表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の炎が輝く刻  作者: アール・ワイ・オー
2/3

日常からのズレ


  極最近の事だった。

 瞬介は言いようのない違和感を覚えていた。


 身の回りの人間や、その周囲から言葉では言い表せない様な奇妙な違和感を感じる事があったのだ。

 なんとなく、嫌な予感がしたり敵意を向けられている様な気がしたりする、そんな些細なものではあったのだが、そのことに対して明確な裏付けがないのにもかかわらずその直感の様な物に対して絶対の確信を抱いている。

 

 事実、それを感じた後に実際軽い事故やトラブルに巻き込まれる事があった。

 だからこそそんな自分に戸惑いと不安を感じていた。


 しかし、誰にでも偶にはそういう事もあるだろうと、単なる気のせいだろう、と割り切り、いつも通り登校する準備を済ませると家を出るのだった。


 自転車にまたがり力の限りペダルを漕ぐ。

 まだ六月とはいえじわじわと蒸し暑くなってきている為、自然と汗が噴き出る。

 額には汗が流れ、精一杯自転車を漕ぐその顔は少し苦しそうではあったが同時に浴びる風に心地よさを感じていた。


 瞬介は登校するこの時が好きだった。


 学校へ着くといつも通り俊哉と談笑する。

 その後、朝練を済ませ程よく汗をかき、授業を受ける。

 厄介な幼馴染の相手をし、友達とくだらない話でもりあがる。

 放課後部活へ行き、くたくたになった後帰宅する。

 風呂に入り疲れを流し飯を食べる。

 ゲームをしたり、漫画を読み程よい眠気が来た所で布団に潜り込む。


 そんな毎日を瞬介は心の底から楽しんでいた。

 空山瞬介という少年はそんな普通で素朴な男だった。


 そんな彼は、千秋に詰め寄られてから三日経ったある日の放課後、部活がテスト期間で休みという事で早く家に帰っていたのだが、母親に買い物を頼まれ家から少し離れた大型スーパーにやって来ていた。


 「ったく、面倒くせーな」


 買い物を終え、そんな独り言を呟きながら荷物を自転車に載せスーパーの敷地内から出ようとした時、薄汚れたみすぼらしい格好をした小太りの男とすれ違った。

 その時、最近よく感じる奇妙な感覚が襲った。

 それは自分に向けられたものではなかったが明らかな悪意だと断言出来た。


 慌てて自転車のブレーキをかけ、男の方を見た。

 普通にしていれば何も気が付かなかったかもしれない。

 しかし注視してみると男は明らかに一人の人物の後ろを追いかけていた事に気が付いた。


 瞬介はその男の視線の先に居た少女へと悪意が向けられているとはっきり認識できた。

 

 (あれは今まで感じたモノの中では断トツでヤバイ。俺に何ができるかなんてわからねえ。何が起こるかも分からねえ。けど何もしなけりゃ絶対ろくな事にはならねえ事はたしかだ!)


 瞬介は男の跡を追う事を決めた。





 ***


 瞬介が大型スーパーで買い物を終える少し前、巴家にやって来た武と共に姉妹は先日、夏月が見たという夢の話をしていた。


 「これは間違いないわ。事件よ!事件! 」


 相も変わらず興奮しているのが丸判りの表情で千秋は叫んでいた。


 「アキ、さっきも言ったがいくらリアルだったとは言っても唯の夢の話だぞ?確かに凄くリアルで、気味が悪かったし今でも明確に思い出せるほど記憶に焼き付いた変な夢ではあったが…」

 「でも、もし正夢だったらどうするのよ?カズの見た夢の通りの事が起こったら大変じゃない。それに本当かどうか確認するのは別にタダなんだし唯の夢だったら夢だったで済ませられる話でしょう? 」

 「それはそうなんだがな…」

 「じゃあ善は急げって言うし、さっさと行きましょうよ」

 

 すると黙っていた武が口を開いた。


 「カズちゃんは~僕達が事件に巻き込まれないか心配なんだよ~。そうだよね~カズちゃん?」

 「確かにそれも渋る理由としては大きいよ。だがそれ以上に私は怖いんだ」

 「怖い? 」


 千秋が不安そうな顔になった夏月の顔を覗き込むようにしながら聞いた。


 「あの得体の知れない夢がもし現実に起こったらと思うとな。だが今決心はついたよ。アキの言う通り確かめるだけならタダだし、もし本当に夢の通りなったとしたら、何もしなかった方が後悔しそうだから。けどアキ、これだけは約束してくれ。無茶はしないと」

 「ありがとうカズ!うん、約束するわよ。私だって事件は解決したいけどカズと武を危険な目に合わせたくないし私自身だって二人が心配してくれてるのしってるからね」


 その言葉を聞いた二人は、ならもう少し自嘲してくれと心底思うのだった。


 「でも本当に凄い夢よね。日時までわかっちゃうなんて」

 「飽くまでも夢の中で見たカレンダーや時計の情報なんだがな」

 「それでも凄いわよ。たしかカズの夢の通りなら、女の子が襲われるのが今から二時時間後で、場所は大型スーパーの近くの廃工場前の通りだったかしら?」

 「夢で見た場所はそこで間違いないと思う」

 「たしかに~あそこの道はスーパーの近くなのに人通りが少なかったもんね~」

 「で、アキ。行くのは決まったがプランはどうする? 」

 「もちろん待ち伏せよ!時間通りに男がきたら女の子が襲われる直前に飛び出して確保するわ。こなければ少しだけ待ってそれでも何もなさそうならひきあげましょ」

 「わかった。私はそれで構わない」

 「僕もおっけ~」

 「それじゃあ行きましょうか!」


 三人は素早く準備をすると大型スーパー近くの廃工場前へと向かった。


 廃工場前に着いた後、夏月が見た夢の中で女の子が襲われるという場所が見える近くの物陰へ身を潜めた三人は少しばかり緊張した面持ちで来るべき時に備えていた。


 「でも本当に来るのかな~?」

 「何言ってるのよ。それを確かめるためにここまできたんでしょ? 」

 「それはそうだけどさ~」

 「武、あなた今頃になって怖気づいたなんていわないでしょうね? 」

 「怖くない訳じゃないけど~そうじゃなくて~。ただ僕としては何も起こらないでほしいな~って思っただけだよ~」

 「私も武と同意見だな。できれば夢の通りにはなって欲しくない。だがアキが言っていた様に、私達がいることによって、もし夢の通りになりかけたとしてもそれを止める事ができるかもしれないのもまた事実だ」

 「そうだね~」

 「まあ怖気づいたわけじゃないのなら別に構わないわ。カズ、女の子がここを通る時間は五時丁度で間違いなのよね?」

 「ああ、私達の正面に公衆トイレがあるだろ?ここからは見えないがあそこの横に時計があるんだ。その針が夢の中では丁度五時を指していた」

 「あと五分くらいね」


 千秋の言葉に少し体が硬くなるのを感じた夏月だったが大きく息を吸い深呼吸するとリラックスするように自分に言い聞かせた。

 何せこの後事件が起こるかもしれないそう思うと、誰だって緊張するのはあたりまえだろう。

 こんな時でもいつも通りの振る舞いができる妹を少し羨ましく思った。 


 「! 」


 夏月は目に映っ光景に全身さぶいぼが走るのを感じた。

 

 時計の針はまだ五時を指してはいなかったが、夢で見たのと同じ格好をした少女がこちらの方に歩いてくるのが見えたのであった。


 「ねえカズ、もしかしてあの子なの?」

 「ああ、間違い…ない」

 「つまり、この後…」


 言葉を続けようとした千秋だったが視線の先の少女の後ろからやってきた男を見てその先の言葉を紡ぐことはできなかった。


 「間違いない!夢の中の光景そのものだ!」

 

 少女は夏月達に後五十メートルという所まで来ていたその時、男が一気に少女へと距離を詰め始めた。


 「まずい!」


 夏月は気おされ一瞬動けなくなった自分に憤慨した。


 三人は飛び出し少女の元へ向かうが、男は三人に気づかず少女を後ろから抱え込むように捕まえると廃工場へと続く細道に入っていった。

 

 それは一瞬の出来事であった。

 

 「何ボケっとしてるの二人とも!早く助けに行くわよ」

 「あ、ああ」


 夏月は予知していたにもかかわらず少女を襲われる前に助けられなかった自分に不甲斐なさを、そして男に対して恐怖を少しでも抱いた自分に苛立ちを感じていた。

 しかし、目の前の妹は違う。 

 最初から今まで真っすぐに少女を救う事しか考えていない。

 

 改めて夏月は気合を入れなおす。


 (今は少女を救う事だけを考えなくては。もちろん千秋や武に無茶をさせずに…)


 三人は男の跡を追い細道に入ってゆく、すると少女の悲鳴が聞こえてきた。その次の瞬間の事だった。 


 「ぶひょえっっ」


 汚い声と共に殴り倒される男の姿が目に飛び込んできたのだった。


 「ふう、なんとかなったな。ん?」

 

 男を殴ったその者は三人の気配に気づいたのか振り返った。

 千秋はワナワナと震えながら男を殴り飛ばした者へと叫んだ。


 「なんであんたがここにいるのよ!!」

 「それはこっちのセリフだ」


 その男、空山瞬介はあきれたようなそれでいて疲れてもいるような顔で言った。



*** 


 その後、少女は夏月達が公衆電話で呼んだ警察に保護され、瞬介に殴られ泡を吹いて倒れていた男は捕まった。


 男の所持品からストーカー行為をしていた証拠が発見された為、即逮捕となった。


 事情聴取の為、四人とも拘束されていたのだが二時間ほどで解放された。


 「もっかい聞くわよ?なんであんたがあそこに居たわけ?テス勉するから今日も集まるの無理っていってたわよね? 」

 「だ~から言ってんだろ。お使いを頼まれてスーパーまで行ったら女の子をつけてる怪しい男がいたから気になって追いかけただけだって」

 「きもっ。あんたが一番ストーカーね」

 「んだとぉ?!」

 「二人ともそこまでだ。今日はもう遅いし話は後日にして今日は解散しよう」

 「そうだね~何もしてないけど~僕もなんだか疲れたし~」

 「まあそうだな今日は帰るか。お前等が居た理由は明日きかせてもらうからな」

 「ああ、わかった」

 「さっさと帰れバ~カ!」

 「うるせえブス」


 この日はそのまま解散となり家へと着いた瞬介は、警察から報せをうけていた母親に危ない事はするなと怒られた後、少女を助けた事を誉められ、その後買ってきた買い物袋置き忘れてきた事でまた怒られるのであった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ