第四話 女心と秋の空
そういえば、と朝の事を思いだす我。
基には現在、我が下僕の家に住んでいる事を伝えておいた方がいいだろう。
連絡などで行き違いがあれば困るしな。
「基、実は今朝面白いことが有ってな」
そう続けようとして
「神裂真王っ!!」
騒がしい声に妨害をされた。
一応誰かは分かっているが、仕方が無いので声のする方に目を向けてやる。
「あんた、木葉に何したのよ!」
大声でこちらに歩いてくる女。
こいつは 下村 真琴。
我がクラスメートであり、そして
「我は何もしていないが?」
「そんな筈が無いでしょ!木葉がリーダーである私に、
何も言わず反対派を抜ける筈が無いんだから!」
真琴は反対派のリーダーである。
日本人離れした容姿と人を惹き付けるカリスマ性。
その二つを併せ持つ真琴は、我に反発し反対派を作り、同志を増やしていった。
「言い掛りもいいところだな。木葉とやらは真琴と
反対派に愛想を尽かし辞めたのではないか?」
実際は真琴の言う通りなのだが、とぼけておく。
「そんな訳、有る筈が無いでしょ!
それに、馴れ馴れしく真琴なんて呼ばないでよね!
あんたは私の敵なんだから!
…大体、あんた本気なの?
“魔王”になる
だなんて、そんなのただの妄想でしょ。成れる筈が無いのよ」
馬鹿にするように言う真琴。
…なれる筈が無い、か。
では
「本当にそう思うか」
真琴の眼をじっと見つめ言う。
「っつ」
真琴が息を呑む。
「お前は我が魔王になれないと本気で思っているのか?」
「っく……えぇ、そうね。悔しいけど認めるわよ。
あんたなら魔王とやらになる可能性があるってね。
でも、でもね!そんなの私が許す筈が無い!
私が絶対にあんたのその、馬鹿げた野望を阻止してやるんだから!」
認めはしたが鼻息荒く宣戦布告する真琴。
本当に正義感の強いやつだ。
だからこそ、真琴はこちらに取り込まず、反対派のリーダーをさせている。
そう、全ては予定調和だ。
真琴を勇者にするためのな。
「ふむ、そこまで我のことが嫌いか?」
真琴が反発する理由は知っているが、あえて茶化す。
「あったりまえでしょうが!あんたなんて大っ嫌いよ!」
怒りで顔を赤くしながら言う真琴。
嫌いなのは知っているが大嫌いとまで言われると面白くないな。
「我は好きだがな」
「……ひぃえ!?」
我の言葉に変な奇声を上げる真琴。
「その美しい容姿も我の好むところだが、
真琴が我に反発するところも大変好ましい。
なにより魅力を感じるのは、その強い意志を宿した双眸だ。
思わず引き込まれそうになる程の新緑の瞳はとても美しい」
我がそう手放しで褒めてやると、次第に顔を朱に染めていく真琴。
言われ慣れている筈であろうに、毎度毎度我の言葉に反応してしまう。
まぁ、まだ子供なのだから、それも仕方が無いのかもしれないな。
更に我は、混乱して無防備になった真琴の手をそっと引き寄せる。
「そんな愛おしい真琴に、我が印を付けること許して欲しい」
そう言って、真琴の手の甲に優しく我の口を落とす。
「ひょわぁぁぁぁあ!?」
我が口付けた瞬間、顔を真っ赤にした真琴は、手を振り払い飛び退った。
「おぅ、ぉぅ、お、おっ」
驚きの余り言葉にすらなっていない言語を発する真琴。
オットセイにでもなったのか?
「お、覚えてろよぉぉぉぉぉぉ!!」
真っ赤な顔のまま捨て台詞を残し教室から出ていく真琴。
授業が始まれば戻って来ざるを得ない筈なのに、ご苦労な事だ。
真琴が出て行った扉を楽しそうに眺めていると、なにやら冷たい視線を感じた。
「…」
「…なんだ基」
なぜか我の事を冷めた目で見る基。
「真王様。御寛大なのは結構ですが、
敵のリーダーと親しくしすぎるのは好ましくありません」
基は真面目な性格ゆえ敵対者と親しくすることを好まないようだ。
真琴と話しているだけで機嫌が悪くなる。
「なに、敵対者同士の前哨戦のようなものだ」
喧嘩を売ってきたのはあちらだが、見事我の勝利に終わったな。
「その割には随分と楽しそうでしたね。
好きだの何だの仰った上、キスまでなさるなんて、
・・・真王様はそんなにあの女がよろしいのですか?」
初めはどこか不機嫌そうだったが次第に不安そうになっていく基。
そうか、基も女の子なのだ、真琴の美しさに自信を失っているのかもしれない。
基には基の良さがあるというのに。
「我は基のことを好ましく思っているぞ。
それは参謀としてだけではなく一人の女性としてだ。
だからな、そんな風に不安そうにしていたら、
我の好きな、基の可愛らしい顔がくすんでしまうぞ?」
俯く基の顎に手を当て面を上げさせる。
我は基の不安を取り除くため視線を交え真摯に言う。
基は雰囲気こそ大人びているものの
そこはまだ小学生であるので、綺麗というよりは可愛い顔をしている。
それは真琴と比べるものでもないし、比べていいものでもない、基だけの魅力である。
基の不安は取り除けただろうか?
そう思って顔を窺うと
段々と顔が真っ赤になっていき
「っつ!・・!!・・・ぅぁ!!!」
物凄いスピードで教室の外へ走って行った。
…ひょっとして怒らせたのか?
女心というものは難しいものだな…
今のところは同年代の方がヒロインは多いですがこれからは年上が増えていくと思います。
年上を手玉に取る魔王様が書けるように頑張りたいです。
読者の皆様、次の話でお会いしましょう。
ありがとうございました。