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不死者と武人-4

「さて、僕は外で食べ物を採ってくるとしようか」


アーシエは、立ち上がって大きくのびをした。他の者達も彼女に続く。カルロは炎命者ではないので、同行出来ず、タムアも不機嫌そうな顔をしていたので、無理には誘えなかった。



「……ねえトキト。私、あの人とどう接したら良いのかな」


森の中で、食べられる木の実を探しながら、ミカノが深刻な顔をして、タムアとの接し方について聞いてきた。


「どうだろうなあ……ま、なるようになるんじゃないかな。俺たちが嫌なら、遠慮せずに離れるような人だろうから、旅に同行してる以上は、気にしなくていいと思うね」


「予防策を聞いてんのよ、馬鹿」


全くもう、と眉間を抑えて、ミカノは式神を憑依させた目で辺りを見渡し、皆に採るべき野草を指示する。


予防策、ねえ。他者に対して、抜き身の刀のような、ギラついた目をしているタムアという人は、此方と仲良くなろう等と考えているのだろうか。分からない。分かりたいものだ。


そんな事を考えながら、そこら中を歩き回って、やっとこさ、ある程度の食料を集め終わった俺たちは、他の街と比べて、非常に薄い結界の張られた村へ帰還した。


すると、カルロが額に大粒の汗を浮かべ、泣きそうな顔をしながら、こちらに向かって走ってきた。


「やべえよ、どうしよう!俺、タムアさんを怒らせちまった!もう俺たちの旅には付き合えないって、この村を出て行っちまった!」


発言に驚きながら、聞き取りづらい、と思うほどに早口で喋るカルロを、落ち着けとなだめて、どういう事か、と俺は尋ねた。


「沈黙に耐えきれなくてさ、軽く話してたんだよ、なるべく当たり障りが無いように!でも、何かが彼女の逆鱗に触れちまった!すまねえ、ホント情けねえ……!」


「どんな言動がキッカケで怒らせてしまったのか、分かるか?」


「……それは……」


カルロが、心当たりが無い、と困惑したような表情で口をつぐんでいると、トーエが、事の顛末を滔々と話し出した。


「旅は大変、俺は炎命者じゃない、しかし他の皆は炎命者だ、タムアさんも炎命者だったよな、頼もしい、頼りにさせてもらう……そんな流れじゃったかのう。妾も、なだめはしたのじゃが」


二人して、止められなかった自分の不徳を責めるように、バツが悪そうな顔をする。が、起こってしまった事は仕方ない。


「あの人は炎命者だ。一人でも大丈夫だろうが……良いのかな」


何というか、気に入らなかったから旅を抜ける、というのは、タムア自身が選択した結果なのかもしれないが、本当にそれが彼女にとって、良い事だったのだろうか。


彼女は確かに、他者に対して刺々しいような態度をとったりもしたが、しかし一度は、俺たちの旅に同行しようとした。たとえそれが、戯れの余興だとしても、他者と関わるのが、根っから嫌、というわけでは無いはずだ。


そのはずなんだが……しかし、それならカルロの言動の一体何が気に障ったというのだろう……皆目検討がつかない。しかし、炎命者というのは、普通の人とは少し違った信念や信条を持っていたりするものだ。何がその人の地雷なのか、分かったものではない。


「何か俺の発言がタムアさんの気に障ったのなら、謝りたい」


カルロは、俯き、しょぼくれていた。自分の不手際で人を、それも女性を怒らせてしまった、という事にショックを受けていた。彼の気持ちも十分分かる。


「それなら、タムアさんを追いかけて、謝る事はしましょう。その結果、あの人がそれを許してくれるかとか、旅に同行してくれるかは、ともかくとして」


セレインの言葉に、カルロは強く頷いた。カルロ一人では仇魔相手にひとたまりも無い。俺とセレインが護衛をする事になり、いざタムアを追って街の外に出ようとした、その時だった。



結界の外から、タムアが血を撒き散らして回転しながら、まさに飛来した。彼女の片腕は切断されたような跡があり、脇腹もえぐれていたが、瞬きほどの間に、五体満足に回復していた。


「だっ……大丈夫ですか!?仇魔にやられたんですか!?」


カレンがタムアに駆け寄り、珍しく声を張った。タムアはそれを払いのけるような仕草をして、何も無かったかのような、澄ました顔をしている。


「けっ……鬱陶しい連中だぜ、仇魔ってのは」


がしがしと頭をかき、情け無いぜ全く、と愚痴っぽく呟くタムア。そんな彼女の様子を見て、トーエは少し考え込んでいた。


「炎命者が仇魔に圧されたというのか……?ならばその仇魔、一体どれほど……」


小さく呟いた彼女の言葉に、タムアは眉を釣り上げた。


「何が炎命者だ……!言葉に、概念に踊らされやがって!」


タムアは、そう声を荒げた後、ふう、と疲れ切った者のするような、重いため息を吐いた。


「……安心しな、大した強さじゃねえよ。だけどよ、オレはそんな大した事ない仇魔すら倒せてない……笑いたきゃ笑えよ、笑えるだろ?炎命者のくせに、仇魔を倒す力もありゃしねえ……オレに出来る事といえば、死なない事だけだ。自分の身を守る事、それだけだ」


そういうわけでオレは戦えねえからな、精々頑張りな、とタムアは呟くと、気怠そうに腰を上げて、村にある井戸の方へ向かって、寂しげな背を揺らしながら歩いていった。


カルロが、怒らせてしまった事を謝ろうと、彼女のあとを追いかけたが、彼女は少しもカルロの方を見ずに、もういいって、とだけ言って、相手にしようとしなかった。


タムアの目には、海のように深い疲弊の色が浮かんでおり、肩のラインは下降線を描いていた。苦労している、という言葉で済ませていいのかは分からないかが、とにかくそんな状態のようだった。



程なくして、地面が激しく揺れ動く音がした。仇魔が、この村へやって来る、その合図だ。


「ほう、来たか!この村を守るための力、妾の力……ここで振るえずば、おっとり刀もいいところじゃな」


トーエは笑みを見せ、意気揚々とした様子で、来たる仇魔を目に入れようと、炎のような馬で結界の方へ駆けた。

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