第三話 大言壮語
下僕の車に乗り悠々と登校を果たした我。
初めは徒歩で行くべきだと主張していたが、
学校で、ここに住むことをうっかり言ってしまいそうだ。
そう言った瞬間、快く車を出すのに同意した。
下僕の分際で我に逆らうのは百年早いわ。
百年後に言ったとしても同じ事を言うだろうが。
学校の裏で下ろされた我は下僕に
「絶対言っちゃ駄目ですよ!先生信じてますからね!絶対ですよ〜!」
と、やけに念を押された。
信用しているのなら言う必要などないだろうに。
あれでは煽っているも同然だ。
なんだ、これは前振りか何かなのか?
ならば、その期待に応えなければな。
まぁ、今はその時期ではない。
もっと熟成したころに暴露するのが最もおもしろ、もとい効率的だ。
その時の事を想像し、邪悪に我が口を歪めながら正門に向かった。
正門には我を出迎える為、膝を付き頭を垂れる者共が列を成していた。
我はそのまま、両脇に跪く者達の間を悠然と歩いてゆく。
こいつらは我自らが選別し、我に忠誠を誓っている尖兵達だ。
我の命令一つであらゆる任務を忠実にこなす。
それだけの能力を有する者達であり、そこには年齢も性別も関係ない。
今ここにいるのは小学生のみだが、学外にもこういった存在はある。
我は一度も振り返らず、労う事もしない。
なぜなら、我が奴らにすべきことはそんなことではないし、奴らも望んではいない。
奴らにすべきことは、我が野望の実現という形でのみ果たされるのだ。
我は下駄箱で靴を履き変え教室に向かう。
我が教室に入った瞬間、数人が頭を下げ、挨拶をする。
それに手を挙げ応じ、我の席に向かう。
尖兵達と対応が違うのは彼らは配下ではなく、ただのクラスメートだからだ。
我が席に着くと同時に話しかけてくる者がいた。
「お早う御座います、真王様」
彼女は、山野瀬 基
我が野望の参謀であり、我の気の置けない存在である。
同年代の者より成熟した知能を持つ。
それが雰囲気にも滲み出ており、大人びた容姿に更なる拍車を掛けている。
何処ぞの下僕も基を見習うべきだな。
「ああ、お早う基。それで、進行度はどの程度だ?」
「ええ、真王様の言い付け通り30%程度に止めておきました。
なので、後は反対派が20%、中立派が50%といったところです」
現在、基に与えている任務は学内の人心の掌握である。
これは、一か月程前から与えてある任務であり、我が野望への足掛かりでもある。
つまり、既に30%の人間は先程の尖兵のように我に忠誠を誓っているという訳である。
「しかし、真王様。少し奴らに温情を与えすぎではないですか?
現に反対派の奴らの活動により中立派も引き抜かれているようですし・・・」
確かに反対派は初め、ごく僅かだったが今では20%にまで拡大している。
万全を期したい基にはそれが納得いかないのであろう。
「それに真王様が選ばれたものの中には野心の強い者や、我の強い者も混じっていました。
真王様のお考えが深遠なのは存じておりますが、私に説明をして頂けませんか?」
確かに説明不足だったやもしれんな。
尖兵候補のリストを深く説明しないまま渡していただけだったからな。
基にはある程度理解してもらった上で行動してもらった方が効率も良いだろう。
「簡単に言ってしまえば、知っていて我が尖兵に加えた。
理由としては、我が面白くないからだ」
理屈屋の基にはあまり理解出来ることではないのだろう。
顔に疑問が浮かんでいる。
「正直に言えば学校中の人心の掌握など一日で終わることだ。
一か所に全校生徒を集め我が演説をするだけで事足りる。
ただ、それでは自ら思考することなく、我に付き従う人形のようになるだろうな。
少しづつ我という存在を知らしめて行けば、そういった事になりはしない。
様々な人間がいてこそ支配する意味があるというものだ」
我が欲しいのは人形の世界ではないからな。
「反対派に関しても同じだ。潰すのは簡単だが、
潰してしまうには惜しい人材達が揃ってきている。
異なる環境では、同じ人間でも成長過程に違いが出る。
だから、尖兵より反対派にいた方が良い人材は、
尖兵達が傷つけないように、既に保護対象にしてある」
他にも、わざと中立のまま放置する事で反対派に引き抜かせ育てさせる。
また、中立派のままの方が成長が見込める者は引き抜かれないようする。
逆に、反対派から中立派に戻るように誘導等もさせていた。
「そうして人材を育てて行けば、やがて味方に引き入れたときに
多種多様な人材が我が下に揃う。これが任務の概要だ。
これで理解はしてもらえたか、基?」
「理解はしました。しかし納得できるかは別問題です。
確かに傀儡ばかりでは役に立たないでしょう。
しかし、その作戦は不確定要素が多すぎます。
下手をすれば真王様に危険が―――」
納得がいかないのであろう基は更に言い募ろうとする。
だがな基
「誰に口を聞いている、基」
「…!」
「お前は我が野望を知りここにいるのであろう?
その、お前がこの程度の事で騒いでどうする。
基、お前は我が信用できないのか?」
「そ、そんなことは有りません!真王様の事は誰よりも信じております!」
身を乗り出し否定する基。
「ふむ、そこまで言うのなら結果で示してみろ基。
とりあえず、全校生徒の今後の所属等を纏めておいた。
そのリスト通りに計画を進めて見せろ」
尖兵達には口頭で伝えてあるが、
基には信頼し、リストを渡す。
まぁ、これが反対派に流出したら真っ先に基を疑う事になるだろうがな。
…それもまた一興だな。
我はその事は口に出さず、代わりのことを伝えた。
「例え、我が全生徒、全教員を敵に回したとしても、
我の一方的な勝利という結末に一切の揺るぎは無い。
例えお前が敵になったとしてもそれは例外ではない。
肝に命じておくがいい、基」
気圧されたように、一歩後ろに下がり頷く基。
釘は刺したが本音を言えば、我に意見した基は大変好ましい。
我の側近なのだ、それぐらい骨が無くては務まらない。
だから、基は我の一番の配下であり、親友である。
例え我を裏切ったとしても…
それもまた一興だ。
何か真面目っぽい話になってしまいました。
話を考えるのが苦手なので基本思いつきで書いています。そのせいか、設定が浅いです。
キャラだけでなんとかせずに頑張りたいです。