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格差社会における異世界転生について  作者: ゆきしろ
第一章 ~アーデルハイト~
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~転生後 アーデルハイト~

 はじめまして。私はアーデルハイト・フォン・エスターライヒと申します。気軽に『ハイジ』とお呼び下さい。突然の告白で恐縮ですが、私は所謂『転生者』というものにあたります。要するに、前世の記憶を持ったまま新たな世界に生を受けた人間、という事ですね。

 長ったらしい名前から推察される通り、今生の私はとある国の皇女となります。前世の私は、裕福でも貧乏でもない、平凡な家の子供でした。その生が潰えたのはかなり若い時期でしたが、特に後悔はございません。別に家庭内不和があったとか、或は今が恵まれているから、というような理由ではないですよ?単純に死んでしまった実感が『そんなものか』というレベルのものだった、というだけです。

 時代としては所謂『中世』の時代、王や貴族が土地の所有を主張し合い、戦争やら政変やらにより、国の境界が頻繁に変わるような世界です。ただ、『魔法』という法則・力、魔物や獣人などが当然のように存在しているのが、私の知っている歴史とは異なっております。まあ、一言でいうならば、『ファンタジー』の世界、とした方が正確なのかもしれません。今は自分が生きる現実の世界として存在しておりますが。

 そんな世界の中、私の所属する国は比較的大きな――というより、他国々と覇権争いをするような、1、2を争う大帝国です。家族構成としては、父皇帝、母、そして異母兄の3人と、お国事情からすると華やかさに欠ける内容です。父がかなりの愛妻家だからでしょう。そして、父や兄は私を溺愛しており、自分で言うのも何ですが、非常に甘やかされて育てられました。そして、それは現在進行形です。

 生まれもそうですが、能力・容姿にも恵まれていると思います。頭の回転も非常に早く、身体能力・魔力も人並み以上。金髪のストレートヘアーに碧眼、整った小顔に15歳にしてしっかりとした凹凸を持った体。そして、『ギフト』とでも呼ぶべき特殊能力も持ち合わせております。それは、精神抵抗力の低いものの眼を覗き込む事で魅了し、自分のいいなりとする事が出来るという非常に強力な力です。ただ、こういった力は多用すると、不審を抱かせたりして、逆に迫害を受ける原因ともなりますので、使いどころを間違えないようにするのが重要です。私はこの力を直接お友達に向けたりする事の無いよう注意するようにしております。

 こういった状況ですので、私は自分が非常に恵まれた転生をした、と認識しております。要するにあのマスコットが言っていた『特典』が沢山ついた、という事になるのでしょう。他の7人がどうなっているのか分からないので、もしかしたら比較としてはそうでもないという可能性もありますが。

 とはいえ、私としてはそれに安座して華やかな暮らしをする、というつもりはございません。先ほどの『魅了眼』でもそうですが、力に驕ればどんな転落が待っていても不思議とは思いません。そうして辞任していった政治家・官僚・監督などは数知れず。次は我が身と自戒すべきでしょう。他の方々がどう出て来られるのかも不透明ですし。気を引き締めます。


「どうした?気が変わったのであれば、今からでも取りやめにしてよいのだぞ?」


 声に出さず独り言――物思いに耽っていた私に、心配気な声が掛けられました。そうでした。今、私はこの国の主である皇帝、お父様との面談の最中でした。


「いえ、大丈夫ですわお父様。ご心配かけてしまい申し訳ございません。本日、予定通りお兄様の後を追って出立致します。」


「……そうか。そなたなら何も心配は無いと思うが、不都合・不快な事があれば直ぐにでも引き返してよいのだぞ?」


 背筋を正し、よく通るよう高めの声で告げた私に、お父様は残念そうな表情をされました。愛して頂けているのはとてもありがたいのですが、若干重たい感がしてしまいます。子離れできずに娘の結婚を妨害するような父親とならないとよいのですが。


「貴方。それでは、まるでアーデルハイトが我儘娘であるかのようではないですか。こんなによくできた子なのですから、何も問題はありませんわ。快く送りだしてあげましょうよ?」


 そこへ、私とよく似た容貌をもったお母様からのとりなしが入りました。私はこれ幸いと、それに乗じて話を切り上げる事にしました。


「若輩の私では、お役目を果たせるのか不安に思われてしまう事は理解しております。しかしながら、私には頼もしい仲間たちがおります。それに、お兄様の通られた後を進むだけですので、危険など残っているはずもございませんわ。どうかご信用頂きたく、お願い申し上げます。」


 現在神都――この地方の中央部にある、神々の代行者を名乗るものが治める都において、建国何百年だかの記念式典が近く行われる事になっております。それに際し、周辺諸国の要人たちも招待を受けており、私と兄がそれに出席する事となっています。既に兄が先行して都を発っており、その後を追って私が都へと向かう手筈です。兄により露払い、危険が排除された後を追うだけですので、私には殆ど危険が無い状態となっております。


「……そうじゃな。そなたが選んだ者たちも優秀なものが揃っているようだし、不測の事態にも十分対応できよう。儂の取越し苦労というものだな!優秀な、可愛い娘を快く送り出すとしようではないか!!」


 若干ご自身を鼓舞するようなトーンが含まれておりますが、無事お許しを頂く事が出来たようでなによ

りです。チョロいのはいいのですが、粘着質なのは困りますね。


「ありがとうございます、お父様。それでは、行って参ります。」


 深々とお辞儀をして謁見の間を後にした私は、そのまま旅の供となる仲間たちが待つ部屋へと進み、合流する事としました。歩きがてら、もう少し帝国の説明をさせて頂こうと思います。

 帝国は、国土そのものは広大ですが、大半が山地で海にもごく一部しか面しておりません。そのため、食糧事情としては芳しくありません。また、一部面している海に関しても、西の大海に出るには他国の領海を抜けていく必要があり、漁のみならず遠隔地との貿易にも適していない状態です。そのため、度々西側の諸国と小競り合い、侵攻・略奪をしては押し返されるという事を繰り返しておりました。当然、そのような状態では国が大きく発展できず、西側・南側の国々との間で徐々に水をあけられつつありました。父もそんな帝国の現状を憂いてはいたものの有効な手が打てず、ただ前例を繰り返していました。

 そんな状況を打破すべく、私はまず父に軍拡・外征ではなく内充・富国に意識を向けて頂くとともに、生命線となる陸上輸送の整備を推し進めました。勿論、一皇女には国の政策を進めるような権限はありませんし、幼かった私の意見がまともに検討される訳もありません。そこで、最初の内は『ギフト』を駆使させて頂きました。当然ながら、若干不審がられていた部分もあったかと思います。ですが、実績が出来るにつれ、徐々にそれも薄れ、やがては『ギフト』を使わずとも意見を求められ、ある程度裁量を頂けるようになりました。要するに、ハロー効果により錯覚資産を造る事が出来た、という事ですね。一度資産が出来れば、その運用で指数関数的に増加させる事も可能、どんどんとやり易くなっていく訳です。勿論、あくまで私は助言させて頂くだけで、実際に政策を進めるのは父や、その代行者としての母・兄です。

 具体的に実施頂いた内容としては、街道や馬車等の幅の統一と整備、それを利用した交易が盛んとなるように市の整備や税の優遇政策などです。当然ながら、帝国側からも出せる品物、産業が無ければ大きな発展は望めませんので、鉱山資源の開発にも取り組んで頂きました。冒険者ギルドへの支援と積極的な冒険者さんたちの登用や、山地に住むドワーフさんといった異種族ともある程度対等な取引条件を設定する事により築けた友好関係等により、結果として大量の『魔鉱石』を掘り当てる事に成功致しました。この『魔鉱石』というのは、魔力を含んだ鉱物であり、ちょうど南方の共和国においてこれを利用した動力などが開発されたため、非常に需要の見込めるものでした。これを輸出する事により大きな富を得た帝国は、他国からは食糧や技術を輸入し、大きく発展する事に成功しました。また、豊富な鉱山資源やドワーフさんたちの技術を活かした武具・工具といったものも、有望な産業となりました。勿論、交易に必要な貨幣に関しても、鉱山資源・鋳造技術を用いる事で、商人たちに信頼される優良なものへと移行させていきました。

 急速な富国化には当然負の側面もあります。人口増加による都市環境の悪化や、食生活の大きな変化がもたらす健康への悪影響、人口の増加を支えるだけの人材不足などです。これらに関しても、入浴のコモディティ化、適正な食生活の指導・推奨、教会に並立された学校の貧民への開放、異種族・異人種の積極登用、などを通じて改善を試みました。一皇女に出来る事には限度があり、全てを思った通りに出来た訳ではありませんが、実績を基に勝ち得た信頼と、家族からの愛情を上手く活用させて頂く事で、まずまずの成功を収めたのではないかと自負しております。因みに、例として食生活の改善を具体的に言うと次のような形になります。城での食事はメインとなる昼の正餐、軽めとなる夕方の午餐という2食が基本スタイルです。その構成自体はよい方向ですので、中身を更に良化させる形としました。野菜・肉→主食という順番を堅持するとともに、消化しやすい炭水化物をなるべく少なく、酒は血糖値を下げる効果のある辛口白ワインやウィスキーなどの糖分が少ないものをチョイスです。間食はなるべく避け、食べるとしたら消化吸収に時間がかかるナッツ類を少量、飲み物も甘いジュースではなく、水やお茶としました。こういった前世の知識を基にした施策というのは、かなり有効であったと思います。

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