第七話 来訪者
日も暮れかけ辺りが暗くなるような時間、我と楓は未だ公園にいた。
「へぇ〜。つまり、魔王って世界で一番偉い人なんだ」
感心する様に頷く楓。そんな楓に対し我は
「…はぁ。まぁそんなところだな…」
と、やや疲れたような返答しか出来なかった。
一時間をかけた我の説明は楓にほとんど理解してもらえず、今の台詞に至る。
世界で一番偉い人。これだけなら数秒で済む説明だ。
我の一時間は一体何だったのだ…?
我が徒労に項垂れていると、そろそろ帰らないと不味い事に気付いた。
我は下僕の部屋の鍵を強奪、もとい預かっているのだ。
我の帰りが遅ければ、下僕も扉の前で途方にくれるだろう。
扉の前で惨めに座って待つ下僕……楽しみが一つ増えたな。
とりあえず最後に、聞きたい事を聞いて帰るとしよう。
「それで、楓は今の話を聞いてもまだ我が魔王になれると思うか?」
答えは何となく分かっているが確認しておく。
「うん、真王なら立派な魔王になれるよっ!私も頑張るから、真王も頑張ってね!」
予想通りの返答に苦笑が漏れる。ここまで迷いなく返されると清々しいな。
「あぁ、当然だ。お前もくだらない奴ら如きに負けるなよ。
もし、それでも負けそうになれば我に頼れ。力になってやる」
そう言って、楓に携帯の連絡先の書かれた名刺を渡しておく。
我はそのまま楓に背を向け歩き出す。
「真王っ!ありがとね、私負けないから!」
楓が大きな声で我に呼びかける。
暗くて見えないかもしれないが、我はそれに軽く手を振るだけに留め公園を後にした。
***
その後、ゆったりとした足取りで我は下僕の家へと向かう。
我が下僕の部屋の前に着いた時には、案の定下僕は足を抱え蹲っていた。
「下僕よ、そんなところで蹲ってどうしたのだ?寝るのなら部屋で寝た方が良いぞ」
我には一切関係ないといったように振る舞い、優しい声音で下僕に語りかける。
そんな我の言葉に反応し、勢いよく顔を上げる下僕。
その瞳には若干涙が溜まり、我の登場に安堵した表情を浮かべる。
ひょっとしたら、我の事を心配していたのかもしれない。
そんな下僕の殊勝な様子に僅かな罪悪感を抱いていると
「こ、こんな時間までどこ行ってたんですかぁ!
神裂君だから別に事故とか事件とかの心配は無かったですけど、
私は部屋に入れず、近所の人から変な目で見られて大変だったんですよ!」
我の心配など全くしていない発言をする下僕。
こんな馬鹿に罪悪感を抱いた我が愚かだった。
確かに自業自得だが、心配ぐらいはしてくれても良いのではないか?
そんな事を考えながら無言で下僕を見ていると、下僕が説教をし始めた。
「そもそも神裂君は自己中過ぎなんですよ。いつも、自分勝手で―――
って、何で勝手に部屋に入ってるんですか!?ちゃんと聞いてください!
まったく、続きは部屋で……あれっ、私はまだ入ってないですよ。
どうして扉を閉めるんですか?ちょ、ちょっと鍵までしないで下さい!
こっ、こら開けなさい!仮にも神裂君の先生ですよ。その上ここは私の部屋です!
神裂君開けて下さい!……神裂君?いますよね?……え〜っと、先生もちょっと言い過ぎたかもしれません。
さっきの事は謝ります。ごめんなさい。だから、開けてもらえませんか?もしも〜し、神崎く〜ん。
聞いてますかー……?……そうですか、聞こえてないんですか…。
……………神裂君のばーか。
……ひっ!?う、うそですっ!すいませんでしたっ!!反省してますぅ!
うぅっ…お願いですから開けてくださぁい…」
得意げな顔の下僕を無視して部屋に入る我。
そのまま鍵を掛け下僕を閉め出す。
何やら喋っているようだが我には関係が無い。
……我を罵倒した罪は重いぞ、下僕よ。
その後すすり泣く下僕が鬱陶しかったので、中に入れてやった。
中に入った途端泣きやむ下僕。
…もう一度締め出してやろうか?
「あ、あぁ〜ご飯作らないとですよねー。
神裂君もお腹空いてますよねっ。今日は豪勢にしますよぉ〜」
そんな我の考えに気付いたのか、わざとらしく奥に逃げる下僕。
まぁ、今はいいだろう。
後でじっくりとお仕置きをすれば良いことだ。
それに、実は我が唯一下僕を買っているところがある。
それは料理の腕前。
下僕の料理の腕には、我でさえ敵わないと思っている。
それが毎日食べられるのだ。機嫌も良くなるというものだ。
大人しく料理を作る下僕を弄りながら待つとするか。
そう思い奥に向かおうとした瞬間、インターホンが鳴り響いた。
こんな時間に来客か?
下僕の交友関係に興味を持った我は踵を返し、扉に手を掛ける。
奥から焦った様な足音と、咎める様な言葉が聞こえるが無視をする。
くくっ、これで、男だったらどうしてくれようか…?等と不穏な事を考えつつ扉を開ける。
しかし開けた扉の向こうにいたのは、我の良く知る存在だった。
「……なぜ、お前がここにいる?」
理解出来ないといった様子の来訪者を見て、我に笑みが浮かぶ。
弄りがいのある奴が来たことに喜びつつ、これからの事を考える。
……さて、こいつはどう料理してやろうか?
またもや話が伸びて展開が遅くなってしまいました。
皆様は作者のように計画の立てられない駄目人間にならないよう気を付けてください。大きくなってからとても後悔します。
それでは、読者様ありがとうございました。