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17話:前例

「まあ飲みねぇ」


ケリアと呼ばれた初老の店員はその大きな躯に似合わない慣れた手付きでお茶を淹れ、シャノンとコニウムの前へ置く。


大きな檜の応接机の上に置かれたそのお茶は、どこか安心する様な柔かな緑茶の香りが漂っており、あまりお茶を飲まないシャノンでも高級なお茶だと分かった。


「すみません、それでは頂きます」


コニウムはそう言うとゆっくりと香りを楽しんだ後お茶を口にする。シャノンもそれに続き、ペコリとお辞儀をし湯呑みを手にする。


「ぷはぁ。とっても美味しいです」


シャノンは息を吐き、感想を声に出す。

そして、ようやく緊張がとれたのか湯気で薄っすらと赤らめた顔をあげ、部屋の中を見渡す。


広い応接室の中は檜の応接机に皮張りのソファしかないとても簡素なものになっている。装飾品としては壁に年季の入った斧と楯が飾られていた。


斧と楯は両方とも片手タイプの造りをしているが

一般的なそれよりも二回りは大きく、シャノンにはどちらも両手ですら持てそうになかった。


「ケリアさんは以前冒険者だったんですよ」


壁に飾られた斧に見とれていたシャノンにコニウムが説明をいれる。


「えっ!?」


シャノンは壁からケリアへと目線を移す。初めて見たときからとても商売人には見えなかったケリアであるが、いざ冒険者だと言われれば違和感なく納得ができる。


「もう二十年も前に引退したけんどな。冒険者としちゃあ稼げなかったから、母ちゃんと一緒に商売をすることになったんだ」


ケリアは白髪の頭を太い指で掻きながら少し恥ずかしそうにしている。


「またご謙遜を。これを討伐出来る方が何を仰っるんですか」


コニウムはそう言いながら、自分の足元を見る。


「これですか?」


シャノンはつられて足元を確認したが、そこには部屋中に敷かれている上質な絨毯しかなかった。


「こいつぁ……旨かったなあ~」


予想外の言葉がケリアの口から出る。


聞けば、この応接室一面に敷かれている絨毯は ケリアが冒険者をしている頃に倒したモンスターの毛皮から作ったのだと言う。


討伐後、解体をしている最中に小腹が減ったので肉を少し食べてみるとこの世の物とは思えない程美味しく、気がつけば肉も骨も全て無くなっており、一番高く売れる魔石についても戦闘中に勢い余って砕いてしまったので素材として殆ど価値がなかったらしい。


他にも似たような事が多々あり、()()するのは簡単だが、素材は()()()()()()ので冒険者を廃業したとのことだ。


「まあ、そんな訳でオイラも今は商売人だが冒険者の内情も冒険者組合(ギルド)の内情も大体理解してるからペナルティー分の仲介手数料のことなんつぁ気にしちゃいねえから。まあそのピエリスっつう子供は可哀想だが冒険者なら()()()()()()


「……はい。……すみません。ありがとうございます」


シャノンは 立ち上がってケリアに頭を下げる。


「おうよ!!」


ケリアはそう言うと豪快に笑い更に


「この嬢ちゃんもきっとその内に良い受付になんだろ? こんだけ気合いの入ったやっあ受付にしとくには勿体ねえ」


「タイプは違いますけど、勝手にペナルティー分の回収に行く受付嬢はなかなかいませんからね。性格は違いますけど、私も良い受付嬢になると思いますよ」


そう言いながらケリアとコニウムは一緒に笑った。



◆◇◆◇◆◇



決まったルートの上を二つの影がゆっくりと進む。


「あ、あの今日はすみませんでした。来るなと言われたのについてきてしまって」


小さな影が大きな影にペコリと頭を下げる。


「ははははは。ホントに全く違いますね。まあ、今回はケリア商会という理解のある取引先だから良かったものの、そうでない取引先も一杯ありますからこの様なことは今回だけでお願いしますね」


「分かりました。……さっきから何と違うって仰っているのですか?」


シャノンが小さな頭を傾げると


「以前にも一度だけペナルティー分の回収に勝手についてきた方が一名いらっしゃるんですよ」


「えっ!?」


「まあ、その時の方が大変でしたけどね。私がそこの家でハシバミの枝を貰ってちょうど外へ出たときにばったりと遭遇して」


コニウムは緑色の屋根をした小さな民家を指差す。


「受付嬢の仕事じゃないって説明しても全く帰らなくて、結局そのままケリア商会までついてきて。まあ一人で先に回収しに行ってしまうシャノンさんの方がやんちゃかもしれませんが」


「うぅ。すみません」


「後で聞いた話しなんですが、なんでもその人は私がいつ回収に行くか分からなかったので、病欠と言ってずっと受付を休んで何日も一日中、出入り口付近で待ち伏せしてたみたいですよ」


「……あの……もしかしてその人って?」


シャノンの頭の中に一人ハッキリと思い当たる人物がいた。


「シャノンさんが思い浮かべている人で合ってますよ。赤い髪のお姫様ですよ」



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