14話:不審者
いつも冒険者で賑わうラガン冒険者組合の正面入口を背にして、左側に少し歩くと広目の横路があり、そこに面して冒険者組合 職員用の入口がある。
営業課の職員や支援課の職員等が出入りする職員用入口は時間帯によっては正面入口に負けないくらいの賑わいがある。
その職員用入口を通り過ぎて、建物沿いに更に進むと冒険者組合と隣接した平屋の倉庫の様な建物がある。
真四角の白い建物で、倉庫にしては一回り大きい造りであるが、正面の扉の他に窓がなく倉庫以外に使い道の無さそうなものであった。
その白い倉庫の扉が開き、中から上質な黒いスーツを身に纏った男性がすっと現れた。
黒渕の眼鏡をかけ、黒の鞄を持ったその男性は静かに扉を閉め、軽やかな足取りでその場を後にした。
昼を僅かに過ぎたばかりの時間であり、横路とは言え人の往来はそこそこあったが、その男に気をとめる者は誰もいなかった。
まるで決まったレールがあるかのように、目的地までの最短距離を早足で歩く男の少し後に小さな黒い影があった。
「うぅ。速いです」
受付嬢の白い制服の上からすっぽりと黒のローブを身に付けたシャノンが物陰に隠れながらその男を見失わないように必死に後をつけていた。
◇◆◇◆◇◆
コニウムに回収報告書を届けたあの時、
「宜しければ、ケリア商会への仲介手数料の回収に僕も連れていって下さい」と言ったシャノンに対して、間髪を入れず
「回収は私の方で行いますので、シャノンさんはご自身のお仕事をなさって下さい」
と、コニウムに笑いながら断られてしまった。
余りにもさらりと言われたので、その後に粘ることも出来ず、しかも気が付いたら流れるように部屋の外へと見送られていた。
肩を落としてトボトボと真っ暗な道程に火の玉を揺らめかせながらシャノンは営業フロアへと戻っていった。
営業フロアの扉を開けると、受付の席の上だけに明かりをつけ、シスルが常連の冒険者のファイルを広げていた。
「……お待たせしてすみません。回収報告書お願いしてきました」
「そっ。こんな時間だけとやっぱり整理課は仕事してたみたいね。って、あんた何でそんな暗い顔してるのよ? あの内容で問題ないはずだけど、何か不備があったのかしら?」
「いえ。回収報告書は問題なかったんですけど……」
「けど、何よ? そうやってモゴモゴ話さないの!」
「コニウムさんに仲介手数料の回収に連れていって下さいってお願いしたけど相手にもしてもらえませんでした」
「んん!? ペナルティー分の回収に連れてけって言ったの?」
シスルの問いかけにシャノンは目を潤ませながらコクりと頷いた。
「ちなみに何て言って断られたのかしら?」
「……回収はこちらでやるので、あなたは自分の仕事をしなさいって……ボクのせいで皆さんにご迷惑をお掛けしているのに……せめて依頼主の方にも謝りたかったのに……」
涙声のシャノンにシスルが問いかける。
「受付嬢が依頼主のとこにペナルティー分の回収に行ったら、お前が責任とれって肩代わりをふっかけられるわよ。そう言うことは分かってるのかしら?」
「怒られるのは覚悟してます。どんなに怒られてもペナルティー分のお願いをしてこようと思ったんですが駄目みたいでした……」
シャノンの小さく丸まった背中にバチンと衝撃がはしる。
「イタっ!!」
シャノンが反射的に顔を上げると何故か笑顔のシスルがおり、シャノンの背中をバンバンと叩いてきた。
「イタっ、痛いですよ! うぅ。何で叩くんですか!?」
「ふふふふふ。そう言う心意気は大好きよ。あんたが受付嬢としてペナルティー分の回収に行きたいって思うんなら行ったら良いわ」
「えっ!? でもあなたは自分の仕事をしなさいって」
「受付嬢が依頼主に受注された依頼の結果を報告するのは立派な仕事じゃない」
シスルの発言に瞳を大きくして驚いているシャノンに対して、シスルは耳元で囁いた。
「それじゃあ、お姉さんが良いことを教えてあげる」




