初依頼と初パーティ
「・・・・ふぅ。やばいな・・・」
これは非常にやばい。
「久々にベッドで寝たが・・・ここまでいいものだったとは・・・」
何だかんだ、身体が疲れていたのだろう。
とてもぐっすりと眠ることが出来た。
今、俺は宿の一室にいる。
よさげな宿を見つけたので、そこに泊まることにしたのだ。
「冒険者は基本的に、宿暮らしらしいからな」
幸い、昨日の事もあり、お金はかなりある。
自分をいれて、四人で山分けしても、かなりの額になったのだ。
魔物の素材をギルドで売るだけでも、お金には困らなそうだ。
「朝ごはん食べるかぁ・・・」
俺は部屋を出て、食堂に向かう。
「おはよう、フィアーナちゃん」
「おはようございます。女将さん」
食堂に着くと、この宿の女将さんがいた。
「朝食かい?」
「はい」
「何にする?」
「日替わりを下さい」
「あいよー、ちょいと待っててな」
少しして出てきた食事を食べ終えて、代金を置いて部屋に戻る。
「・・・・・さて」
やることはすでに決まっている。
魔法についての勉強である。
「もっとしっかりと勉強して、魔法を使いこなせるようにならないとな」
どうやら、この体は魔法を使うのに適したものになっているようで、理論さえ理解すれば問題なく魔法を使えるようになる様だ。
しかし問題は・・・
「俺が魔法について、ド素人であるという事・・・」
魔法書や、研究資料は山ほど持っているが、そのほとんどを理解できない。
そもそも基礎が出来ていないからな。
「たしか入門書みたいなのがあったよな・・・・・その辺りからやってみるか」
こうして、俺の長い長いお勉強が始まった。
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魔法の勉強を初めて一週間ほど経つ。
勉強自体は順調だが、一つ問題がある。
「こんな街中じゃあ危なくて試し撃ち出来ないんだよなぁ」
実際に使ってみないと、本当に出来るようになっているのかがわからない。
今の自分の理解が間違っていないか確認が出来ないのだ。
「・・・・いい加減外に出てみるか」
丁度いい機会だし、ギルドの依頼も受けてみるか。
ランクを上げるのも目標の一つだしな。
「そうと決まれば、早速行きますかね」
俺は宿を出てギルドに向かう。
少し遅い時間だったためか、ギルドには殆ど人がいなかった。
みんな依頼に行ってしまったんだろう。
低ランクの依頼はボードに張り出されているので、そこを確認してみる。
時間がかかりそうな依頼じゃなければなんでいい。
今はお金もそこまで欲しいわけじゃないからな。
今回はあくまで、魔法の試し撃ちが目的なのだ。
街の近くで済みそうな簡単そうなものがあればいいのだが・・・・。
お?これなんかはどうだろう。
『ウィンドウルフの討伐』
街道でウィンドウルフが多く目撃されるようになった。
森から出てきているようなので、複数を討伐してほしい。
三十体ほど倒せば依頼達成とする。
ふむ、討伐依頼、それに街の近くだな。
たしか討伐依頼は、討伐した魔物の一部を討伐証明としてギルドに持っていけばいいんだったか。
どの部分が討伐証明になるのかは、受付の人に聞けばいいだろう。
俺はこの依頼表に手を伸ばす。
「あっ」「おっと」
手が当たった。
どうやら同じ依頼に目を付けた人がいたようだ。
面倒だな。
「その依頼は君に譲るよ。私は違うものにするから」
そう言って、俺は別の依頼を見ようとする。
すると、後ろから声をかけられた。
「ちょっとちょっと、それは悪いわよ。そうだ!私たちと一緒にやらない?」
声をかけてきたのは女の子の様だ。
「は!?別にいいじゃねぇかよ。譲ってくれるって言ってるんだから」
俺と手がぶつかった人が、声をかけてきた女性に反発する。
「あなたは黙ってなさい」
「はぁ?なんだよそれ」
「見たところ、あなた魔法使いよね?剣とか持ってないし、鎧も来てないし。違う?」
男の声を無視して、女性が俺に話しかけてくる。
「・・・・そうだけど」
俺は正直に答える。
「やっぱりね。私たちのパーティは魔法使いがいないのよ。よかったら一緒にどう?」
魔法の試し撃ちが目的だし、めんどくさそうだから組みたくないなぁ。
まぁ、人数が多い方が安全なんだけど、それは、こいつらが信用できることが前提だ。
あったばかりの奴を信用なって出来ないしなぁ・・・う~ん。
まぁ・・・何事も経験かな。
パーティを組むのもいい経験になるだろう。
「・・・・わかった、いいよ。ただし条件がある」
「条件?」
「パーティを組むのは今回だけ、つまり、臨時で組むだけだという事を理解してほしい」
「いいわ。それじゃあよろしくね」
「おい!勝手に決めんな!」
どうやらあと一人メンバーがいるようなので、もう一人が来てから出発することにした。
ちなみに、依頼はもう受けてある。
ウィンドウルフの討伐証明部位は右耳だそうだ。
少しすると、一人の男が近づいて来る。
「お待たせー。いや~消耗品の買いこみに時間がかかっちゃって」
「いいのよ。頼んだのはこっちだし」
「そう言ってもらえると助かるよ。・・・え~っと、こちらの方は?」
「コイツが勝手に誘ったんだ」
「そうよ、私が誘ったの。同じ依頼を受けようとしてたみたいで、せっかくだから一緒にどう?ってね」
「なるほど。初めまして、僕はアラン。よろしくね」
「フィアーナです。よろしく」
そう言って俺たちは握手する。
「そういえば自己紹介をしてなかったわね」
「えぇ~・・・」
「しょうがないじゃない!忘れてたのよ!・・・ゴホン・・・私はユーリよ、この二人は同じ村の幼なじみなの。よろしくね・・・・ほら、あんたもちゃんとしなさい!」
「ちっ・・・ロレウスだ。よろしく」
なるほど、この三人は幼なじみなのか。
冒険者になるために街に出てきたといったところだろうか?
三人ともかなり若く見える。
十七歳くらいだろうか。
メンバーがそろったので、街の外に向かう。
移動の途中、いろいろと話したが、まず、ロレウスが片手剣と盾を使い、ユーリが槍、アランが弓を使うそうだ。
俺は邪魔にならないように魔法の試射でもやっていよう。
街道を進み、ウィンドウルフが出てくる森に到着した。
本当に近くだな、歩いて三十分もかかっていない。
「じゃあここから森に入るわ。準備はいい?」
ユーリが皆に確認をとる。
「問題ないよ」
「俺も」
「私も大丈夫だよ」
それぞれが頷いたのを確認してから、四人で森に入る。
森に入った瞬間に、いくつかの魔法をさりげなく使っておく。
新しく覚えた魔法だ。
まずは『バリア』、初級の結界である。
問題なく発動出来た。
これは周囲の空間を大まかに把握するだけの結界だ。
自分を中心に、半径2mの範囲しか把握することが出来ないが、なかなか便利な魔法だ。
まぁ、これは街でも試せたので、使えるのはわかっていたが。
結界系の魔法はなかなか難易度が高く、初級の魔法と言っても馬鹿に出来ない。
でも、これを使っておけば、不意打ちをれにくくなる。
半径2mなら、死角がなくなるわけだからな。
次に『ボディ・エンハンス』、これは以前も使っていたものだ。
だが、以前と違い、この魔法を安定して使えるようになった。
最後に『ナイトビジョン』、要は暗視である。
森のなかの薄暗いところがよく見えるようになる。
先ほどよりも視界がはっきりしているので、問題なく発動しているようだ。
俺たちは森の中を少しずつ進んでいく。
「!!・・・止まって」
俺は皆に声をかける。
「どうしたの?」
「ウィンドウルフらしき物が見えた。たぶん囲まれてる」
オオカミのような感じだったので、間違いないだろう。
・・・多分。
ナイトビジョンを使っておいてよかった。
・・・・・・・
全員で辺りを警戒する。
真ん中に背を向けて、死角を無くしている状態だ。
「・・・・なんだよ、いねーじゃねー!?」
ロレウスが油断した瞬間に、複数のオオカミが飛び出してきた。
「ロレウス!!」
アランが声をあげる。
「『サンダー』!!」
「ギャン!?」
俺の魔法が当たったオオカミが鳴き声を上げる。
まったく、だから居るぞって教えたのに。
まぁいい。
新しい魔法を試すチャンスだ。
「『バインド』!!」
新しく覚えた魔法だ。
くらった対象は、見えない何かに縛られた状態になり、動けなくなる。
解除するには、縛る力を上回るか、魔法で解除することで外すことが出来る。
「『サンダー』!!」
俺は動きを止めたオオカミにとどめを刺す。
他の皆も今のところは順調に対処しているようだ。
「おっと・・これは」
どうやら複数のオオカミが俺をターゲットに定めてしまったようだ。
複数相手でもなんとかなるかな?
ま、これくらい何とかしなきゃな。
「『サンダー・チェイン』!!」
最初に当たった奴の近くにいる奴に、サンダーが連鎖していく魔法だ。
といっても、連鎖したサンダーは通常のサンダーよりも威力が落ちてしまうようで・・・。
「やっぱり倒しきれないか・・」
直撃した奴は動けなくなっているが、連鎖したサンダーをくらったオオカミは怯みはしたものの、すぐに俺に向かってきた。
あと三体か・・・いけるかな?
ダメだな、この距離だと間に合わない。
俺は腰に帯剣していた短剣を抜き、素早く横に飛んでからオオカミの首を斬る。
短剣なので、切り落とすことは出来ないが、致命傷をあたえることが出来た。
「おっと」
別のオオカミが攻撃してきたが、難なく躱す。
バリアを張っておいたから、どこから攻撃が来るのかある程度分かるからな。
「はあ!」
攻撃してきたオオカミを短剣で斬る。
後一体は・・・
「ギャイン!!」
横から飛んできた矢がオオカミの頭に命中し、オオカミは絶命した。
どうやらアランがやってくれたようだ。
周囲を見渡しても、それらしき影はない。
戦闘終了、だね。