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第十話 届かぬメール

 精密検査を受けた結果、異状は無かったそうなので昼過ぎには退院し今は下僕の家にいた。


…しかし、下僕の家にやってきて初日で病院送りにされるとは思わなかった。

我もまだまだ未熟ということか。

魔王になるからには、いつかあの料理を食べられるようにならなければな。


我がそう決意し家に入っていくのに対し、下僕は今にも泣きそうな顔で立ちすくんでいた。


……なんだ?


「……神裂君、ごめんなさい。私のせいであんなことになって…。


…私は先生失格です…生徒をあんな風に苦しめて―――」


そう言って顔を悲しみに歪ませる下僕。



……まったく、ずるい奴だな。

そんな顔をされたら文句も言えないではないか。


下僕を泣かせてもいいのは我だけだが、こんな形で泣かれるのは我の本意ではない。



「……お前が気にする必要はない。我自らが望んだことなのだからな。


まぁ、これからは我が料理を作るが、いつか我にまたあの料理を作って欲しい。


その時はあんな無様を晒したりせず完食してみせよう」


下僕を安心させるように優しく笑いかける。

しかし下僕は、それでも自分を許せないのか俯いてしまう。


ふむ、どうしたものか……?



「……そうだな……では、我の言うことを一つ何でも聞くというのではどうだ?」


適当な思い付きを冗談めかして言ってみる。

下僕は何を想像したのか、顔を赤くしながら小さく頷いた。



「わ、わかりました。これからは神裂君の言うこと何でも聞きます……。


それで……許してくれますか……?」


下僕はもじもじとしながらも、決意のこもった真っ赤な顔で我を見据える。

冗談で言った我の要求がなぜか通ったうえランクアップしている。

焦りすぎてまともな思考回路が焼き切れているようだ。


勿体無い気もするが訂正しておくか。



「はぁ…別に一つでいい。それより我の要求を呑んだのだからな、これ以上気にするなよ。


……それと、いつまでそこにいるつもりだ?お前の家なんだからさっさと入ってこい」


そう言って下僕の腕をつかみ家に引き込む。


そのままこちらに手繰り寄せる勢いで我の口元に下僕の耳を引き寄せ、囁く。



「なぁ、先程我の要求を聞いて顔を赤くしていたが、何を想像していたんだ?」


からかうような我の言葉に再び赤くなった下僕は、「もう、知りません!」と言って我を置いて奥に行った。



……どうやら、元気は出たようだな。




   ***



我は一人、宛がわれた部屋の布団の上で横になっていた。


どこの部屋を我に使わせるかという話になった時、

下僕に「なんなら、同じ部屋でもいいが?」と言ったところ、


「……せめて、自分の部屋でくらいはくつろぎたいです…。


神裂君はいつも意地悪ですから……」


等と失礼なことをのたまった。なので、



「なんなら、ベッドの上なら可愛がってやってもいいが?」


と返したところ



「……ふぇぇぇっ!?なな、なな何を言ってるんですかー!?


ととと、とにかくここは駄目ですー!隣の部屋が空いてるんでそこを使ってください!


布団も来客用のものが押入れの中に入ってます!さぁ、行ってください!さぁ!」


死ぬんじゃないかというぐらい真っ赤な顔で動揺しながら我を追い出す下僕。

我も渋々隣室に向かい、疲れていたこともあってすぐに布団を用意した。

そして今、こうして横になっているという訳だ。

我は横になりながら、まんじりとせず先程のやり取りについて考えていた。


……意地悪だから、か。

同室を拒むのは男に対する危機感ではなく、意地悪だから。

男としてほぼ意識されていないな。

まぁ、されたらされたで困るのだが―――


そんなことをつらつらと考えていると、何かの振動する音で考えを遮られた。

音のするほうを見ると鞄からだった。

そういえば、と思いだし鞄から携帯を取り出す。

やはり、携帯だったか。確認したところメールが届いたようだった。


差出人は―――楓。

そういえば連絡先を渡していたのだから、メールはずっと来ていたのだろうか?

とりあえず新着メールを確認し、


目を疑った。

そのメールには件名がなくただ一文


“死んじゃおうかな”


とだけ書かれていた。


絵文字もないただそれだけの文章が、我の不安をかきたてる。

一体楓に何があったのだろう?

そう思い他のメールを確認する。

未確認のメールは二十八件。

基からが二件、配下の定期連絡が四件。

それ以外がすべて楓からのものだった。


なぜ、あんなメールを送ったのか原因を探るため最初に来たメールを見てみる。


件名・よろしくね


 さっそくメールさせてもらったよ〜

 これからもよろしくね〜。


最初のメールのため短いが絵文字も使われており異常は見受けられない。

届いたのは我が倒れてから二時間程後だったようだ。


しかし楓は、その後も我の返信がないにもかかわらず健気にもメールを送り続けていたようだ。

二件目からは我の返信がないことにも触れず、日常の楽しかったことや不満なことが書かれていた。


だが二十件目あたりから、そのことについて触れるようになってきた。


“真王、なにかあったの?”


“私のこときらい?”


“一言だけでもいいんだけどなぁ”


“返信待ってます”


“真王が私に言ったことは嘘だったの?私は真王を信じたい。


でも、何も言ってくれなきゃ不安だよ。ねぇ、お願い真王答えて”



メールの内容は次第に不安そうなものに変わっていく。

楽しかった話がなくなり、後ろ向きな発言が目立つようになる。

そして


“もうどうしていいのかわからない。真王に見捨てられたらどうしたらいいの?”


このメールの次が先程のメールだ。


我は自らの額を強く壁に打ち付けた。

己の愚かさに反吐が出る。

楓は我を信じてくれていたというのに、この体たらく。

我は自身を痛め付けたい衝動に駆られるが、今はそんな自己満足な行為に身を任せる時ではない。


手遅れになる前に楓にメールを送らなければ。


件名・遅れてすまない。

 

 楓、メールの返信が遅れてすまない。

 言い訳にしかならないがこの三日程、意識不明で入院していたため返信ができなかった。

 楓の力になると言った以上我は誠心誠意それに答えなければばらない。

 なのに、我は楓の力になるどころか逆に追い詰めてしまった。

 本当にすまない。

 楓はこんな愚かしい我に愛想を尽かしているかもしれないが、

 許されるのならばもう一度やり直す機会を与えてほしい。

 我を許せないと思うならば無視してもらって構わない。


 最後に、信じてもらえないかもしれないが我は楓を誰よりも応援している。

 例えもう会うことがなくとも、嫌われていたとしても我は楓を応援し続ける。

 こんなこと言えた義理ではないが楓には生きていてほしいし、

 もっと笑っていてほしい。

 すまない楓。


メールを素早く打ち終え、すぐさま送信する。

もし、間に合わなかったらどうする…?

そんな考えが頭をよぎる。


我は携帯を手に祈り続ける。


どうか間に合ってくれ……!



二十分程たったころだろうか、

我の誰に向けたかは分からない祈りが通じたのか、手の中で携帯が振動する。

はやる気持ちを抑えながらゆっくりと差出人を確認する。


楓からだ…!



件名・ごめんなさい


 真王が入院してたなんて知らないで変なメール送ってごめんね。

 真王は全然悪くないから気にしないで。

 

 それより、真王はいいの?私なんかと仲良くして。

 少しメールの返信が来ないだけで変になっちゃう女だよ?

 私ともう関わりたくないと思わないの…?って、ごめん。

 真王のメールは凄い嬉しかったんだけど後ろ向きなことばっかり考えちゃう。

 真王が力になるって言ってくれたんだから信じなきゃだよね。

 

 私、思い込みが激しくて感情の起伏が大きいらしいから、

 最後のメールも勢いで本気って訳じゃないから心配しないでね。

 

 ねぇ…これからも、真王とのメール続けてもいいかな?

 

 それと真王、メールありがとうね。すごくうれしいよ。



楓からのメールに安堵し布団に倒れこむ。

よかった。心の底からそう思えた。

我は起き上がり楓に返信のメールを打つ。

今の楓には公園で話した時程の明るさが感じられない。

我は楓に、いつも心の底から笑って欲しいと思っている。

今は少しでも楓の力になりたい。


……本当は今すぐ楓に会ってでも話したいんだがな。

時間的に仕事中かもしれないからメールで我慢しておこう。



件名・ありがとう


 こんな我を信じてくれてありがとう。

 メールはむしろこちらからお願いしたい程だ。

 

 我が楓と話したのは公園での数時間だけだが、

 それだけで、我は楓のことを好ましく思った。

 この者のことをもっと知りたい、もっと話していたい。

 楓の笑顔をずっと見ていたい、そう思うほどに。

 

 だからそんなに自分を卑下しないでくれ。

 弱いところも強いところも全てが楓だ。

 そのままの楓の全てが我にとって魅力的であり愛おしい。

 だから、楓が嬉しいと言ってくれるのならば我が拒む理由などありはしない。


 こんな我だが、これからもよろしく頼む。



……これで我の思いは伝わっただろうか?

まぁ、楓の返事を首を長くして待つとするか。


我は安堵と喜びに笑みを浮かべ再び横になった。





楓のことで頭が一杯で基のメールについて完全に忘れていた我は、

次の日に基に怒られることになるのだがそれは次の話で語るとしよう。






更新を何とか出来ました。

引きにもある通り次の話の構想は一応あるので書き終え次第投稿します。


■(10/11/16現在)

全話修正のため更新停止中です。

全話修正が済み次第、次話の文章化に着手したいと考えています。

いつ終わるのかは分からないので気が向いた時にでも確認していただけると嬉しいです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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