弱くても、悩みながらも、振り続ける雨
まだ振り続ける、『雨』だ。
この傘を叩く振動と、跳ねる水音、いつも感じ続けるもの。
ただ、以前より少しずつ、なのだろうか、日を追う事に弱まってきている。
何故だろう、いままでは感じもしなかった感覚。不思議な感覚だった。
そう感じ始めたのは・・・
そうだ、彼女がおかしな事を言った、1週間前からだ。
あの時、あの時に、雨の『なにか』が変わり始めた。
「あの・・・」
「あっ、やぁ、今日も遅いんだね」
「は、はい。また課題で・・・」
3日前から、彼女は大学の課題研究で忙しいらしく、普段よりも3本ほど遅いバスに乗っている。
俺ももうすこし早くに帰路に着くのだが、どうにもこの考え事のせいで、最近このベンチに、時間を忘れ座り続けてしまっている。
だが、前よりも少し長い時間、彼女と話が出来る。どうにも、この疑問は俺一人では解けない気がする、解くためには、『疑問』に気付かせてくれた彼女の意見が必要だと。
「ところで」
「?、なんですか?」
「この間、そう先週言っていた」
「先週・・・あっ、あの雨の日ですか?」
「そう、なんであの日は傘をさしてたんだろうって不思議で」
そう、彼女は何時も会う時と違い、レインコートを着た上で、傘をさしていた。
おかしな事を言っているかもしれないが、おかしな事を『この目』で見たのだ。
台風や、雨が強い日にその姿をおかしいとは思わない、けれど、その日は、雨がとても弱かった。
彼女だけでなく、他の人たちも、同じ姿で街を歩いていた。
「そ、そんなに不思議でしたか?はは・・・やっぱりレインコート着てる方をよく見るんですか?」
「え、あ、うん。会社から出ると色んな人がレインコートを着てるよ」
「そうですか・・・前に言ってた流行、私あまり知らなくて・・・」
やっぱり、何かがおかしい、彼女は今もレインコートを着ている。
俺が思っている流行に、彼女は知らないと言っている、なんでだ。
言動が一致しない、長い間話していて、彼女が嘘をついている様子もない。
なんだ、なんなんだ、この違和感は。
「あっ、バスが来たので、それでは」
「えっ、あ、あぁ、気をつけて」
もう来たのか、雨が弱くなっているからか、バスが着くのに気づけなかった。
雨が車体を叩く音が、前より聞こえにくくなっている。前と同じ距離のはずなのだが。
「そ、そういえば」
「?、どうした?」
「今日は、しぶんぎ座流星群、というのが見られるそうです・・よ。覚えていれば、今日の夜、空を見ても、いい、と思います・・・そ、それでは!」
「えっ、でもこの天気じゃ」
彼女はそれを言い残して、思い切り、バスに向かって走っていった、俺の言葉を感じない程に。
しぶんぎ座流星群・・・そう言えば、今朝ニュースになっていたな。聞きなれない流星群の名前だったからか、印象には残っている。
でも、この雲行きでは見れないのではないだろうか、運が良ければ見れるかもしれない。
少し、胸に妙なモヤモヤとした、変な気持ちを引き連れて
波紋が何度も広がる水溜まりのある道を、軽く湿った靴の感覚と共に、帰っていく。






