雨の続く日
長い、『雨』だ。いつから降り続けているんだったのか。
降り続く日を、数える気も無くなる程に
己の喜怒哀楽さえ、感じなくなる程に
自分の存在さえ、感じなくなる程に
だが、そんな雨の中でも俺を支えてくれる場所がある。長い時間の影響で木が痛み、ペンキの剥げた公園の長椅子。
子供の頃から、どんなに暗い気持ちになっても俺を支えてくれるお気に入りの場所。
そのおかげで、嫌に重苦しい空気を耐えることができる。
「あの」
「・・・・・・」
「あの」
五月蝿い、最近よく声が聞こえる。
気持ちを重くさせる暗い雲と相まって、うじうじとした控え目な声。
延々と、こんな雨の中でも時間通りに来るバスの時間まで聞こえるこの声。
苛々する、ただただ嫌な気分になる、適当に遇えば明日から聞かなくて済むだろう。
「・・・何か、用でも?」
「あっ、やっと反応してくれた」
「・・・はぁ」
身に付けた子供らしい黄色いレインコートが似合わない高校生程の女の子だった。
俺が反応したのが嬉しかったのか、その場で軽く肩を動かし、小躍りをしている。
目を覆い隠す程に前髪の伸びた茶髪、時折髪の間から見える光が反射する瞳。
それを見て、俺は不思議に思い周りを見た。
雨はまだ降っている、陽の光も、公園の街頭も光っていない。瞳が反射している『光』はどこから差し込んでいるのだろうか。
「あの・・・」
「ん、あぁ、すみません。それで、何か用でも」
「あ、その・・・なんで傘を、さしてるのかな・・・って・・・」
「・・・?」
そう言われれば、確かに不思議に思う。
なんでこんな雨の中、俺だけが傘をさしているんだ。
疲れを感じないが、歩くことが気だるくなる街中
外と中の空気が入り混じる会社の窓から覗く外の景色
みんな様々なレインコートを着ている。
もしかして、長い雨の御蔭でレインコートの流行でも来たのだろうか。
そう言えば、長い間ニュースを見ていない。
どうせ明日も雨だ、と思ってしまっているからか。
「いやぁ、そんな流行が来てるなんて知らなくて・・・」
「・・・?なんの・・・あ」
水溜まりの水が跳ね、降り注ぐ雨が鉄を叩く音。
バスが来た、シューッとよく分からない音が響き、ガコッと音を立て扉が開く。
今の自分には、懐かしさを思い出させる音だ。
「あ、あの・・・」
「あっ、まだ、なにか」
何かを呟いている、雨の音のせいでよく聞こえない。
急がないと雨水をレインコートから払っている合間にバスが行ってしまう、そんな不安を感じる。
そう思った時、彼女はすぐに走ってバスに向かっていった。
通りすがりに小さな、雨の音が一瞬聞こえなくなったのでは無いかと思う程、小さな声で
「あ、明日もまた・・・」
気づけば、バスは出発していた。
相変わらず、雨は嫌に強く降り続いている。
街灯が仄かに、明かりを灯し始めた。
「・・・どうせ、明日もここにいるしな」
俺は腰掛けた長椅子から、重い腰を上げ
開いた黒い傘が弾く、先程よりも少し弱くなった雨の音と、1歩進める度に靴底から伝わる湿った嫌な感触に延々と襲われながら
家へと向かって歩いていった。