親愛なる「」へ
親愛なる「」へ
お久しぶりです。
覚えているでしょうか。
貴方がいなくなってから、私の世界はぽっかりと穴が空いてしまったようです。空いた穴を吹き抜ける風がどうしようもなく冷たいので、貴方の代わりとなるモノを入れてみたりするのですが、結局代用品は代用品。すぐにぼろぼろと崩れ落ちてしまいます。
やっぱり私には貴方しかいないのでしょう。
あれからどのくらいの月日が経ったのでしょうか。あの日、夏の匂いがまだ微かに残っていた九月の夜、貴方は突然いなくなってしまいました。
私に何も告げずに、そっと、いなくなってしまいましたね。
最初は涙が止まりませんでした。私は泣くのが得意でしたが、自分で止めることができない涙は初めてでしたので、とめどなく出てくる涙に戸惑ってしまいました。
ですが、貴方のことで涙を流す私のことを、私は本当に狡い人間だと思います。
貴方がいなくなる前日まで、私は貴方と出掛けたことも、笑いあったことも、まともに会話をしたこともありませんでした。
それなのに貴方が亡くなったことを人ずてに聞き、貴方の最期に付き添えなかったことに、また涙をこぼしてしまうのです。
涙を流しながら寝た夜には、貴方の夢を見ることがあります。
縁側でのんびりと昼寝をしている貴方。
御飯を美味しそうに食べる貴方。
捕ってきた獲物を自慢げに持ってくる貴方。
笑わない貴方。
泣かない貴方。
優しい貴方。
一途な貴方。
私は貴方のことを本当に愛していました。ですが、これに気づいたのは貴方を失ってからでした。私は一度失ってみないと分からない、ダメな人間のようです。
そんな私を貴方は許してくれるでしょうか。それとも怒って呪いに来るでしょうか。
ああ、でも呪いに枕元に化けて出てきても、私はご馳走を用意して貴方を迎えるでしょう。
生まれ変わって直接呪いに来てくれたら私は嬉しくて泣いてしまうでしょう。
貴方がいなくなってしまってずっと泣き続けていた私ですが、あるときから、私は貴方にまた会える気がしてならないのです。
きっと、貴方は最初に出会ったときと同じように、ふらっとあの縁側に来て、そこにいるのが当たり前のようにぐーぐー寝ているんだろうなと、そんな気がしてならないのです。
だから貴方にお願いしたいことがあるのです。
貴方の魂は九つあると何処かで聞いたことがあります。私のもとに来るまでに幾つの魂を使ってきたのか分かりません。もしかしたら今回が最後の一つだったのかもしれません。それでも、もし、まだ残っているのなら、もう一度私のもとに来てくれないでしょうか。
そして、また会えたそのときは、貴方のことを抱きしめさせてください。嫌がらずに、若草の優しい匂いがするだろう貴方の体を、思いっきり抱きしめさせてください。
私は貴方にまた出会えることを信じて気長に待ち続けます。
最初に出会ったあの縁側で
いつまでも、いつまでも
待ち続けます。
親愛なる、私の大好きな猫
「のら」へ