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第九話 魔界料理

 

 我と保健医との友好的な取引が終わって十分。

いまだリビングには惨めな敗残者である保健医が項垂れていた。


そんな哀れな保健医に対し、下僕は甲斐甲斐しく励ましている。



「えっと、元気出してください恵。誰にだって人に言えないことの一つや二つありますよ。


それに私も子供が好きで先生になったんですから恵と変わらないです」



そんな下僕のお優しい言葉からは心配以外の感情が見受けられない。


ふむ……保健医の危ない性癖を知ってもなお態度を変えないとは麗しい女の友情だな。



どれ、少し掻き回してやるか。



「まぁ、保健医と下僕では好きのベクトルが違うだろうがな。


それに、保健医の言えないことが一つ、二つで済めばいいのだが…。


まさか小学生の姿を隠し撮りして、夜な夜なその写真眺めているわけでは―――」



「ど、どうしてそれをっ!?」


我の言葉にこれまで無言だった保健医が過剰に反応した。



冗談だったのだが……想像以上に危ない奴だな。



我はそんな保健医を、蔑むかのような眼でじっと見やる。


「うぅ、いいじゃないか……こっそりと愛でるくらい」


涙目で自身を擁護しようとする浅ましい保健医。


保健医が言う“こっそり”はずいぶんと犯罪の香りがするな。



よし、最後の追撃をかけてやろう。



「ほぉ、つまりお前は実際に小学生と仲良くしたい訳ではないと。


遠くから眺めていれば満足とそう言いたいのだな?」


「も、もちろんだ。私もそれくらいは弁えている」


「ではもしお前好みの小学生が―――



『…あ、あの先生…僕、先生のことがずっと好きだったんです。


…だ、だから先生のいうことなら何でも聞きます』と、


このようなことを言ってきても拒むというのだな?」


まぁ口では何とでも言えるから、こんな確認など意味は無いのだがな。


これ以上藪をつついて蛇が出てきても面倒なのでこれで会話を終わらせてやろう。



このままだと下僕にすら見捨てられそうだからな―――



「………」


しかし、保健医は我の考えに反して無言で我を凝視している。



こいつ、もしや我の意図気付いて―――



「な、なぁ……今の感情込めてもう一回言ってくれないか?」



鼻息荒く懇願するその姿はまさしく卑しい雌豚そのものであり、


思わず顔面に蹴りを入れ思いつく限りの暴言を吐きそうになった。



「……下僕よ、そろそろ夕飯の仕度をしてはどうだ?」


「……そうですね。恵も元気出してくださいね」


我は保健医を完全にスルーし下僕に夕食の催促をする。


それを受け下僕は保健医から一歩離れて言葉をかけ、そのままキッチンへ向かった。



今の二人の距離が、見事に二人の心の距離も物語っていた。



保健医は不気味な笑みでしばらく呆けていたが、妄想の世界から脱出したのか突然こちらを仰ぎ見た。


保健医は驚いたような表情を顔に貼り付け我に質問をする。



「……なぁ、静香は今料理を作っているのか?」


「ああ、そうだ」


その言葉を聞き、保健医の顔が幽霊でも見たかのように瞬時に青ざめた。



「なっ!?お前は静香の料理の腕を知らないのか!?あいつの料理は―――」


「うむ、知っているぞ。知っているからこそ下僕に作らせている」


焦った様に確認する保健医にさらりと答えてやる。


保健医はそんな我を見て、信じられないような顔を浮かべ唇をわなわなと震わせていた。



「正気か…?」


「もちろんだ。保健医も食べていってはどうだ?おそらく下僕はお前の分も用意しているぞ」


「くっ、その前に私が止めて―――」



「皆さん出来ましたよ〜」


がくっとその場に項垂れる保健医。


下僕はにこにこと大きな鍋を持って現れた。


まだ作り始めてから五分程しか経っていない筈なのだが随分と早いな。


そう思って鍋の中を覗いてみる。




鍋の中には魔界が広がっていた。


ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中には、


鳥の足、豚足、二十センチはある魚の頭、よくわからない肉、何かの目玉。


その他にも、よくわからないものが沢山浮かんでいた。


中の液体はマーブル模様で明らかに人体に有害な成分を含んでいるだろう。


匂いも刺激臭を放っており少し嗅いだだけで顎にアッパーを食らったような衝撃を受けた。


どう見ても人間が食べられる食べ物じゃない。



食べるとしたら――――そう魔王くらいのものだ。


だからこそ、我は下僕の料理を所望する。



五分でどうやって煮込んだんだ?とか、


材料はどこの異界から調達したんだ?とか、


そもそもこれを料理と称すのは食への冒涜なのではないか?とか、


沢山突っ込み所はあるが、正に魔王が食すのに相応しい料理だろう。



保健医は既に匂いだけで泡を吹いて気絶している。


下僕はニコニコとした表情を崩さず、何でもないように鍋を持っている。



……こいつ、本当に人間か?



「あれっ、恵は寝ちゃったんですか?折角恵の分も考えて量を多めにしたんですが…。


仕方ないですね、これは私と神裂君で全部食べちゃいましょう」


嬉しそうに言う下僕の言葉が今は死刑宣告に聞こえる。


今まで我が食べてきたのは単品料理であり、

食べても精々一日中全身に激痛が走るだけだったが、

今回はそれ以上の量と質を誇っている。


流石に我でも生命の危機を感じる。

しかし、食べないという選択肢は無い。

これしきのことで逃げては魔王になるなど夢のまた夢だからだ。



「今回のは自信作なんですよ。だし汁を効かせてみました。


それに、なんと隠し味に砂糖が入っているんですよ!」


期待の眼差しを我に向け鍋の解説をする下僕。


この惨状はだし汁も一枚噛んでいるのだろうか?


後、砂糖程度ではこの面子に隠れて太刀打ち出来ないだろう。



「それじゃあ、いただきま〜す」


手を合せそう言うと美味しそうに食べ始める下僕。


きっと下僕の胃袋は宇宙なのだろう。


下僕はどこかのフードファイターの妹なのかもしれない。



現実逃避にそんなことを考えるが、あまり時間をかけては下僕が怪しむだろう。


これは我が望んだことの結果なのだ。


覚悟を決め頂くとしよう。



「……逝くぞ」


腹を括った我は、箸を持ちよく分からない物体を掴んだ。


そのまま、口に含み―――




瞬間、我は魔界を見た。





  ***




―――気が付くと我は病院にいた。


我の寝ているベッドの横で下僕が椅子に座っている。


我が起きたことに気づいた下僕は泣きながら我に抱きついてきた。……暑苦しい。


泣きながら話す下僕の話を聞くと、我はあれを食べた瞬間に白目をむいて気絶したそうだ。


そして三日三晩うなされ続け生死の境を彷徨い、今はじめて目を覚ましたそうだ。


泣きじゃくる下僕の頭を撫でながら我は決意した。





これからは、我が料理を作ろう―――








更新が不定期になってすいません。

全然話が進まないですね。なのに、次の話のアイデアがほとんど浮かんできません。

むしろ、これを含め現在四つ連載中の話があるにも拘らず、新しい連載を始めようかなと思ってます。

一応、一つがもうすぐ終わる予定なのでそちらが終わり次第始めると思います。

魔王様の方はまだまだ続きますので、気長にお待ち頂けると助かります。

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