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第五話 縋るもの

 授業が始まるころに、のこのこ帰ってきた二人。

真琴は我を睨むように一瞥、基は俯きながらゆっくりと席に着いた。


お前たちは、いきなり置いて行かれた我に何か言うことは無いのか?




「は〜いっ、皆さ〜んおはようございま〜す。静香先生ですよ〜」


まるで幼稚園児に対するような挨拶をし、入ってくる下僕。


イラッときたのは我だけか?


聞いていて、あの能天気な頭に杭でも打ち込んでやりたくなる。

おそらく、鳥よりも忘れやすいプリンみたいな脳の下僕の事だ、

もう今朝の事をすっかり忘れているのであろう。


それでは面白くないのでじっと下僕を見る。


我の視線に気付いたのだろうこちらを見る下僕。


我を見た瞬間、今朝の事を思い出したのか分かり易く項垂れる。



「…えっと、連絡は特にないです。一時間目の準備をして下さい…」


滅茶苦茶テンションの下がった下僕。

自らの私事で生徒への対応を変えるとはな。


全く、公私混同とはとんだ駄目教師っぷりだ。


…下僕のあの時の顔だけで一時間は笑っていられるな。




その後は、さして特別な事もなく全授業を終えた。


一時間目は笑いを堪えるのが大変だった事しか記憶にない上、

それ以降の授業も、教科書全てを暗記している我には何の意味もない。


なので授業は、下僕に我の野望を叶えるためと称し、どう可愛がってやるかを考えるよい時間となった。


それ以外の時間も、いつも通り真琴を適当にからかって遊んでいたぐらいだな。




さてと、帰りの挨拶も済んでする事も無いから帰るとするか。

残っていても、やる事は下僕いじめぐらいだからな。

楽しみは後に取って置くか。


下僕の悲愴な顔が眼に浮かぶな。



まぁ、実際にはやる事を探せばいくらでもある。

勢力の拡大などは我が直接やればすぐ終わる事だ。

だが、魔王たるものそういった仕事は配下の者にまかせるのがベターだろう。

(本音は我自身がやると結果が分かりすぎて面白くないからだ)



我も尖兵達には、学校が終わってからのそういった活動はしないよう言い含めてある。

我には配下達の自由全てを奪うつもりは無いからな。


そのため、主な活動時間は休み時間に限られてくる。

尖兵達や基は優秀なので僅かな時間で効率的に行動し、多大な成果を上げている。



学校の時間が活動の時間。

それは我の中だけのルールみたいなものであり、

それをきっちり順守している我は、さっさと帰りたいのである。


別に、早く帰ってネットで魔王情報を収集したいからではないぞ?


…本当だぞ?




寄り道をせずに真っ直ぐ一人で帰る我。

共に帰る人がいないのではなく、誰にも付いて来ないように言ってある。

ゾロゾロと人を引き連れて歩く趣味は無いからな。


基一人くらいなら問題ないが、残念ながら家は逆方向だ。

言えば着いてくるだろうが、そこまでする程の事でもない。



そんな風に基の事を考えていると、

今朝の事を話すのを忘れていたことに気付く。

だが、そういう面白い事は直接言ってこそ意味があり、メール等では味気がない。

では、明日の楽しみにしておくか。


等と考えながら公園を横切る我。


そんな我の視界に一人の人物が映り込んだ。


ブランコに座っている、OLの装いをした女だ。

その女は物憂げな表情でブランコを揺らしていた。


これ程陰鬱な空気を放てば、誰も公園を利用したがらないであろう。

何という目障りではた迷惑な女だ。


…だが、我の配下に加えれば面白いかもしれないな。


そう判断し女に近づいていく。

女は我に気付き顔を上げた。



「…何か用?」


どう見ても可愛らしい小学生の我に向かって、そのようなぞんざいな言葉を吐くとは、


ますます欲しいな。



「…」


しかし、我は無言で見るだけだ。

それ以外に何かをする必要は無い。



「…何なのよ、一体。


あんたも私を馬鹿にしたいの?」


もちろん、我には馬鹿にする気など毛頭ない。

しかし、女の眼にはそう映らなかったようだ。



「っつ!そんな目で私を見るんじゃないわよ!


憐れんでるつもりなの?みすぼらしい私の姿を見て、


同情でもしたの?っつ―――何とか言いなさいよ!」


声を荒げ喚く女の姿に何の感情も湧き起こらない。


被害妄想にかられた女は、勝手に我の感情を想像し自らを曝け出していく。



「何なのよ…皆して私の事を嘲って…そんな事して何が面白いの?


私が何をしたっていうの?ねぇ、答えてよ……答えなさいよ!!」


今にも掴み掛らんばかりの様相で我に答えを求める。

我はそれに対しても沈黙で返す。我が答える必要など無い。


なぜなら沈黙こそが、この女の真に望むものだからだ。



「私はどうすればよかったの?私はただ皆の役に立ちたかっただけなのに。


だから、一生懸命仕事に打ち込んで…なのに、皆に人気の上司に告白されて


私はそれを断っただけなのに…たったそれだけなのに」


黙す我に女は語り出し始めた。



「突然、皆の対応が変わった。無視されるようになって、嫌がらせを受けるようになった。


会社中に変な噂を流されて、男の人からも気持ちの悪い眼で見られるようになった。


私に告白した上司も、君がそんな人だとは思わなかった。だってさ…


あはは、勝手に理想を押し付けておいて幻滅してんじゃねーよ…ほんとに…さ」


女は糸が切れたように地面に座り込む。



「ねぇ、あんたにさ私の辛さが分かる?分かる訳ないよね…


あんたみたいなガキにさ」


どうやら、女の言いたい事はそれで終わりのようだった。


女の事情を理解した我は沈黙を破り答える事にした。



「分かる訳が無いだろう。我はお前では無い。何を惨めにも期待しているのだ?


お前は自分の無力さを棚に上げ、我に縋ろうとしているだけであろう」


我は女の下らぬ願望を一蹴する言葉を投げ付ける。



女は我の言葉に反応し掴みかかる。

その形相は怒りで満たされ醜く歪んでいた。



「ざっけんじゃないわよっ!縋る?何も出来ないあんたに、私が縋る筈が無いじゃない!」


我に掴み掛った腕に更なる力を込める。

自身でも言葉では敵わないと悟っているかのように。



「そうだな、確かに我にはお前の会社環境を改善することは出来ない」


実際にはその程度の事は可能だが、あえて嘘を言っておく。




「だがな、お前自身を変える事は出来る」


我の言葉に訝しげな顔を作る。

しかし既に女の腕は外され、我の言葉を一字一句聞き逃すまいとしていた。



「お前はずっと誰にも相談できず、悩みを一人で抱えてきたのだろう?


だから、我のような小学生にすら話を聞いてもらいたくなった。


それで?今の気分はどうだ、前より軽くなったのではないか?」


驚き、呆然と我を見る女。その表情からは先程の激情は全く窺えない。


我はそれに満足し、女に笑いかける。



「見ず知らずの小学生に話しただけでそこまで変わるのだ。


ならば、より親しい仲ならば更なる効果が望めると思わないか?」


その言葉に対して女は顔を俯かせた。



「…そんな人いる訳ないじゃない。いたら、とっくに相談してるわよ」


何とも侘しい人生だな。


ならば我がその人生を綺麗に彩ってやろう。



「ならば親しい人間を作ればいい」


「っつ!そんな簡単に―――」



「我がなる」


「えっ?」



「我がお前の支えとなる。愚痴を吐きたければ話を聞く。


どうすればいいか分からなければ相談に乗る。


何か困った時は我がお前の助けになる。それならどうだ?」


女は我の言葉に唖然とし、口を開けたまま動きを止めた。


我は何も言わずそのまま女の返答を待つ。



「…で、でもあなた小学生でしょ?どうしてそんな事を…?」


「それこそ、どうでもいい事だ。大切なのはお前が我を望むかどうかだ」


そう言って女をじっと見つめる。

打算も裏も一切無い。

今の我にあるのは、この女の力になる。


その思いだけだ。



「………あはは、私も相当末期かもしれないね。


だって、こんな小学生に頼ろうとしてるんだもん」


そう言う女には清々しいまでの笑顔が浮かんでいた。


思った通り、笑えばとても綺麗な顔をしている。



「我は神裂真王だ。お前は?」


「私は雨宮あまみや かえで。…ねぇ」


「何だ?」


「真王ってすっごい偉そうだよね。何様?」


笑いながら楽しそうに聞く楓。


だから我も笑いながら返してやった。



「魔王様だ」









ようやく年上のヒロインを増やせました。

多分次の話でも年上のヒロインが増えると思います。

出来れば楽しんで頂ければ幸いです。

それでは、ありがとうございました。

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