とても重いものが、ゆっくりと落ちていく雨
あぁ、そうか、そういう事か
道理で、今も降る『この雨』は、嫌に『冷め切っている』わけだ。
彼女は、まちがってはいなかったんだ。
今日、彼女が言っていた流星群、しぶんぎ座流星群、だったか。
俺の目には、今も重く沈んだ色をした雨雲しか見えてない。
そう、『俺の目』には。
「お母さん!また流れたよ!」
「そうね、あ、ほら向こうにも流れたよ」
「ほんとだ!願い事しなくちゃ!」
さっきから、聞こえてくる。
手すりにもたれ掛かり、上を見る身体とは真逆の方向に目を向ける。
俺の住む部屋の階段から見える広い公園。
子供、大人、様々な年齢層に別れた、他の集合住宅の住民達がそこに集まり、雨が降る空を。
俺には、雨が降っている空を
星の雨が降っているという喜びの声を出して。
一体、いつからだろう。俺は、片手に持った、水の入ったコップを、震えながら、口元に寄せ一口、雨水を当たった筈の、濡れてない髪を後ろに送りながら、考えた。
気づき始めて、ただただ、苦しい。
俺は気づいた、なのに、まだ雨が俺の額を流れる感覚がある。
今朝は弱かったはずの雨は、残酷な程、俺を嘲笑う様に強く降ってくる。あの時、俺を嵌めた同僚の様な…
…同僚に、嵌められた…?
そうだ。あの日からだ。
同僚の失敗を、責任を負わされて会社を辞めさせられたあの日。
あの日から、この雨が降り始めた。
いやまて、ならおれは、今、何をしているんだ?
仕事は、しているはずだ。いや、本当に、働いているのか?
この雨は、俺が見て、感じている偽りの雨だ。
なら、俺が信じているものは、全て、『嘘』なのか?
下を除き流行を知る事のできる、会社の窓。
俺が気に入って座っている、公園のベンチ。
雨を弾きながらやってくる、勤勉なバス。
そして
俺の話を、不思議そうに、驚いたり、笑ってくれた。
彼女は。
本当に、彼らが見ている世界に実在していたのか?
おれは、
本当
に
この世界に
実在し
て
い
る
の
か
?
気づけば、俺は、雨粒と共に、空から、ゆっくりと離れていた。
もたれていた手すりも、じわじわと遠くなっている。
手に持っていたコップは、俺より上で、中に入った水を散らしながら、空を舞っている。
下からは、なんだろう。
とても、ゆっくりと、空の雲と同じ様な酷く重い音が聞こえる。
薄くなる、意識の中。
濡れていない芝生の感触を頭部で感じながら。
周りから人の声が聞こえる、何を言っているか分からない。
だが、そんな事はどうだっていいおれは、見なきゃいけないものがある。
痙攣する目を無理やり開けて、空を見た。
「は…は、た…し………か…に、ふっ………て…たな…………」
空を、先程まで、黒い雲が覆っていた空を
幾つもの星が、人の不幸を洗い流す雨のように降り注いでいた。