ダンジョン探索
「…さて…昨日はゆっくり出来たかしら?。」
翌朝宿の前に集合した俺たち。いよいよ今日からダンジョンの探索を始める。引き締めないと、この中で1番役に立たないのは多分俺なんだから。
「それじゃあ行きましょう。」
この街からダンジョンまでは歩いて1時間ほど。今回は馬車は使えない。だから道中も魔物が出るがそこまでランクの高い魔物は出ない。どれも俺でも倒せるぐらいだ。
「…ここね。…入る為には…この魔導具かしら?。」
ダンジョンに到着した。一見するとただの洞穴のようだが奥に扉のような物がある。
「クラリス様、…ここは私が。」
アリアさんが先頭に立ち扉を開ける。既にその目は赤い光を帯びている。天眼で扉の先の安全を確かめているのだろう。開けた途端の即死系の罠とかあったら嫌だしな。
「…これは…。…凄いな。」
中に入った俺の口から言葉が漏れる。壮観な景色だ。扉からは想像出来ないほど広い空間。そして壁には壁画が刻まれている。空間は奥に続いているようだが暗いから先が見えない。
「…ん、……臭うのよ。…獣の臭い。…どうやら悪い方の予想が当たったのよ。」
シャーリーが眉間に皺を寄せてそう告げる。悪い方の予想。既に魔族が到達していて支配下に置いている。
「…アリア、詳しく見えてる?。」
「…はい、大体は確認できるのですが…恐らく敵に認識阻害系のスキル持ちがいますね。一番奥にいる数まではわかりません。」
アリアさんのスキルでも確認できないか。あ、俺も一応確認しておくか。
「…サークル。…うわっ、…結構いるな。」
俺の索敵範囲は大体半径で50メートル。尚且つ地面に触れているものだけ。それでもそれなりの数が探知できた。
「間違いないみたいね。…アリアは今のうちにマッピングを。それまで私達は近づいてくる敵を払いましょう。」
クラリス様が指示を出す。それに従い俺とシャーリー、クラリス様が前に出てアリアさんが後ろに退がる。魔力切れになった時のことを考え余裕がある内に全体像を掴む計画のようだ。なら俺は邪魔させないようにしないといけないな。
「クラヒト!取り敢えずは宙に浮かぶ敵はいない。これならお前でも索敵できるはずだ!。」
アリアさんからの有難い言葉。不安要素が消えた。俺は取り敢えず一番近い敵を斬りつける。
「…っし!。…次はこっちか!。」
俺はサークルで、シャーリーは嗅覚で敵の位置を把握して攻撃している。ならクラリス様はどうしているのだろうか。
「…空間削除。…ポイント…7、1、1!。」
クラリス様の前に迫っていた魔物がある線を超えた瞬間断ち切られた。
(…今のは設置型の亜空間か。…そこに侵入した敵は触れた部分が消し飛ばされて…死ぬ。…いや、怖っ!。)
クラリス様の心配はいらなそうだ。
「…っとと、…硬い奴がいるな。」
数匹に1匹他の敵と比べて斬りにくい奴がいる。そいつに当たると手に痺れが残る。
「クラヒトは軟弱なのよ。…時代はやっぱり拳なのよ。…すんすん…臭いが減ってきたのよ。」
俺の隣ではシャーリーが魔物の種類関係無しにその拳を叩き込んでいる。
「…よし!出来た!。…マッピング完了しました。私も攻勢に出ます。」
マッピングを終えたアリアさんがクラリス様の隣に立つ。
「なら…空間削除…ポイント5、1、1。…助かるよ、アリア。私の魔法は維持にも魔力がかかるから出来るだけ範囲は狭い方がいい。」
クラリス様の唱える数字がさっきと変わったな。それとその後の言葉から考えるに…X、Y、Zの座標を指定して空間を形成しているようだ。今は長い直方体といったところだろう。
「……俺の索敵範囲には魔物がいないと思うんだけど。…シャーリーとアリアさんはどう?。」
「…私も同感なのよ。でも空間にも臭いが染み付いているから正確じゃないのよ。」
「大丈夫だ。このフロアの敵は全て討伐している。一度集まろう。このフロアにも罠が仕掛けられてあるから説明したい。」
俺は足元に転がる魔石を拾いながらみんなの元に向かう。拾った魔石は白雪にしまっておいてもらう。あ、そういえばこういう時の為の魔法があったじゃん。
「…えーと、サンライト。」
唱えると俺の手から光が溢れる。それまで薄暗かったフロアでもまぁまぁ視界を確保することが出来た。奥の方までは光が届かないけど。
「…サンライトか。…クラヒト、魔力は大丈夫か?。」
アリアさんが心配してくれる。サンライトは発動中魔力を消費し続けるタイプだからだろう。だけど俺は白雪に魔力を吸われ続けた男だ。これぐらいなんて事はない。
「大丈夫。このくらいなら問題ない。」
「そうか、お前は魔力量が多いから羨ましいな。」
うーん、たしかソアラさんにもそんな事を言われた気がする。日輪を使う為に魔力の回路が頑丈にできているとか。
「じゃあ、アリア地図を。……面倒な作りね。」
アリアさんが見せてくれた地図は蟻の巣のようになっており、部屋ごとに区切られていてそれが通路で繋がっている感じだった。フロアは全部で五つあるようだ。
「そしてこれがフロアごとの地図。罠の場所にはマークしてあるので目を通しておいて欲しい。」
それは目に焼き付けないといけない。1人だけで罠にかかるならまだしもみんなを巻き込むのは最低だ。
「…魔物は恐らく下に行けば行くほど強くなる。その分数も減っているが…敵に認識阻害系がいる以上断定は出来ない。」
「そうですか。ならしっかりと魔力配分と何処かで拠点を設ける方が良いですね。出来れば…三階層までは今日中に行きたいですね。」
何処かで休む事が出来るなら…日を跨ぐ事が出来るのなら俺に出来る事は大きく広がる。1日一回だけしか発動しない能力達を惜しみなく使える。
「前半は私中心で良いのよ。魔力の温存の為には近接だけの私が体を張るのがベストなのよ。」
「…いいのか、シャーリー。」
「その為のチームなのよ。」
「俺のスキルも1日経てば使えるから、俺とシャーリーが前に出るよ。2人なら大丈夫だ。」
「分かった。だが私も当然剣は使える。だから2人だけに任せたりはしないぞ。あくまで魔力を節約するだけだ。」
「私は魔法以外は役立たずなので…サポートをメインに。ですが危険だと思ったら遠慮なく使います。」
前半戦に向けて役割分けが完了した。