三階層を走破、姉上とお姉様
「…さっきの階より敵の動きが速い!。それにこの特性は…。アリアさん!今の時間はわかりますか!。」
現在はダンジョンの3階。やはり階をおうごとに敵は強くなってきていた。2階では敵は狼のような魔物、そして3階では蜘蛛のような魔物を相手にしている。こいつらはフロア中に糸を貼り巡られせていてその上を高速で移動してくる。また射出される糸は粘性を持ち触れてしまうと動けなくなるという事はないが大きく動きを阻害される。武器を介すことなく敵に攻撃するシャーリーには特に負担が大きい敵だと思う。厄介極まりない。長期戦は避けた方がいい。
「もうすぐ日付が変わると思うが…使うのか?。」
ダンジョンの中では陽の光が差さない。だから時間感覚が狂うけどアリアさんは経験が豊富だから問題ないらしい。
「うん、…俺が前に出る。…まずはこの状況をぶっ壊す!。…白雪、俺にお前の力を貸してくれ!。」
俺が発動したのは神速。発動時間は短いが魔族ですら捉え難い速度で移動できる。俺が今からするのは敵への攻撃ではない。この階層での敵のアドバンテージ。張り巡らせれた糸の破壊を行う。俺の手に闇が集まる。これこそ俺と白雪の特訓の成果。白雪の闇属性の魔法を俺の体に付随させることによって擬似的なブラックホールを作る。ただし範囲は俺の手のひらだけだ。
「…どんどん落ちていくのよ。これなら…少しはやりやすくなるのよ。」
俺は次々と糸を切っていく。素手で触れれば絡め取られるけど白雪のお陰でそれもない。足場を無くした魔物が次々に地面に落とされる。そうすれば敵の機動力を削ぐことが出来る。
「…っとと、これぐらいで大丈夫だな。」
俺は限界が来る前に神速の発動を止める。これからも戦闘は行わないといけないから行動不能になるわけにはいかない。
「良くやったクラヒト。地面に落ちればこちらのものだ!。…全て斬り裂いてやる!。」
アリアさんが風の魔法を発動する。今までは剣で斬っても人が絡みつき、魔法を放とうにも躱される状況だったからフラストレーションが溜まっていたようだ。アリアさんが振るう剣から風の斬撃が飛ばされる。その斜線上の魔物は一刀両断にされて消え失せる。流石の切れ味である。
「シャーリーはもう下がっていいよ。俺が終わらせるから。『造匠』!。…『必的』。」
俺はシャーリーを下がらせ造匠を発動する。今回錬成するのは振った斬撃が必ず敵に当たる能力。ただし威力は俺が振ったのと同じだし当たるまで敵を見続けなければならない。初めて造匠を発動した時に魔物の大群を斬り伏せた能力を使いやすくしたものだ。一撃の威力を抑えることで使用回数を伸ばしてある。今回の敵は硬さ自体はそこまでではないからこの能力で処理できる。俺とアリアさんの遠距離斬撃コンボによってどんどん数を減らしていく魔物。クラリス様とシャーリーは既に警戒体制を解き拠点制作を始めている。
「…これで最後だ。…よしっ、思ってたより発動時間が長かったな。途中で切れると思ってだけど。」
最後の一体を斬り終え造匠の発動を止める。条件を緩めたとはいえ最後まで持つとは思っていなかった。ひょっとして俺の成長に合わせて発動の最大量も延びているのかもしれない。もしそうなら強力な能力を付与した剣を数回使える。それによって一気に戦況を変えることが出来る。
「…まぁ、今試すことじゃないな。アリアさんお疲れ様です。」
魔石の回収に向かっていたアリアさんが帰ってくる。
「あぁ、クラヒトのお陰でかなり楽に殲滅出来たな。貴重な能力を攻撃ではなく場を整えるのに使った時は驚いたが成る程、良い判断だった。そのスキルはお前にピッタリだな。」
アリアさんの口から褒める言葉が出る。…シンプルに嬉しいな。
「2人ともお疲れ様。こっちに一応の拠点は作ってあるわ。申し訳無いけどアリア、最後に確認して貰っていい?。」
クラリス様とシャーリーは拠点を完成させていた。テントが4つと火を起こすための設備が用意されている。普通に泊まりの依頼を受ける時よりしっかりした設備だ。クラリス様、様々である。クラリス様の言葉を受けてアリアさんが天眼で周囲を確認する。
「…問題はないようですね。それでは私は警戒の魔導具を設置してきます。」
このフロアの安全を確認したアリアさんはクラリス様が出した荷物の中から数本の棒を持って歩いていく。
「…シャーリー、あれは何?。」
気になった俺はシャーリーに小声で尋ねる。
「あれは魔道具なのよ。いくら索敵しても敵が来ないとは限らないのよ。だからああやって周囲にあの棒を立てるのよ。そうしたら棒同士が魔力で繋がって何かが通ると音が鳴るのよ。」
畑の周りに設置する柵のハイグレード版のようだ。
「ふーん、…高いの?。」
「金貨で500枚ぐらいなのよ。後魔力は充電式でそれが一回で金貨5枚なのよ。」
本体価格5000万で一回毎に50万か。目玉が飛び出る程高いな。
「うぇー、…一回毎に金貨5枚か。そんなの買う人いるの?。」
「金貨5枚よりもメリット方が大きいのよ。先ずは交代で監視を立てる必要がなくなる。それにいざとなった時に救援を待つのにも使えるわ。だから…高位の冒険者では持っている者も多いのよ。」
クラリス様が答えてくれる。聞かれていたようだ。
「そっか、ならあれを作っている商会は儲かってるんだ。」
「いいえ、そんな事はないわ。あれはお姉様が遺跡から見つかって物を改良して作った物だから。価値で言えば金貨1000枚ぐらいよ。それを国の為に戦う冒険者にって事で金貨500枚で貸し出しているの。金貨500枚はいわば資格のようなものね。引退する時には返して貰って金貨500も返すのよ。だからお姉様の取り分は金貨5枚。あの魔導具に魔力を注ぐのはお姉様でも数日かかるから金貨5枚でも少ないぐらいね。」
「お姉様って…ローゼリア様ですか?。」
ローゼリア様が魔導具を作るって話をしていなかったけどな。
「いえ、マーガレットお姉様です。私とローゼリア姉上のお姉様。魔道具開発の天才なの。」
あー、長女か。まだ会った事ないな。…いや、王女2人に会った事あるのが異常なんだな。皇太子に会った事があるみたいなもんだもんな。
「まぁ、その話は今度時間がある時にしてあげるわ。今は体を休めましょう。アリアも帰ってきたしご飯を食べましょう。明日は今日よりも厳しくなるのだから。」