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その「ヒール」と違いますがな。

その「ヒール」と違いますがな。

作者: 上月志希

たくさんの悪役令嬢転生モノを読ませていただき、これなんて、何番煎じになることやら。

ほんのお目汚しです。サラッとどうぞ。


続編と合わせ、評価とブックマークをしていただいた方、ありがとうございます。

特にこちらは予想外にポイントをいただき、本当に驚きました。

「アイリーン・グレイス・ブルックハート、貴様との婚約を破棄する!」


 ホールに声が響き渡る。

 声の主は、リチャード第一王子。その後ろには、小柄な美少女をはじめ、将来の側近と呼べる宰相や騎士団長の息子らが立ち、こちらに険しい視線を向けている。


 私、つまり只今、婚約を破棄されたアイリーン・グレイス・ブルックハートはといえば、目を見開き、リチャード王子の顔を眺めるまま。口をポカンを開けなかったのは重畳。一応、公爵令嬢なんで。


「リリー・マクブライトを害そうと、様々な汚い手を使った所業は赦し難い!」


 いきり立ち、ワーワーと叫んでいる王子を見ながら、これって前世のラノベとかでよく見た、乙女ゲーム世界への転生モノで、実は私が悪役令嬢(ヒール)でしたってパターン? 一応、前世の記憶持ちの自覚はあったけど、これまで気づかなかったわー。へー、ほー、ふーん、こんな感じなんだーなどと感慨にふけっていると。


「ふん、申し開きできまい!」

 王子が勝ち誇ったように決めつける。その横では、いわゆるヒロインに当たるらしい美少女が王子の上着の裾をつかみ、こちらに視線を向けてくる。ぷるぷると小動物のように震えているフリはしているが、目が笑ってるよー。あ、この子も転生者か。多分、ゲームの知識持ちの。って、これ、悪役令嬢はどうなるゲームだったんだろう。処刑? 幽閉? 追放? どちらにせよ、悪役令嬢の不幸を喜ぶようじゃ、心優しいヒロインとはいえないんじゃない? 

 私は居住まいを但し、優雅に王子に礼をする。


「失礼いたしましたわ。思いがけないことで、驚いてしまいまして」

「思いがけない、だと?」

「はい。伺いますが、わたくしがそちらの令嬢を害そうとした、明確な裏付けのある証拠はございますか?」

「それなら」

 と、宰相の息子が出てくる。手に持った紙に、私の所業とやらの一覧が書かれているのだろう。

「拝見しても?」

 目を見つめながらにっこりと微笑んで手を伸ばすと、一瞬、呆けたようになって差し出してくる。伊達に“美貌の公爵令嬢”と呼ばれているわけじゃない容姿は、こういう時でも有利に働くらしい。横で王子が「おい!」と止めたが、反応が遅いわ。


 さて、件の一覧表をざっと眺めてみると、日付と時間、それにマクブライト嬢が受けたとされる被害が箇条書きにしてある。ま、ハラスメントと呼ばれる被害に遭った場合、時系列で記録を取っておくというのは大事よね。うんうん。これは全部、でっち上げだけどね。

「あら……この日は、わたくしの誕生日ということで王妃様のお招きで王宮にお茶会に参りましたわ。殿下もご一緒しましたけれど、覚えていらっしゃいません?」

「え?」

 王子に近づいて表を見せながら日付を指差して示すと、「うっ」とうなる声が漏れた。私の誕生日なんて、全く覚えてなかったな。私は毎年、王子の誕生日にはプレゼントを選んで贈ってたけど、王子からは明らかに王妃様が選んだものが送られてきてたし。おまけに、小さい頃はともかく、ここ2、3年、私が贈ったものを王子が使っているのを見たことないし。

 

 それをきっかけにしたように、私の周りに他の人たちも集まってきて表を覗き込む。

「あ、この日はアイリーン様とご一緒に、街の孤児院へお手伝いに参りましたわね。この時間は、子どもたちとおやつを作ってましたわ」

「この日は、騎士団の模擬戦だろ。フィリップ、お前、けがした時にアイリーン嬢に手当てをしてもらってたじゃないか」

 呼び掛けられた騎士団長の息子、フィリップが慌てて表を見て「あ…」と青ざめる。うん、腕の打撲の手当てをしてあげたよね。私の特異能力「治癒力(ヒール)」でね。


 私を囲む人の輪に、徐々に広がる沈黙。目線はちらちらと王子とマクブライト嬢に向けられるが、敢えてツッコむ声は上がらない。さすが、貴族の令嬢&令息はマナーがよろしいな。

 一方、王子とフィリップはつっ立ったまま固まり、宰相の息子のレナードに至っては顔が青ざめている。あの一覧表を作ったのはこいつか。というより、言われるままホイホイ書いただけなんだろう。マクブライト嬢は、今度は本気でぷるぷるしながら後ずさりをしつつある。このお嬢ちゃん、詰めが甘すぎるでしょうが(この子だけじゃないけど)。もしかして、ゲームの強制力が働くとか思ってたとか? ああ、幼くして転生してしまったのかもね。30代後半だった私の前世とは違って。


 王子一行が針のむしろ状態になっているのもわかったし、これ以上はもういいかと、私は王子に向かって深々とカーテシーをする。

「殿下のご意向は、確かに承りました。帰りまして父に申し伝えます。父から陛下に奏上し、改めてご裁可を仰ぐことになるかと思いますので、わたくしはこれで失礼いたします」

 立ち上がって踵を返し、貴族令嬢に許される最速の歩き方で、その場を去った。後ろでは沈黙が広がるばかり。

11月23日、本文を微修正し、名無しだった宰相息子に名前を付けました。


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― 新着の感想 ―
[一言] あれ? ここでおしまいですか? 何だか中途半端ですね。 いつか結末が書かれることを願っています。
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