1話 私を殺して
ーーここは…何処だ?
内山 朱里は目を覚ました。知らない天井。知らない部屋。知らないベット。知らない雰囲気。知らない匂い。
全く見覚えもない場所にいた。
ここに来る前のことは覚えている。
通学の途中。路地裏の奥から光が見えた。好奇心から光の方へと歩いて行った。するとそこには、ゲートがあった。
暖かい光のゲートだ。
『もしかして…異世界召喚されるんじゃね?』という思いから、ゲートをくぐった。しかし…
ゲートから出たところは『空』だった。
もちろん朱里は落下した。そして、そこから記憶がなく、今に至る。
ーーマジでここは何処だよ…
朱里は立ち上がった。体の何処にも痛みはない。
屈伸をしてみる。やはり何処にも痛みはない。空から落下したのだ。なぜ、怪我が一つもないのか不思議だ。
腕立て伏せをやってみる。なぜ今、筋トレを始めたのかは謎だ。
その時だ。ドアが開いた。朱里は驚いた。女の人が入ってきたからだ。見た目は朱里と同年代。だが、一つ問題がある。かわいいことだ。
「目を覚ましたのね」
淡々とした口調だ。二つマグカップを持っている。そのうち一つを朱里に渡した。
「ありがとう」
朱里は礼を言った。マグカップの中には紅茶の様な液体が入っていた。
朱里は一口飲んだ。紅茶ではないが美味しい。ちょっと甘い味がする。
「体力回復の飲み物。今見てたけど、必要なさそうだったね」
「いやいや、おかげで体力が戻った感があるよ。それよりここは何処だ?」
女は少し躊躇った。朱里は不思議そうに女を見た。
「ここは…私の家。次、私の質問。なんで森に倒れてたの?」
朱里は少し考えた。ここで『俺は召喚された人間です!』とか言うと、なんか面倒なことに巻き込まれそうと思ったので、「旅してたら気がついたら倒れた」と言った。
「旅?なんでこんなところに来たの?」
女は警戒している様子だ。
「ロマンだよ。ロマン」
まあ旅は嘘だが、ロマンは本当だ。
「ロマン?殺しの組織の領域にどんなロマンがあるの?」
ーーえっ…
朱里は思わず黙り込んでしまった。まさか、殺し屋の土地とは思ってもいなかった。どうせ、何処かの田舎の村だろうと思った朱里のミスだ。
そのせいで、朱里はますます警戒されてしまった。
「大丈夫よ。正直に話して。あなたを知っているのは私だけだから」
どうやって誤魔化そうか、朱里は頭をフル回転させている。だが、何も思いつかない。
それに、『知っているのは私だけ』っていうのが一番怖い。相当慎重に答えなければ、仲間がどんどん来るだろう。
「復讐?」
女は尋ねた。朱里ははっとした。ここは殺し屋の領域。つまり復讐のためにやって来るやつもいる。これを利用すれば…と朱里は思った。
「そうだ」
朱里は言った。
「なるほど。なら納得。じゃあ復讐者さん。私を殺して…」
「は?」
急なことで朱里は驚いた。どう反応すればよいのか全く分からない。
「ちょっと待て。どういうことだ?自殺願望者か?なら自分で死ねよ。俺は殺しはしたくない」
ここまで言っておいて、朱里ははっとした。『殺したくない』という発言。自分は復讐者ではないと宣言している様なものだ。
「あなたは何が目的なの?」
朱里は尋ねられ、黙り込んでしまった。そして同時にもう無理だと思った。
「分かったよ!正直に話す。俺は…ここに来るまでの記憶がないんだ」
また一つ嘘をついてしまった。まあ、『俺はこの世界の人間じゃねえ』って宣言するよりはマシだ。
「……」
女は黙り込んでしまった。
ーーあっ…なんか禁句言っちゃったのか?