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最初の街-4

それから、宿に帰り皆に炎命者になった事、仇魔を倒す旅に加えて欲しいという事を伝えた。女性ばかりの一行に男が入るのだ。反発があって当然と思っていたが、案外あっさりと受け入れてくれた。


「まあ、負担がさらに分散出来ると考えれば、ボク達にとっては有難い話だね」


アーシエは言った。言葉の割には、何か心配そうでも嬉しそうな感情を表に出しているわけでもない。微妙な感情なのだろう。


「……ふん。炎命者の末路なんて、どれもアホらしい惨めなもんよ。それに軽々しくなるなんて、あんたも間抜けね」


「覚悟は出来てる」


「……どうだか」


ミカノは言うだけ言って目を伏せた。その目はどこか寂しげで、切なそうなものだった。何でそんな目をするんだろうと気になって、一つここは聞いてみようかと考えたが、今聞く訳にもいかないので、止めた。


「アーシエもミカノもどうしたんだ?仲間が増えるんだぞ!パーっとお祝いしようよ!」


リリィは破顔した。彼女は分かりやすく上機嫌であった。両手を上げ、誕生日を迎えた子供のようにうきうきとしていた。満面の笑みを浮かべ、ぽんぽんとアーシエとミカノの肩を叩く。それにミカノは仰々しくため息をつき、アーシエは苦笑いを浮かべているようだ。


仲間になったんだ、無理に敬語は使わなくてもいいよとアーシエが言うので、お言葉に甘える事にした。どうも俺は敬語を使うのが不慣れである。目上の人と話すのが苦手だったのは、敬語が苦手だったからだろうなと思った。



「それで、仇魔の方はどうでしょうか?」


ひとしきり、リリィと共に楽しそうに笑顔を浮かべていたカレンが、途端に仕事の話をするように淡々とした口調でアーシエに聞いた。


「大きめの拠点が近くにあるみたいだ。この街も毎日攻められているようだし、急ぐ必要があるね」


アーシエがカレンの問いに答えたまさにその瞬間、外から耳が痛くなるような轟音が聞こえた。何かが何かにぶつかったような鈍い音だ。


「……丁度お出ましのようね」


澄ました顔でミカノが言った。何を悠長な、早く街を襲う仇魔を迎撃しようと俺が慌てて立ち上がると、その必要はないとアーシエに止められた。


「炎命者に必要なのはいかに戦う回数を少なくするか、ということ。死に急ぎたいなら別だけどね。この街には結界があるんだ。これくらいは耐えてくれるさ」


見ると、皆落ち着いていた。まだこの街は陥落していないのだから、おそらく今攻めている仇魔もいずれは攻撃を止めて拠点へ帰るだろう。私達は仇魔共の拠点へ乗り込み、そこをまとめて倒せばいいのだと、ミカノが諭してきたので、俺もそれに同意した。


それでも一応気になるので、部屋の窓を開け(錆びているのか、開けるのに少し苦戦したが)外を見てみると、ドームのように街を覆っている虹の幕に、前に見たよりも大きいもの(自信は無いが2、3mくらい?)もいるガーゴイルが、鋭い爪で引っ掻いたり、牙で噛み付いたりしているが、虹色の結界はそれにビクともしていないようだ。


しかし仇魔連中、機敏な動きだ。遠目でも奴らの動きは恐ろしいものがある。アレを剣や弓で倒そうなど、どだい無理な話だと思う。とても捉えられそうにないし、あの爪や牙はまさに鎧をも突き破る、強烈な矛となるだろう。



「一拠点に、仇魔はどれくらい居るんだ?」


気になって、カレンに聞いてみた。彼女に限らず炎命者の皆は、気兼ねなく聞けるような雰囲気がある。有難い事だ。


「ピンキリですが、少なくとも1000はいると思いますよ」


「あいつらの力は、仇魔の中ではどれくらいなんだ?」


俺がガーゴイルを指差す。カレンは四つん這いのまま、窓にのそのそと移動し、俺の指差す上空を見上げた。


「下の方ですかね……。似たような見た目でも、例えば人間を石化するような、一風変わった攻撃をしてくる個体もいますけど、それでも仇魔の中では弱い部類に入ります」


……アレで下の方か。確信した。仇魔は生身の人間で敵う相手じゃない。虎対常人みたいなもんだ。賭けにならないほどに、実力には大差がある。だからこそ炎命者や、結界というものがあるのだろう。



それからどれほどの時間が経っただろうか。鼓膜が痛むような音の波にこちらも参ってきたが、仇魔の奴らも諦めたのか、程なくしてがんがんと鳴り響いていた騒音は止んだ。落ち着きを取り戻した街中に、安堵の息が漏れる。俺も気持ちが落ち着いたので、ミカノに聞いてみた。


「それで……仇魔を討ちに行くのはいつにするんだ?」


「明日ってとこね。だらだら長引かせても意味ないし、今日はそろそろ日が暮れる。取り敢えずは休みましょう」


そう言って一息ついたミカノだが、こほこほと力無く咳き込んだ。


「……この部屋、あんまり空気が良くないわね。ここで一泊なんて、ちょっと参るわ……」


ミカノが呟いた。仇魔が結界に攻撃を仕掛けてから、濁った空気が街中に溢れ出したのだ。元々田舎のような澄んだ空気だったのが、一気に大都会の淀んだ空気になったみたいだ。


部屋本来のホコリっぽさも、街中の淀んだ空気に拍車をかける。ミカノだけでなく、カレンも、アーシエも、リリィも咳を止められずにいた。

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