉だけの野郎にそんな術はないはずだ。
「…あぁ、そうだろうな。確かに俺たちはお前より弱いさ。だけど…勝ったのは俺たちだ。」
ボロボロになって壁に体を預けている俺と体を二つにされた魔族。受けた痛みは俺の方が多いだろう。だけど…勝ったのは俺たちだ。
『クソがぁぁぁぁぁぁ‼︎。』
どんどんずれていく魔族の体。なんとか腕を使い固定しようとしているがどうにもならない。魔族から出る魔力もどんどん減って行っている。恐らく殆どの魔力を時間稼ぎに使っているんだ。
「…トドメをさします。…」
クラリス様が両手を上段に構える。その構えからの切断の軌道は…
『…な⁉︎…やめろ、今両断されれば俺は!。…』
ごちゃごちゃ言ってるが関係ない。先に手を出したのは魔族の方だ。
「…侵空定位!。」
クラリス様が腕を振り下ろす。斬るのではなく存在を削る一閃は魔族を縦に両断する。…はずだった。
『…おやおや、間に合ってしまったようだね。んー、あと少し後に来れば良かったよ。』
クラリス様の攻撃は防がれた。新たな敵対者の手によって。
「…2人目だと…!。」
それは俺たちに絶望を突きつけるには十分な事実だった。