まるで・・・戦場だ
決戦前夜。
カン!カン!カン!カン!カン!カン!
外から何かを叩く音が聞こえる。
「・・・うぅ・・・なんだ?・・・まだ寝たばっかりなのに・・・」
カン!カン!カン!カン!カン!カン!
音はひたすら鳴り続ける。
その音が鳴るたびに俺の目は覚めていく・・・そして、俺は気づいた。
その音とは別に、人の声が聞こえることに・・・。
「敵襲!!敵襲!!敵襲だぁああ!!!!」
「は!?嘘だろ!?」
俺は飛び起き、急いで準備をして外に出る。
そのタイミングで、新たな声が聞こえる。
「ゴブリンだ!!!ゴブリンの襲撃だぁぁあああ!!!!!」
・・・・最悪だ、最悪の事態が起こった。
これで、昼間のうちに冒険者たちに公布した作戦も破綻した。
俺は急いで街を囲む壁に向かった。
「ゴブリンたちが住んでいる森の方向はこっちだな・・・急がないと・・・」
街中ではあるが、ボディ・エンハンスの魔法を使い、最速で壁に向かう。
カンッ!キンッ!!
ドォン!!
ドゴォオオ!!!!
救護はまだかあ!!!補給早くしろぉ!!!門を絶対に開けるなぁ!!!!前線に出る奴は壁から飛べ!!明かりを焚けぇ!!見えねぇぞぉ!!!!
様々な音、声が様々な場所から聞こえる。
「まるで・・・・戦争だな」
そんな言葉が思わず出てしまう。
いや・・・実際に戦争なんだろう。
「ともかく・・・壁を上がろう。ここからだと、状況が分からない・・・」
俺は上につながる階段を上がっていった。
そして、壁の外の景色を見る。
「こ・・・れは・・・」
地面を何かがうごめいている。
街の外を埋め尽くすほどの何かが。
そんなもの、わかっている。
ゴブリンだ・・・・大地を埋め尽くすほどのゴブリン・・・・。
何万・・・いや、何十万いるんだ?
・・・・・勝てるのかな・・・これ。
「俺も・・・・・戦わないと・・・みんな・・・戦ってる」
もうやるしかない。
こんな状況じゃ逃げるなんて出来ないしな。
戦って、勝たないと生き残れない。
「フィアーナちゃん!」
誰かが、俺の名前を呼んで近づいて来る。
「サリアさん?」
他の二人もサリアさんの後ろに居た。
「聞いたよサリアちゃん!すごく強くなったんだってね!もうCランクまで上がったって聞いたよ!」
「うん・・・結構頑張ったんだ」
サリアさんと話していると、後ろにいたルシアさんにサリアさんが頭を小突かれた。
「うぅ~フィアーナちゃ~ん」
「話したいことが沢山あるのは分かるけど、それどころじゃないと思うわよ?」
「そうですね、私たちも戦わないと」
「それじゃあ、俺たちは下に降りようか」
「そうね、前線に向かった方がいいわ。ほら、サリアもいくわよ」
「またあとでね、フィアーナちゃん!」
「はい!」
三人は下に降りて頑張るようだ。
正直に言って、いまだに頭が追いついていない。
寝て起きたら戦いが始まってたとか、ほんと冗談だと言ってほしい。
ドォン!!ボォン!!!
壁の上では、遠距離攻撃が出来る魔法使いたちが前線の援護をしている。
「・・・・やろう!」
俺も前線に次々となだれ込んでくるゴブリンたちに向かって攻撃を開始する。
なるべく、前線で戦っている人たちの負担を減らさないと、このままではおそらく持たない。
まだ不安はあるが、俺は寝る前に何とか頭に詰め込んできた魔法を使う。
「・・・・『サンダー・レイン』!!!!」
ピカッ!ピカッ!
俺が魔法を唱えた瞬間に、雲もないのに空が光り、それと同時に無数の雷が降り注ぐ。
ゴォオオオオオオオ!!!!
雷に当たった無数のゴブリン達が倒れていくのがわかる。
「・・・次」
俺はまた魔法を唱える。
「『ファイアー・ストーム』!!!!」
この魔法は、先ほどのサンダー・レインほどの威力は無いが・・・・
ゴォォォオオオ!!!!!!
「竜巻だぁ!!!炎の竜巻だぞぉ!!!!」
「はっはっは!明るくていいじゃねぇか!これで戦いやすくなったぜ!!」
「ウォオオオ!!アッチィィイイイ!!!」
「ぎゃははは!スゲー熱気だなぁ!!」
巨大な炎の竜巻が、周囲に熱気を放ちながらそこにとどまり続ける。
前線の近くで使ってしまうと戦っている人たちが危ないので、ちょっと離れたところに発動しておいた。
一度撃ってしまえば、長時間そこにとどまり続けてくれるのがこの魔法の利点である。
「うっひょ~、嬢ちゃんすげぇなぁ」
近くで魔法を撃っていた冒険者のおっちゃんが声をかけてきた。
「ふふ、まだまだこれからですよ」
「はっはっは!頼りになるお嬢ちゃんだ!俺も負けてらんねぇな!こんなにかわいい子が近くにいるんだ!カッコイイとこ見せないとなぁ!!」
そう言っておっちゃんも魔法を使う。
おっちゃんの魔法は、決して威力では俺にはかなわないものだった。
けれども、一度に放たれた魔法の数はすさまじく、味方には一切の誤射をせずに前線のゴブリンたちを打ち倒した。
「・・・すごい」
おっちゃんの放った魔法が、まるで流星群のように戦場に降り注いでいく。
こんな時に不謹慎だと思うが、幻想的で、とてもきれいな魔法だった。
「すごい・・・・なんて、きれいな・・」
「はっはっは!俺もなかなかのもんだろ?おらぁ!まだまだいくぜぇ!!」
おっちゃんの魔法は絶えまなく戦場に降り注いでいる。
「あのおっさんばかりに活躍させてんじゃねぇ!!!俺たちも続けぇ!!!!」
「「「「「うぉぉぉおおおおお!!!!」」」」」
おっちゃんの様子を見ていた他の魔法使いたちが、一気にペースを上げていく。
前線も押している。
士気もどんどん上がっている。
「よし!やるぞ!」
俺も気合を入れなおして、魔法を唱える。
「『ファイアー・ストーム』!!!!」
新たなファイアー・ストームをゴブリンたちの方に設置し、進軍を妨害する。
俺はまだ制御がうまくないので、前線の援護よりも、前線に入ってくる敵の数を減らして、下の人たちの負担を減らすようにする。
「まだまだぁ!!『ファイアー・ストーム』!!」
俺の放つ火災旋風がゴブリンたちを焼き払っていく。
時間切れになっては新しいのを追加し、足りなければ別の場所に追加、をひたすら繰り返していく。
いくら大群と言っても、相手はゴブリン、こちらが優勢だ・・・・そう思われた。
だれもが、このままなら勝てる、そう思ったその時、ゴブリン陣営の奥の方で異変が起こった。
ガァァアアアアア!!!
ガァァアアアアアアアア!!!
ガァァアアアアア!!!!!
ガァァアアアアアアアアア!!!
この音が何かは、直ぐに分かった。
声、それも怒号だ。
ゴブリン達の奥の方から。
・・・・・上位種だ。
ゴブリンの上位種が、ついに出てきた。
本当の戦いは・・・ここからだ。