第一話 計画始動
皆は魔王と聞いてどんな存在を思い浮かべるだろうか?
なに、わざわざ難しく考える必要はない。簡単に考えてもらえばいい。
真っ先に思い浮かぶのはゲームや漫画、小説に出てくる支配者としての魔王ではないだろうか?
悪魔や魔物、魔族の頂点に君臨し人間たちを支配、滅亡させようとする存在。それが一般的な魔王のイメージであろう。
しかし、最近では魔王にも様々なバリエーションがある。
勇者を味方に引き入れる為に世界の半分を取引に持ちかける魔王。
元は人間だが愛する姫や、親友に裏切られ絶望し自ら魔王となった者。
世界を滅ぼす存在を、自らと敵対する者と協力し倒す魔王。
作られただけの、ただ役目として存在する魔王。
魔王と言っても一概に悪ではないというのが最近の風潮だ。
悲しい過去を背負っていたり、平和主義であったりと魔王は千差万別である。
だからこそ人はそんな魔王に憧れる。魅かれる。
その存在に、名前に、圧倒的なる力に、姿形に、言葉に。
これから語るのは小学生にして魔王と呼ばれる存在を目指す少年、神裂真王の生涯に渡る物語。
***
「……」
とある一戸建て住宅のリビング。そこで我は一枚の紙にびっしりと書かれた文章を読んでいた。書かれていたことを要約すると、
“仕事で海外に行きます 父母”
というものだった。
……なに、要約しすぎだと? それ以外に一切、実の有る内容が書かれていないのだから、我としてはこの一文さえ分かっていれば事足りる。
まぁ、生まれた時から何でも完璧にこなせる我の力を以ってすれば、一人で生活をしていくことに何の不自由もない。それがよく分かっている親だからこそ今回のような行動を取ったのだろう。
それに、このような事は別に初めてではない。
某非営利団体に所属する親達は、よく二人で紛争地域に出掛ける。そのまま連絡もなく一年程帰らないこともあるぐらいだ。
弾丸飛び交う死と隣り合わせの場所だと聞くが、あのバイタリティ溢れる両親がそう簡単に死ぬとも思えないので、こちらの感想としては「またか」程度のものだ。
しかし、紛争地域に小学生を連れて行けないのはわかるが、一年も子供一人を放っておくのは親としてはどうなのだろうか? 普通の子供ならぐれてもおかしくない環境だとは思う。
いちおう親しい隣家の住人に世話を頼んでいるようだが、正直一人で十分なので全く役に立っていないと言っても過言ではない。むしろこちらが世話を焼いているような……。
我のいる環境は、子供の成育に適さない人材ばかりだが、両親の性格を熟知している身からすれば、これが両親の精一杯なのだろう。
……まぁ、無事ぐらい祈っておいてやるか。ふん。
***
今はもう慣れてしまった、音もなく我以外誰もいない広いリビング。それをざっと見渡して思案にふける。
思い至るのは、以前より練っていた計画。かつて、我が記した「魔王」へ至る計画。
すでに下準備は始まっているが、肝心のプラン1は実行されていない。
それを実行に移す良い切っ掛けではないだろうか。
思い立った我は自室に戻り、通帳、鍵、携帯など重要な物を小さな鞄に詰め込んでいく。
鞄の中を確認し、最後に家の戸締りをして外へ向かう。
それでは、我が野望の第一歩。プラン1を実行に移すことにしよう。
「さて、行くか」
我は日が昇ったばかりの空を一瞥すると、目的地へ歩き始める。
目指すは計画の拠点となる我が下僕の家。
もちろん、事前の連絡など無いが問題はない。
突然訪れた我を見たときの間抜けな下僕の面を想像し、口を邪悪に歪めた。
くくく、何も知らない愚かな下僕よ、せいぜい今の内に平穏を楽しんでおくことだな。
「待っていろ、我が下僕よ!」
貴様に平穏な日常など無いということを嫌という程、理解させてやろう。
まだ物語は始まっていません。次から本編のようなものです。
とりあえず、始まったばかりですが読んで下さった皆様ありがとうございます。