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第八話 口撃


 下僕の部屋の玄関先で、我と来訪者は対峙していた。

来訪者は、我が何も言わないのが気に食わないのか目を細める。



「もう一度聞くぞ…何でお前がここにいる?」


来訪者の威圧するような物言いに、我が返答しようと口を開きかける。

しかし、後ろから現れた下僕が焦るように言葉を重ねた。



「ぅわ、わぁ〜、どうしたんですかぁ恵。こんな時間に〜」


「どうしたって、静香の家に今日行くとメールしたんだが……


それに何でこいつがここに―――」


「えっとそれは―――」


来訪者は我を忌々しいものでも見るかのような目付きで睥睨する。


おそらく、扉の前で途方に暮れていた下僕はメールを確認していなかったのだろう。

突然の来訪者に焦った下僕は、我が何か言いだす前に言葉を被せようとしている。


だが、下僕の分際で我の言葉を遮るとは笑止千万。


我はこれ以上、下僕をのさばらせないよう先に言葉を紡ぐ。



「こいつとは随分な言い草だな。仮にも生徒への呼称ではないだろうに」


来訪者を嘲るように言葉を浴びせかける。


我の言葉から分かるように、来訪者は我が学校の教師である。

といっても、教科担当ではなく保健医だ。


保健医、大塚おおつか けい

さばさばとした態度と男らしい物腰。

それに整った中性的な容姿も相まって、女生徒から多大な支持を受けている。

仮病を使い、保健医に会おうとする者もいる程だ。


我の言葉に腹を据えかねたのか軽く睨み、不機嫌そうに口を開く保健医。



「ふんっ、静香を下僕扱いするお前なんて“こいつ”で十分だ。


何でここにいるかは知らないが、とっとと出ていけ」


保健医は傲岸不遜に言い放つと、羽虫でも追い払うように手を振った。


下僕と親しい保健医は我を疎ましく思っており、しばしば対立することがある。

まあ、温厚な我に保健医が一方的に突っかかってくるだけなのだがな。


まったく、大人げないな。



「我にも事情があるのだよ。それを解さず無下に追い払おうとは、


最近の大人は随分と狭量になったものだな。もう一度小学生からやり直したらどうだ?


お前にはどうやら人としての―――」


「わーわー!こんな所で話し込むのも何です、奥に行きましょうか!さぁさぁ!」


そう言って無理矢理保健医を室内に引きずり込み奥へ連れていく下僕。


……ふむ、再び我の言葉を遮るとはいい度胸だな。



後でじっくりと後悔させてやろう。


 


  ***



所変わってリビング。

下僕から我の事情を大人しく聞いていた保健医は、不機嫌そうに腕を組み我を睨んでいる。



「つまり、こいつの両親が仕事でいなくなった挙句、世話する奴がいないから、


静香の家で預かっている。とそういう訳でいいのか?」


事情を知っても保健医の我に対する態度は一切軟化しない。


これだから、頭の固い大人には手を煩わされる。



「……私はこいつが静香と一緒に住むのは反対だ。


静香に何するか分かったもんじゃないしな。


そもそも、こいつは一人で生きていけないなんて玉じゃない」


どうやら我の能力は保健医から高い評価を得ると同時に危険視されているようだ。


故に保健医は頑として己の意見を曲げようとせずソファーに踏ん反り返っている。



ふむ、仕方がない。我も切り札を出すしかないか。


保健医の親友の前でこれを使うのは心苦しいが、恨むなら己の傲慢さを恨むのだな。



ふふっ、我に楯突いたことを心の底から後悔し絶望するがいい。



「保健医よ」


「何だ!」



「小学生を視姦するのは感心しないな」


「ぶぐぉほっ!?なななな、なにを―――!?」



「まあ、独身で男日照りの保健医が飢えているのは知っているが、


いくらなんでも小学生にそういった目を向けるのは問題と思わないか?」


つまり、



「そんなに、体育に勤しむ幼い子供達の姿が魅力的だったか?


まだ成熟しきってない少年達の半ズボンから覗く生足が―――」


「うわぁぁああああ!」


雄叫びをあげ床に突っ伏す。そんな保健医は、幼い少年達に心惹かれてしまう人間。



そう、ショタコンだ。


我は偶然、保健室の窓からだらしない表情で子供達を見ている保健医の姿を目撃した。

心優しい我はいつか指摘してやろうと考えていたが、まさかこんな時に言う事になろうとは。


……くくっ、ざまあないな。



失意に蹲る保健医に、我は優しく語りかける。



「なるほど、小学校の保健医とはよく考えたものだ。


身体測定は存分に堪能できたか?大変だっただろうな、何でもない表情を装うのは。


もし、このことが他の先生方に知られたらどうなるだろうな?


証拠は自宅を洗えばごっそり出てくるだろうから、解雇は免れないだろうな」


我の言葉に保健医は何も返せないようなので追い打ちをかける。



「だが安心しろ、我が下僕の家に住むことに異論が無ければ誰にも話しはしない。


さぁどうする?」


「くっ……でも静香のためにも屈する訳には―――」


それでも、首を縦に振らない保健医。

見上げた根性だが、立場を理解していないようだ。



「我の体操着姿にねっとりとした絡みつくような視線を向けていたこともチャラにしてやるが?」


「……」


「………教育委員会」


「わかったよ!もう何も言わねーから、好きにしろ!」


保健医は「くそっ!」と毒づき地面を殴打する。


我はそんな保健医を見て少し哀れになった。


なので、保健医の肩に手をやり優しい言葉を掛けてやることにした。




「返事はわかりましただろう……?」




あぁ楽しい。









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