強襲、切り札を守る戦い
『…クゥ…クゥ…クゥ…』
頭を揺さぶられる。何事かと目を覚ますと白雪が俺の頭を叩いていた。現在ダンジョン3階。拠点を作成した俺たちはご飯を食べた後各々休息をとっていた。
「ん、どうした白雪。お腹が空いたのか?。」
普段夜中に起こされる事はない。白雪の様子が気にかかる。
『…クゥ、クゥ…クゥ!。』
白雪は俺に何かを訴えかけるように俺を揺さぶるのをやめない。なんだ?…白雪は何を伝えようとしている?。俺の頭の中では考えが纏まらない。すると白雪が影から予備のナイフを取り出した。それを見た瞬間俺は背筋に悪寒が走る。
「…っ!…まさか!。アリアさん!シャーリー!クラリス様!。…敵だ!。」
瞬間叫び声を上げた。ナイフなど使ったことのない白雪がナイフを取り出したのは戦いに備えろって意味だ。
『…ビーーーーーーー‼︎。…バンッ‼︎。』
警報が鳴り響く。魔導具が反応した。そして壊された。敵は魔導具の事を理解できる知能がある。そして更に状況は変化する。吹き荒れる突風。俺たちが休んでいたテントは全て吹き飛ばされてしまった。
『ほぅ、突然の訪問にも関わらず臨戦態勢か。熱い歓迎じゃないか。』
敵の正体が判明する。間違いない、魔族だ。この肌がひりつく感覚は忘れる事が出来ない。筋骨隆々のプロレスラーのような男だ。
「…クラヒト、助かった。なんとか態勢を整える事が出来た。」
俺の隣に立ったアリアさん。後ろにいるシャーリーとクラリス様も装備は問題ないようだ。
「俺じゃなくて白雪のお陰です。白雪が気づいてくれたから闇討ちを受けずに済んだ。」
もし寝込みを襲われていたらあのテントと同様に吹き飛ばされ最悪そのまま殺されていたかもしれない。
『…その竜、いや龍は…⁉︎。…そうか、貴様がアスラを退けた男か。ふんっ、見たところ平凡な冒険者のようだが。』
そうです、その通り平凡な冒険者です。だから帰ってください。俺の頭の上に居座る白雪を見た魔族が一瞬表情を変える。そしてその口からはアスラの名が。以前俺が日輪を使ってなんとか退けた魔族、そして白雪が生まれた魔翠玉を落とした魔族の名だ。
『俺に気づけたのはその龍がいたからか。アスラはそれを失って大変な事になっていたが…、…代々魔族が信奉する存在なのだからな。だが…敵に回ると言うなら容赦などしないぞ。転生させればいいだけだ。』
そう言うと魔族の体が更に膨れ上がる。…デカイ。体の表面に赤い筋が走り発せられる熱気だけで周りの地面に亀裂が走る。アスラが魔法特化ならコイツは近接特化なのだろう。
「…大虎!。…っ…俺はこの身で障害を打ち砕く!。」
頭の中の六芒星が回転する。発動したのは大虎。強大な膂力を手に入れる事が出来る能力。だが大虎になって…分かってしまった。コイツは強い。大虎でも回数は保たない。心に弱気が満ちるのを防ぐ為に言葉を紡ぐ。コイツを倒すにはあるスキルが必要だ。その人を守らなければ俺たちに勝ち筋はない。
「…天眼。…私では触れられれば終わりだろうな。だが…この身は剣。…いくぞ。」
アリアさんも敵の強さが分かっている。それでもなお前に出る。俺と同じ考えに至ったのだろう。
「…2人とも。…安心するといいのよ。私が…最後の砦なのよ。」
シャーリーは魔族の視線からクラリス様を隠すように立ち塞がる。俺とアリアさんが抜かれたらシャーリーしかいない。俺達の攻略の鍵は最後尾にいる。
「…あの体を覆う魔力。あれを抉るには…収束と結束。密度をあげる。」
クラリス様の魔力の高まりを感じる。ここからはクラリス様は何も出来ない。目の前の筋肉ダルマを消し去るだけの魔力を練り上げなければならないだから。
「俺を倒せればアスラよりもお前が強いって事になるんじゃないか?。まぁ、倒せればの話だけどな。」
俺は意識的に挑発を行う。この中であいつの攻撃を食らってもなんとかなるのは多分俺だけだからだ。
『…ふんっ、見え見えの挑発だな。だが…悪くない!。』
魔族が俺に飛びかかってくる。ギリギリで飛び退く俺たち。魔族が着地した地面は隕石が落下した後のように放射線状に亀裂が走る。
「…走れ、風太刀。」
アリアさんが風の斬撃を放つ。だがそれは魔族が突き出した右腕に消し去られる。だけどそれも分かっていた。だから俺はその攻撃に合わせて前に飛び出す。でかくなって広がったのは攻撃範囲だけじゃない。懐に潜り込み渾身のボディーブローを加えた。倒せなくても…動きを止める!。
「……嘘…だろ。」
殴った右腕からは鈍い音。そして衝撃で切れ、血が噴き出す。直感で分かる…恐らくもう右腕は使い物にならない。頭の中で警報が鳴り響く。今すぐ天癒を使えと。だが…まだ使えない。
『…そんなものか?。ならば…死ね。』
覆い被さるように攻撃してくる魔族。俺は攻撃した体勢のまま。このままだと潰されるだろう。
「白雪!。」
白雪が影に収納してある薬品を放り出す。単品では安定しているが混ぜると…
『…ドォォォォ…ン‼︎。』
お互いを刺激し爆発する。その爆風で吹き飛ばさせる俺。地面をゴロゴロと転がり全身を強く打つ。
「クラヒト!。…大丈夫なのよ⁉︎。」
「…あ、あぁ。…なんとかね、…白雪、よくやってくれた。」
俺はシャーリーに支えられて黒煙を見る。恐らく今のでも倒せてはいないはずだ。だが時間稼ぎにはなる。
『…ふふ…ふはは!。…そうか、これがお前の戦いか。中々に策を弄する。ならば俺はそれを全て…潰してやろう。』
煙の中から出てきた魔族は…
「…やばっ、…無傷は想定外だ。…」
全く傷を負っていなかった。外皮が硬すぎる。
『いつになったら貴様らの顔が絶望で歪むのか。楽しみだ。』