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もう好きに生きますから!~愛され転生者と銀の貴公子の和食で盛り上げる領地経営~  作者: りょうと かえ
第3章 聖女はもふもふ精霊に出会う

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15.聖女は泉を封印する

「泉の魔力は私が抑えるわ」


 魔獣は負の感情が結晶化した存在だ。源となる魔力があると無限に生まれてきてしまう。

 目の前の泉が典型例だ。


 もし精霊がちゃんと機能しているなら、魔獣の増殖は最小限になるはず。


 ……でも白犬は力をなくして……魔獣がたくさん出現してしまったのだ。


 私は霧の中で力なく横たわっていた、この白犬の精霊を思い返す。


 精霊は魔獣を打ち払うが、それができなくなると魔獣が溢れかえる――いずれヴァレンストの街にも魔獣が現れるようになってしまう。


 放置することはできない。泉には封印をして、魔力が出ないように処置しないといけないのだ。


「…………わかりました。その間の周囲の守りはお任せください。ですが、ニーア様だけで大丈夫なのですか? 」

「軽いものよ、これくらいは」


 私は肩を鳴らしながら泉を見据えた。

 光を放つ泉は無秩序に魔力を放っている。


 フォルトの懸念もあながち的外れではない。

 泉の魔力は相当大きい。広範囲の霧と魔獣だ。

 普通なら十人もの魔術師が慎重に作業しないと封印できない。


 しかし私は何も恐れてはいなかった。ほんとうに私の魔力は桁違いなのだ。

 それほど時間はかからずに封印できるだろう。


「危ないから……近くに来て、白犬くん」


 私は優しく言って、白犬の精霊の頭を撫でた。


「……わふ」


 おとなしく白犬は撫でられると、尻尾を振る。わかった、ということなんだろう。


 そのまま泉のすぐそばに屈んで、水面に手を伸ばす。

 指先が水面に触れると、それは魔力のせいでかなり熱く――温泉のように感じられた。


 泉に触れると、途端にゴブリンが興奮しはじめる。


「「GYYYYYYAA!!」」

「うるさい小鬼め。わめくな」


 魔獣はどのような姿をしても、実際には生きてはいない存在だ。食事も生殖活動もせず、破壊と殺戮しか行わない。


 理解や共存など不可能、そのため発見したら駆除あるのみだ。


 フォルトもそれは骨身に染みているだろう。

 黙って泉を封印されるつもりがないのなら排除するだけだ。


「お前達にくれてやるには過ぎた魔法だが――主の邪魔などさせない。【風雷剣】」


 フォルトの右腕から激しく紫電が走る。雷は跳ね回りながら周囲のゴブリンを瞬時に焼き払っていく。


 さながら稲妻の嵐が横一線に薙ぎ払ったようだ。


 力を失ったゴブリンはそのまま、灰へと変わる。魔獣は死んだのちに、何も残さない。


 霧の中から続々とゴブリンが現れる。しかしフォルトは意にも介さず、紫電を暴れさせゴブリンを近付けさせない。


 私は水面に意識を集中すると、ゆっくりと自分の魔力を泉へと流し込んでいく。


 泉が放つ淡い純白の光が、少しずつ小さくなり――放たれる魔力も減っていく。


「……わふぅ……わふっ」


 横に並んだ白犬が私と同じように右足を泉に入れて、魔力を抑えるのを助けてくれる。

 さすがは精霊だ。


「いい子だね、よしよし……」

「わふぅ……」


 白犬が私に白くて柔らかい頭を寄せてくる。

 思ったよりも魔力の封印はうまく進んでいる。


 泉の光が私の近くからゆっくりと消えていく。青い水面が広がり続けて、手に触れる水温も冷たくなっていった。


 横ではフォルトが雷を縦横無尽に操って、ゴブリンを全く近寄らせない。

 ちらりと泉の方を見たフォルトは感嘆したように、


「もう泉の光が消えるのですか……? なんとも、想定より恐ろしく早い」

「……集中できたからね、ありがとう」


 やがて泉の光が完全に消えて、熱量もなくなった。

 ゆっくりと周囲の霧が風に吹かれて薄れてくる。


 泉から放たれる魔力が消えると、魔獣も存在を維持できなくなる。

 まもなくゴブリン達も呆けたようになり――一握りの灰になって消えていった。


「わふっ!」

「よしよし……! うまくやったね」


 もふもふと白犬の頭を抱きかかえる。

 泉の魔力は封印できて、魔獣も封印できた。


「ふぅ……よくぞこれほどの短時間で封印できましたね」

「それほど泉の魔力は汚染されてなかったからね……」


 光が白でなく黒かったなら、こうはうまくは行かなかっただろう。

 まだ魔力は噴き出していただけで、私の力を拒むことはなかったのだ。


「蓋を作っただけだしね」

「……言うほど、簡単ではないはずですが……。とはいえ、これで一件落着ですね」


 フォルトが言いながら、白犬の精霊をじっと見ていた。

 次にフォルトが何を言いたいか、なんとなくわかった。


「あとはこの精霊をどうするか――置いていくか連れて帰るか」

「連れて帰りたい……!」

「……精霊は人に懐くことはあまりないと聞きますが」

「この子はおとなしいよ、ねっ!」

「……わふぅ」


 精霊は魔力に惹かれる。

 もし私のことが嫌いなら、すぐにでも去っていっただろう。


 この白犬の精霊の相性はいいはずだ――さっきも言うことを聞いてくれたし。

 これほどなついてくれるなら、元々生息していたこの湖に置いていくか、連れて帰るかは選んでいいはずだ。


 とはいえ、私はこの白犬を置いてきぼりにしたくなかった。

 今回はたまたま救えただけだ。

 また何かあれば、今度こそ白犬は死んでしまうかもしれない。


 そして白犬の精霊もつぶらな瞳で二人を見上げる。

 かわいい。

 とてもかわいい……。


「ちゃんと私が面倒見るから……」

「わ、わかりましたっ。わかりましたからそのような目で私を見ないでください!」


 フォルトは眉間に皺を寄せながらも許可してくれた。

 んふふ、よーし。

 なんだかんだ言って、フォルトは優しくしてくれる。


「良かった……稲もあったし、今回は当たりだね!」

「稲ですか? それはなんでしょう?」


 ああ、やっぱりと思った。

 この世界では全然、稲も米も知られていない。


 あるいは東の大国では食べられていたのが、その文化ごと失われてしまったのか。

 でも失われても、元に戻せばいいのだ。


 自分にはその知識が――前世の知識がある。

 さっきの鳥居や狛犬の像。


 間違いでなければ、東の大国は日本と似た文化を持っていたのだろうに。

 今ではその大国のことは、ほとんど誰も知ることがないほどに消え失せてしまった。


 ……運命みたいなものかなぁ。前世の記憶と滅びた文明が重なっているなんてね。


 フォルトの問いには、これ以上ないくらい自信を持って答えられる。

 稲に軽くさわりながら、私はあんまりない胸を張った。


「とってもおいしい、ご飯になるんだよ!」

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