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18話:どんぐりの背比べ

「ううぅ。ちゃんと半休の申請出したのに……」


事務局長室の重厚な扉の外には、涙目になりながらいじけているシャノンの姿があった。


昨日のケリア商会の件が事務局長の耳に入り、呼び出しを喰らったのだ。


そして『今年の新人は優秀ですね。他の課の業務に首を突っ込む余裕があるんですから』など、たっぷりと嫌味を言われた。


シャノンは赤い目を擦りながら営業フロアへと向かう。


「また無駄に長いお説教だったわね」


営業フロアに入るとシスルが腕を組み、明らかに機嫌が悪い事が伺える表情で待ち構えていた。


それでもナンバーワン受付嬢の名は伊達ではなく、不機嫌な表情でも見るものを魅了する。


陳腐だが『不機嫌な女性』とでもタイトルさえつければ、その姿は立派な芸術作品と言っても過言ではない。


その芸術作品を見てシャノンはぷっくりと頬っぺたを膨らませる。


「何でシスルさんは今回も来ないんですか? 二人で呼び出されたのに、僕一人だけなんてズルいです」


シャノンの言葉通り、事務局長からの呼び出しはシャノンとシスルの二名に対してであった。


しかし、いつものごとくシスルは呼び出しを華麗にスルーして、シャノンだけが応じたのだ。


「何言ってるの。ちゃんと行く前に事務局長(バカ)なんか相手にする必用無いって教えてあげたじゃない。それなのにこの忙しい時に呼び出し受けて。周りの迷惑もしっかり考えないとダメじゃない」


「僕が悪いんですか? シスルさんが来なかったせいで余計に怒られたんですよ。本当ならこの半分の時間で終わってたんですよ」


珍しくシャノンも強い口調で言い返す。


「だから事務局長(バカ)の相手さえしなければ、そもそも時間が無駄になることは無いのよ」


「なっ。そもそもも何も、元はと言えばシスルさんがあの時大声を出さなかったら事務局長にバレなかったんじゃないですか」


「ちょ。私が悪いって言うの? あれはあんたが下らない事を言ったからでしょ」


珍しく言い合いをするシャノンとシスルの姿を自席から眺めていたフロックスは深いため息を吐く。


それは、昨日の出来事であった。一階フロアの営業時間が終了して、内勤が一日の集計作業をしている時、午後半休であったはずのシャノンがひょっこりと現れたのだ。


それまでの暗く影のある顔つきから一転し、スッキリとした表情でシスルに話しかけていた。


それを見て、恐らくあの事件について吹っ切ることが出来たのだろうとフロックスも、その他の職員も感じることが出来た。


そしてシャノンがペコペコと一通りシスルに頭を下げた後、不意にシスルの耳元で何かを呟いたのだ。


ラガン冒険者組合(ギルド)ナンバーワンのシスルと人気急上昇中の期待の新人シャノンが顔を近づけて話している。


それを見て内勤の男性職員だけでなく、何故か女性職員も数名頬を赤く染めていた。


眼福とも言える光景に皆が目を奪われていると、珍しい事にシスルが顔を赤らめて『ちょ、あんた何で知ってるのよ』と大声を出してシャノンの口を塞いだ。


興奮しているのか二人とも大きな声でキャッキャと騒いでいる。


その騒いでいる内容から、どうやらシャノンが整理課の回収に着いて行ったという事が断片的に推測が出来た。


受付嬢がペナルティー分の仲介手数料の回収に行くなど、通常ならあり得ない内容の話が聞こえてきて他の受付嬢を含めた女性職員の顔が引きつっている。


男性職員は初めの内は『気合いが入っていて良い』などと、こそこそ話していたが誰かがふと『今回の依頼主ってケリア商会じゃなかったか?』と口にした事で表情が一気に青ざめたのだ。


ケリア商会と言えばラガンの街で最大級の卸し問屋であり、その影響力はけして小さくはない。


しかも商会の代表であるケリアとは伝説の冒険者である組合長(ラガン)と比肩するくらい伝説的な冒険者の名前であった。


『デス・アックス』の異名で呼ばれ、一度暴れだすと誰も止められない。巨大な斧を叩きつけて『高値で売れる魔石までも』粉砕しないと気がすまない戦闘中毒者。


更には倒した相手の肉や骨を貪り喰う正真正銘の怪物と恐れられていた。


推進課の職員の間では『ケリア商会に対して粗相があったら生きては帰れない』と言った噂がまことしやかに囁かれている。


そんなケリア商会にペナルティー分の回収に行くなど、日頃から海千山千の冒険者を相手にしている男性職員でも腰が引ける事であった。


女性職員も男性職員も皆が静まりかえってシャノンとシスルの会話に耳を傾けている時、たまたま事務局長が通りかかったのだ。


全員が息を飲んで見つめる先で騒ぐ二人。目立たないと云う方が無理な話である。


それなのに、また今日も目の前でじゃれ会うシャノンとシスル。


怒られた者と無視した者。


どちらも対して変わりがない事にフロックスは苦笑いを浮かべた。


「良いわ。折角教えてあげてるのに従わないなんて、もう好きにしなさい!」


「それはこっちのセリフです。ヘンテコな事を教えられても迷惑です」


お互いにプイっと顔を反らせて、それぞれ自席にドカっと腰を下ろす。


気まずい雰囲気がフロア全体に漂う。


全員が静観を決め込む中、一人の女性職員がシャノンに声を掛けた。

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