【第1章】出会い
こんにちは。開いてくれてありがとうございます。
挿し絵も沢山載せるつもりなので、是非そちらもお楽しみください。
昼間でも日の光が届かない深い森の底。
獣の低い唸り声や鳥のさえずりが木陰の間から
時どき漏れ、不気味さを引き立たせる。
その森に引かれた細くうねる獣道を
ひとりの青年が掻き分けて歩み進んでくる。
彼は下級戦士だ。
全身を包む紺色の鎧の薄っぺらさが、
彼の頼りなさそうな雰囲気を増幅させている。
黒く細い髪は汗で湿り、彼の額に張り付く。
若く整った顔には疲労の色が浮かんでいた。
戦士は息も切れ切れに、道を覆う蔦を
レジャーナイフで切りつけながら先へ先へと進む。
彼は強くなりたかった。
だからこの森へ踏み込んだ。
僅かな手荷物と剣のみ持って森に入ってから
かれこれ3日が経とうとしている。
時には自分の背丈の3倍もある巨大カエルと
対峙したこともあったが、
これまで致命傷を受けることもなく、どうにか
自給自足サバイバルを生き抜いてきた。
彼の目には、疲弊の奥に小さな自信の光が
灯っていた。
「ふぅ、けっこう歩いたな」
戦士は立ち止まって、左右を見渡す。
そろそろ休憩しようかな
どこか火を起こせそうな平地を探して、
そこで今朝狩った岩トカゲの肉を焼いて昼飯に
しよう
もう昼の刻をだいぶ過ぎていた。
休憩できそうな場所を探すため
獣道から脇に外れようとしたその時、
彼の足が地面の揺れを捉えた。
ズズッ、ズズズズズズズン
「!、なんだ?!」
腰を低く落とし剣の柄に手をかける。
数十メートル先の前面右方向の木々から、
鳥が一斉に飛び立つ。
森が全身をざわざわと震えさせる。
辺りはさっきの静けさから一転して鳥や小獣の
甲高い声で溢れていた。
戦士は鳥たちが飛び立った方角をじっと見つめ
様子を伺う。
「獣か?かなり大きそうだな……」
彼はややあって、ゆっくりそちらに歩を進めだす。
森が振動するなんてことは、このサバイバル修行が始まってから今まで一度もなかった。
この明らかな異常事態、森に来る前の彼なら
完全に縮みあがっていただろう。
しかし今の彼は、ここまで困難を
乗り越えてこられたという自信に背中を押され、
奮い立っていた。
獣道から外れた深い茂みの中を、
枝木を押し分けながらぐんぐんと進んでいく。
すると、また
ズズズズズズズッ
さっきと同じような地響きが聞こえた。
森がふたたび騒がしくなる。
戦士の胸はさらに高鳴った。
自然と歩みも速くなる。
これはきっとかなり大きい獲物だ
そいつの牙や角なんかを持ち帰れば、
訓練兵のみんなも驚くだろうな
オレはもう弱くないってことを見せ付けてやる!
やがて茂みを抜け、開けた場所に出た。
そこには木々が生えておらず、ぽっかりと空いた
その空間にだけ暖かい日の光が降り注いでいる。
空間の、ちょうど戦士の立っている位置の
反対側の一面は絶壁となっていた。
高くそびえ立つ岩の壁。
そして、
「……なんだ?洞窟か、これ?」
絶壁には、巨大な穴隙があった。
穴の高さは戦士の背丈の5倍もあるだろう。
柔らかな陽光に照らされた空間に似合わず、
それは黒い口を大きく開けて不気味に佇んでいる。
さっきの地響きは、この洞窟の奥から
聞こえたのか?
何かがこの中に……巨大な何かが……
腰から剣を抜き、
いつ何が来てもいいように構えた。
警戒しながらゆっくりと絶壁の穴に向かって
歩きだす。
一歩、また一歩。
口の中が乾いていくのを感じた。
ドクドクと自分の脈の打つ音が聞こえる。
大丈夫、大丈夫だ。今のオレならやれる
とうとう穴隙から5メートル程の所まで来た。
戦士は剣を握り直す。
手の平には汗が滲み、指先は血の気が引いて
冷たくなっていた。
緊張から目を背けるように手の感覚を無視して
目の前の闇に意識を集中させる。
奥に目を凝らすが、何も見えない。
ただひたすらに暗闇。
ひゅうと弱い風が
暗い穴の中に吸い込まれていった。
……ずいぶんと静かだな。さっきの地響きは
この洞窟とは関係ないのか?
しばらく身を固くして様子を伺っていたが、
相変わらず周りは静かなままだった。
ここにいた間に、地響きの正体の獣は
とっくにどこか行ってしまっただろうな
見当が外れた、そう思い剣を鞘に戻そうとした
その瞬間
ズゴゴッ
また地面が揺れ動く。
さっきよりも格段に強く。
はっとして剣を握り直したが、
途端に突風に襲われる。
戦士はとっさに両腕で顔を庇った。
思わず後ろに倒れそうになるほどの凄まじい風。
ゴオォォォと駆け抜ける猛烈な音。
そして、
「ふぐぁあ???!!!!!」
彼の腹に、ずっしりと重たい″何か″が直撃した。
この小説の続きは、ゆっくりですが随時更新していくつもりですので、よろしくお願いいたします。