3話:敵を知ること
「それじゃあ、あの人は?」
シスルはフロアの掲示板で依頼を確認している銀色の鎧を身につけた冒険者を目線だけでシャノンに指し示した。
「ええっと。……あの人はブライアントさんだったと思います」
「そっ、銀色の騎士のブライアント。あの人の性格、戦闘スタイルと実力はどうかしら?」
「ちょっと堅すぎる位真面目な人だったと、それと戦闘は片手剣と楯を使う前衛タイプで、アタッカーとタンクの両方を出来る人だった気が……実力だとソロで中級の依頼をクリア出来る人だと……」
シャノンは自信が無いのか、段々と語尾が小さくなりうつ向きながら答える。
「あってるんだから、もっと自信持ってしっかりと答える!!」
シスルはシャノンの頬っぺたを軽くつねりながら顔を上げさせる。
「いひゃいへす。いひゃいへすよ、すするさん」
薄い朱色に染まった頬っぺたを擦りながらシャノンは少しだけ自分の行動を後悔した。
早朝のフロアの冒険者達列を一人で裁ききり、尚且、一人一人の冒険者にあった依頼を紹介していくシスルの姿を見て、思わず『事務局長の呼び出しを平然と無視する先輩』だということをすっかりと忘れ、本人に向かって『格好良いです』と言ってしまった。
それを聞いたシスルは当然だと言わんばかりに第二ボタンが締まらない豊満な胸を張り、エッヘンと頷いた。その後、
「しょうがないなぁ、ナンバーワンの私が直々に可愛い後輩に優しく仕事を教えてあげましょう!!」
とシャノンに向かい言ってきたので、シャノンは思わず「お願いします」と頭を下げてしまった。
それが試練の始まりだった。まず最初にシスルが出した課題は、ラガン冒険者組合に来る常連の冒険者全員の名前・性格・戦闘スタイル・実力・更には誰と相性が良い、悪いといったパーティーを斡旋するときに注意しなければいけない人間関係を完璧に覚えるといったことで、それを出来れば今日中、遅くとも明日までという鬼のスケジュールであった。
それを聞いたシャノンは只でさえ大きな瞳を更に一回り大きくして
「…あのぅ、常連さんて何人くらいいらっしゃるんですか?」
とか細い声でシスルに尋ねた。
「大丈夫、ラガンはそんな大きな冒険者組合じゃないから。常連なんて百人位しかいないし、常連の連中のデータはファイルに纏まってるから今日来てない人も問題なく覚えられるから。あっそうそう、出来ればさっきのに加えて家族状況や恋人の有無、健康状態なんていうのも覚えられたら覚えておくと良いわ」
と、さらっと言われてしまい、あたかも出来るのが当然という流れを変えることが出来ないまま、シャノンは課題に取り組むしかなかった。
それに加え、シスルの『優しい』教えかたは、シャノンの大きな負担になっていた。
先程のように突然出されるシスルの問題に答えられないと、軽く頬っぺたをつねられたり、軽いヘッドロックをかけられたりと、端から見れば受付嬢二人がふざけあってると見られ、今朝がた事務局長から怒られたのに反省してない。と見られてしまうと容易に想像できシャノンの胃をキリキリと痛めた。そんなシャノンのことは意にも介さずシスルは
「いいかしら、シャノン。まず受注を取るときに一番大切なのは冒険者を知ることよ」
引きつった顔のシャノンに対して、魅力的な笑顔でシスルは微笑んだ。